今を生きるバレエダンサーたちの等身大の魅力が増幅された新感覚の舞台「BALLET TheNewClassic 2026」

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

BALLET TheNewClassic 2026

クリエイティブディレクション:井上ユミコ、プロデューサー:堀内將平

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© Fukuko Iiyama

伝統と格式を誇るクラシックバレエに、クリエイターたちによる斬新な衣裳や演出を行い、バレエの新しい魅力を表出することを目指した「BALLET TheNewClassic」。フォトグラファーの井上ユミコが企画、元K-BALLET TOKYOプリンシパルの堀内將平が舞踊監修と振付・出演し、2022年、2024年と開催された。3回目となる今回は、井上がクリエイティブディレクション、堀内はプロデューサー兼振付を担当した。会場フォワイエには、流木や枝、蔓などの花材とともに、たくさんのバレエ衣裳の一つ一つの内部に灯りが灯された装花が来場者の目を引いていた。華道家、上田雄次の作品だ。

第1部は、ストリート・ダンサー、コンテンポラリー・ダンサーであるリオン・ワトリー振付による『444』(新作)でスタート。音楽はShaun Kono-Peck。重低音のビートが鳴り響くなか、飯島望未がせり上がった舞台機構の上で、キレのいいソロを踊った。バレエダンサーならではの上半身のしなやかさが光った。世界的シンガーソングライター、ビリー・アイリッシュの「HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR」(2024年)の冒頭で、ビリーを乗せたケージが昇降する演出に想を得ているという。「BALLET TheNewClassic」ならではの革新的志向性を明確に打ち出すオープニングだった。

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『444』飯島望未 ©Fukuko Iiyama

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『眠れる森の美女』よりローズ・アダージョ 中村祥子 ©Fukuko Iiyama

続く『眠れる森の美女』よりローズ・アダージョは、ベルリン国立歌劇場やK-BALLET TOKYOなどでプリンシパルとして活躍してきた中村祥子が、成熟した大人の魅力を振りまくオーロラ姫として、7人の男女の従者にかしずかれながら舞台に君臨。振付にあたった堀内は、ヒロインの設定を原典の16歳の乙女から、中村自身の年齢に近づけ、4人の求婚者たちも7人の男女の崇拝者へと変更した。秦絢子による編曲も落ち着いた曲調で、円熟した女性を象徴するような雰囲気が感じられた。中村のチュールたっぷりの赤い衣裳は咲き切った薔薇、すなわち充実した年月を過ごしてきた女性の人生を象徴するシンボルとなり、舞台上から舞い散る赤い薔薇の花びらが、舞台をドラマチックに彩った。

堀内振付、Shaun Kono-Peckの『Coppélia』は、AI(横山瑠華〈テューリンゲン州立バレエ プリンシパル。9月よりK-BALLET TOKYOシーズンプリンシパルに就任予定〉)に恋する青年(南江祐生〈東京バレエ団ソリスト〉)を描いた。美少女の形態でAIが青年の前に登場するシーンは、SF映画に登場するUFOから宇宙人が降り立ったかのようなミステリアスな雰囲気の照明から始まった。ネザーランド・ダンス・シアターの照明チーフとして活躍した久松由香のデザイン(照明・空間)による。横山はカタカタとぎこちなく動き、青年と踊るデュエットでは抑揚がなく、アンドロイドのように機械的な動き。一方、南江のなめらかな踊りには、青年期のナイーブさが現れているようだった。

ソ・ユンジョンと三宅啄未は『ドン・キホーテ』より グラン・パ・ド・ドゥを披露。三宅の高さある力強い跳躍や回転技に、観客は目を奪われた。ソもキトリを可憐に演じた。アメリカン・バレエ・シアターの未来を担う二人の今後が楽しみだ。ペーパームーンと星が吊り下げられたファンタジックな舞台は、フレッシュな二人の魅力を引き立てた。

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『Coppélia』横山瑠華、南江祐生 ©Fukuko Iiyama

