旬のダンサーたちとリーディングによりドラマティックな美を構築、伝説の大ヒットバレエ漫画を舞台化した『SWAN -Ballet cross Reading-』
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小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
バレエとリーディングで描く注目の舞台『SWAN -Ballet cross Reading-』が、この秋新国立劇場 中劇場で幕を開けた。原作は、シリーズ累計発行部数2200万部を誇る有吉京子の『SWAN-白鳥-』。いわずとしれたバレエ漫画の金字塔で、連載50周年を迎えた今年、初の舞台化を果たした。
舞台では役者がリーディングでキャラクターの心情を語り、バレエダンサーが同じキャラクターを踊って身体で表す。いわば二人一役で、役者とダンサーが一つのキャラクターを表現していくという、これまでにあまりない試みであり非常に興味深かった。
本公演で描かれるのは、原作漫画の前半部分で、脚本・演出を小林香が、バレエ監修・振付を福田圭吾、振付・ステージングを大野幸人が担当。バレエキャストにはバレエ団の枠を超え、プリンシパルをはじめ人気スターダンサーたちが顔を揃えた。

提供:日本テレビ(写真はすべてゲネプロより)

提供:日本テレビ
物語は1976年、ボリショイ・バレエ団来日公演のシーンから始まる。幕が上がると、マヤ・プリセツカヤ役の倉永美沙と、彼女をリフトで高く掲げるアレクセイ・セルゲイエフ役の今井智也が舞台上にあらわれ、まずそこで惹きこまれる。2人がボリショイ・バレエ団来日公演でブラックスワンを踊る場面という設定で、観客はヒロイン・聖真澄の視点に立たされる。何とも心憎い演出だ。
ヒロイン・真澄に扮する飯島望未が愛らしい。まさに有吉漫画が舞台に蘇ったように、ピュアで健気で純真で、生き生きと十代の少女になりきってみせる。古典から創作作品まで数多の作品で主演を務め、さまざまな顔をみせてきた飯島望未だが、その演技力の高さに改めて唸る。セルゲイエフ役の今井智也は感情を抑えつつ芯に熱を感じさせ、京極小夜子役の米沢唯は気高く超然とした佇まいで役どころを表現。井桁弘恵、福士誠治、村川絵梨らリーディングの役者たちとイメージが複合して、各々のキャラクターが舞台空間で存在感を現し生きていた。
バレエ団の垣根を越えた異色の共演はこの公演ならではの醍醐味の一つ。作中は音楽監督の大貫祐一郎によるピアノの生演奏と共に、クラシックの名場面をプリンシパルたちが踊る。ダンスシーンは驚くほど充実し、期せずしてガラ公演となった。『ライモンダ』『シンデレラ』では飯島望未と米沢唯が肩を並べて踊り、『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥでは亜鷺悠加役の中野伶美、飯島望未、米沢唯が入れ替わりセルゲイエフ役の今井智也とペアを組んで踊るという構成で、バレエ監修を務めた福田圭吾のアプローチが冴える。さらに飯島望未が踊る『四羽の白鳥』に、飯島望未と中野伶美が繰り広げる黒鳥のフェッテ競争、秋元康臣の演じるロットバルトなど、普段目にすることのないシーンも観られる。ウクライナ国立バレエ団のオリジナルレパートリー『森の詩』はなかなか日本では上演の少ない演目で、今回の抜粋上演はバレエファンにとってはうれしく、これもまた貴重な機会となった。
レッスンシーンも興味深い。ズラリと並んでバーにつき、プリエにタンジュと稽古に励む、ダンサーの美しいポジションに目を奪われる。
コンテンポラリーダンスもふんだんに盛り込まれ、これもまた新鮮な印象だ。初恋のときめきを初々しく踊る飯島望未に、ライバルとの葛藤をあらわにする柳沢葵役の中島瑞生、絶望を訴える米沢唯の慟哭は壮絶で痛々しい。特筆すべきは、プリセツカヤ役の倉永美沙による『瀕死の白鳥』で、フルバージョンで披露される。日本人の中でも小柄な倉永美沙だが、舞台では不思議と大きく見える。死に向かう白鳥の演技は壮絶で、圧巻のひと言だった。

提供:日本テレビ

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若き未来のバレリーナたちの、バレエだけを見つめる日々は、迷いもあれば、失意も、希望もある。私はあんなふうには踊れない、自分よりできる人がうらやましい、負けたくない......と、役者たちが口にする台詞の一つ一つが胸を打ち、キャラクターを体現するダンサー自身に思わず重ねてしまう。50年前に日本バレエ界を切り開いてきたバレリーナの成長物語を、現代を代表するトップダンサーが踊る、それは感慨深いものがある。
ラストは『白鳥の湖』で幕となり、舞台冒頭から未来へ物語を繋げている。原作漫画の世界をみずみずしく描いた本公演。とりわけ小林香の脚本演出が光り、原作にリスペクトを持ちつつ、言葉と動きの細部に一つ一つ意味を与え、役者とダンサーが生み出すキャラクターに血を通わせた。キャストもみな誠実に役に向き合い、漫画のキャラクターたちを違和感なく具現化。ダンサーと役者のジャンルを横断し、双方の魅力を高め合う、新たな舞台作品を生み出していた。
(2026年9月7日 新国立劇場 中劇場)

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