ベテランも若手も切磋琢磨し、期待を超える成果が得られた見応えのある舞台、東京バレエ団『海賊』
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ワールドレポート/東京
佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki
東京バレエ団
『海賊』アンナ=マリー・ホームズ:振付(マリウス・プティパ、コンスタンチン・セルゲイエフに基づく)
東京バレエ団がアンナ=マリー・ホームズ版『海賊』を5年振りに上演した。地中海を舞台に、海賊の首領コンラッドと奴隷の少女メドーラの愛を、仲間との友情や裏切りなどを絡めてスペクタクルに描いた大作で、これまでに様々なヴァージョンが創られてきた。『海賊』は、イギリスのロマン派詩人、バイロンの同名の叙事詩によるもので、最初にバレエ化されたのは今からちょうど200年前の1826年で、ジヨバンニ・ガルゼラーニがミラノ・スカラ座で手掛けたのだが、その後、失われた。1856年にはパリ・オペラ座でジョセフ・マジリエが原作の物語を大幅に改変し、アドルフ・アダンの音楽を用いてバレエ化したものが人気を呼んだが、パリでの上演は途絶えた。一方、ロシアでは、マジリエ版を基に、ジュール・ペローやマリウス・プティパらが、音楽を追加するなど手を加えて新たなヴァージョンを生み出した。
アンナ=マリー・ホームズはカナダ生まれのダンサーで、様々な国のバレエ団で活躍した後、今は指導者として活動している。『海賊』の制作に当たっては、今やこの作品の原典とされるプティパの1899年の最終改訂版と、自身がキーロフ(現マリインスキー)バレエに留学中に学んだコンスタンチン・セルゲイエフ版(1973年)に範を求め、1997年、当時、芸術監督を務めていたボストン・バレエで発表した。マイムを大幅に減らして男性の踊りの見せ場を増やしたこと、第3幕のオダリスクのパ・ド・トロワを第1幕に移して各幕の男女の踊りのバランスを図ったこと、壮大なスケールの物語をスピーディーな展開で分かりやすく提示したことなどが評価され、アメリカン・バレエ・シアターやミラノ・スカラ座バレエでも上演されるようになった。東京バレエ団による初演は2019年で、21年に再演。今度が3度目の上演である。

© Shoko Matsuhashi

© Shoko Matsuhashi
『海賊』では、高度なテクニックが求められる登場人物が多く、勇壮な男性群舞があり、優美な女性群舞もありで、ダンサーにとってもバレエ団にとっても実力をアピールできる演目である。今回は、工事中の東京文化会館に代わり、新国立劇場オペラパレスで5回の公演が行われた。主要な役にトリプルキャストが組まれたことに、ダンサーの層の厚さが見て取れた。海賊の首領コンラッドは、トップ・プリンシパルの柄本弾と、令和7年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した宮川新大と、今回が初役の生方隆之介。奴隷の娘メドーラは、進境著しい秋山瑛と、初役として挑む伝田陽美と中島映理子。コンラッドの奴隷アリは、初演時から務めている池本祥真と、日替わりでコンラッドも演じる生方隆之介、今回が初役となる躍進目覚ましい二山治雄。奴隷の娘ギュルナーラは、実力をつけてきた三雲友里加、金子仁美、長谷川琴音の3人。奴隷商人ランケデムは、初役となる樋口祐輝と本岡真也に、日替わりでアリも踊る池本祥真という布陣だった。このうち、コンラッドの柄本とメドーラの伝田が組んで踊った初日を観た。
コンラッドらを乗せた海賊船が航行する短いプロローグに続き、第1幕の冒頭、幕前で奴隷商人ランケデム(樋口祐輝)が部下に命じて娘たちを奴隷として連れ去るシーンを見せた後、すぐに賑やかな市場に切り替わった。仲間を引き連れて登場したコンラッド(柄本弾)は、爽快なジャンプで舞台を飛び回った。コンラッドと競りにかけられる奴隷メドーラ(伝田陽美)は、目と目が合った瞬間、恋に落ちた。
コンラッドはメドーラに近づこうとするたびに、金を要求するランケデムに阻まれる。ランケデムは総督パシャ(山田眞央)に3人の娘を売りつけようとして拒まれるが、売られる娘の踊りとして挿入された"オダリスクのパ・ド・トロワ"では、涌田美紀、中島映理子、平木菜子が、それぞれ端正な踊りを披露した。ランケデムがギュルナーラ(三雲友里加)を差し出し、共に踊ってその魅力を引き立てると、パシャは彼女を気に入って買った。ギュルナーラの三雲は、奴隷に売られる憂いを滲ませながら伸び伸びとしなやかに舞い、ランケデムの樋口は的確にサポートし、力強いジャンプを見せた。最後に競りにかけられたのはメドーラで、その美しさの虜になったパシャに買われてしまう。美女に目のないパシャの滑稽さを山田は軽妙に表出し、メドーラの伝田はコンラッドに救いを求める視線を送りつつ、パシャに対しては物怖じなどせず、からかうようにあしらうなど、堂々と踊った。
競りが終わると、ビルバンドら海賊の男女による賑やかな踊りが始まった。ビルバンドの鳥海創の鋭い脚さばきや、恋人アメイの政本絵美のしなやかな身のこなしが目を引いた。彼らの群舞でドラマの緊迫感が弛んだように思えたが、後方ではコンラッドがアリ(池本祥真)にメドーラの救出を指示する姿をしっかり見せていた。海賊たちが、メドーラや奴隷の娘たちのほか、ランケデムも一緒に連れ去るところで第1幕は終わった。