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『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ ソ・ユンジョン、三宅啄未 ©Fukuko Iiyama

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『白鳥の湖』第2幕よりアダージョ 日髙世菜、中村瑞生 ©Fukuko Iiyama

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『Charles』吉山シャール・ルイ ©Fukuko Iiyama

『白鳥の湖』よりアダージョは、オデット姫とジークフリート王子の出会いという設定から、二羽の白鳥のパ・ド・ドゥへ変換されていた。日髙世菜(K-BALLET TOKYOプリンシパル)と中島瑞生(新国立劇場バレエ団ファースト・アーティスト)は羽根飾りがあしらわれたユニタード姿。舞台背面に複数置かれたアクリル板に二人の後ろ姿が映され、群舞を暗示させた。日髙がアダージョに乗せて紡いでいく優雅さに、中島の雄々しい白鳥の表現が加わり、二羽の白鳥の関係性が様々に想像されるような世界観の広がりを感じた。

『Charles』はチューリヒ・バレエ団のプリンシパル、吉山シャール・ルイのために堀内が振付した作品。作曲した大宮理人が舞台でチェロを奏でた。高揚していく音色に呼応するように、吉山は内に秘めていた感情を爆発させる孤高の魂を熱演。吉山が激しく動くと、彼がまとっていた、羊毛が粗く編まれたマント(KAKANデザイン)が宙を舞い、鋼のような肉体が露になった。人間が本来もつ野性を表現した吉山の存在感は圧倒的だった。

『Every Time I Feel The Spirit』は、ウィーン国立バレエ プリンシパル三森健太朗とゴスペル歌手のMARISAによるコラボレーション。振付は、スウェーデン王立バレエ団のウィリアム・デュガン。2024年までスウェーデン王立バレエ団に在籍していた三森の友人でもある。髪の毛を逆立てたヘアスタイルにオレンジの衣裳を着た三森は、道化的なポップ・アイドルになりきって、MARISAのソウルフルな歌声に合わせてファンキーに踊った。バレエテクニックも満載で、アラセゴン・ターンなどの回転技のときには、衣裳のフリンジが舞い上がり、シルエットが広がって視覚の変化を楽しむことができた。

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『Every Time I Feel The Spirit』左より、MARISA、三森健太朗 ©Fukuko Iiyama

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『BALLET Lesson』©Fukuko Iiyama

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『BALLET Lesson』©Fukuko Iiyama

第2部は、ダンサー12名総出演による堀内が振り付けた『BALLET Lesson』。休憩中にバーとピアノ、DJブースが運び込まれ、レッスン着に着替えたダンサーたちが荷物を抱えて舞台に入ってきた。思い思いにウォームアップをしたり、パートナーと一連の動きを踊って確認したり、談笑したり、ピアノを弾く姿も。砂川卓也(mister it.)が個々のダンサーを観察してデザインしたというレッスン着は、型や着こなしは様々だが、紺と白で統一され、洗練された印象だ。一列に並んでのバーレッスンは、バレエの美の根源を見た思いだった。センターフロアでの動きは、統一された動きから、次第に即興的な様相を帯び、ダンスバトルのような白熱した展開に。音楽もチャイコフスキーなどの古典バレエのピアノ曲から、DJによるグルーヴ感あふれるサウンドに変わり、ジャンプやターンなど超絶技巧が繰り広げられた。男女や男性同士、女性同士のデュエット、女性・男性別のアンサンブル、女性ダンサーが男性の力強い技に挑戦するなど、ダンサー同士が互いをリスペクトし合い、自由でリラックスした雰囲気が観ていて心地よかった。

映画や音楽、ファッションショーやアートイベントなど幅広い分野から想を得た現代的でクリエイティブな演出の中で、今を生きるバレエダンサーたちの等身大の魅力が増幅されていたように感じられた、新感覚の舞台だった。
(2026年7月31日 新国立劇場 中劇場)

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