© Shoko Matsuhashi

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第2幕の海賊が潜む洞窟の場は、見応えある踊りが満載。コンラッドとメドーラは愛を確かめ合い、海賊たちは略奪した財宝のほか、奴隷の娘たちやランケデムも連れ帰ったことを喜び、ひとしきり踊りに興じた。最も注目を集めたのは、もちろんコンラッド、メドーラ、アリによるグラン・パ・ド・トロワで、アリにとっては唯一の踊りの見せ場である。それだけに、アリの池本は強靭なジャンプに吸い付くような着地、高速の回転技など、ダイナミックな演技で目を奪った。メドーラの伝田は最初のうち硬さを感じさせたが、しなやかに身体を反らし、ダブルを入れたフェッテをきれいにこなすなど、抜群の安定感をみせた。コンラッドの柄本は、ここではアリに華を持たせた形だが、持ち前の逞しくも伸びやかなジャンプをみせた。
銃を打ち鳴らして登場したビルバンドの鳥海は、荒くれ者らしい癖のある脚さばきをみせ、アメイの政本は小気味よいステップで軽快に応じ、これに4組の男女も加わり、活力あふれるダンスが繰り広げられた。メドーラが奴隷の娘たちの解放を懇願すると、コンラッドは猛反対するビルバンドを制して娘たちを自由にしてやったが、ビルバンドを威圧する柄本の迫力はさすが。これに続くコンラッドとメドーラの寝台の前のデュエットでは、伝田は身も心も委ねるように柔らかに身体をしなわせ、柄本は様々な形で彼女をリフトし、愛する喜びを抒情性豊かに謳いあげた。一方、ビルバンドはランケデムと共謀し、眠り薬を振りかけた花をメドーラに渡してコンラッドを眠らせて殺そうとするが、メドーラの反撃に遭い、腕を刺されてしまう。隙をついてランケデムがメドーラを奪って逃げたので、取り残されたビルバンドは、コンラッドを殺すこともできず、取り繕うようにコンラッドに忠誠を誓い、共にメドーラの奪還へと向かった。
第3幕はパシャの宮殿。パシャはメドーラが連れ戻されたことで有頂天になり、幸せに浸ってオダリスクたちが花園で踊る夢を見る。「踊る花園」では、ピンクのチュチュを着て大きな花輪を掲げた女性たちがフォーメーションを変えながら整然と繰り広げる群舞に、ギュルナーラとメドーラのソロも編み込まれ、この上なく典雅な雰囲気を匂い立たせた。目覚めたパシャは、巡礼者に変装したコンラッドの一行を何の疑いもなく迎え入れて一緒に祈りを捧げた。正体を現した海賊たちは護衛兵を倒し、メドーラとギュルナーラを救い出した。ビルバンドの裏切りを知らされたコンラッドは、襲いかかろうとする彼を銃で撃ち、メドーラたちと共に海賊船に乗り込む。無事に出帆したものの、突然の嵐で船は沈没。奇跡的に生き延びたコンラッドとメドーラが抱き合う姿を浮かび上がらせて、エピローグは閉じられた。少々寂しくも感じたが、二人の運命的な愛を際立たせるエンディングと納得した。

© Shoko Matsuhashi

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ホームズ版『海賊』は、繰り返しになるが、コンラッドとメドーラの愛の物語を、仲間との絆や抗争、裏切りなど、男たちのドラマで肉付けし、エンターテインメント性も加味して、ダイナミックなダンスシーンをテンポ良く連ねて描いた作品である。ストーリーは入り組んでいるようでいて極めて明快。展開されるダンスは実に多彩で、難度の高い振付が散りばめられている。男性ダンサーによる見応えある踊りが増やされているのもホームズ版の特色である。バレエ団の総体的なレベルが様々な形で問われる作品だけに、優れた男性ダンサーを数多く擁する東京バレエ団にとって、繰り返し挑戦しがいのある作品に違いない。実際、舞台はバレエ団の力を結集したように、入念にダンスでドラマを息づかせており、ダンサーから放たれるエネルギーに圧倒される思いがした。
3度目の上演だが、初演から同じ役のダンサーや、今回が初役の人、日替わりで異なる役を務めるダンサーなど、意図的に織り交ぜたキャスティングも、効果を生んだようだ。同じ役のダンサー同士の競争心を刺激するだけでなく、異なる役を演じることで、作品や役との取り組みは間違いなく深まるものだからだ。全キャストを観たわけではないが、ベテランも若手も共に切磋琢磨したことで、期待を超える成果が得られたのではないだろか。その意味でも見応えのある舞台で、次はもっと深化させるのだという意気込みも感じさせる舞台だった。
(2026年8月26日 新国立劇場オペラパレス)
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