千葉市美術館で特別上演「おとぎの国をめぐる踊りと音楽」開催。「薄井憲二バレエ・コレクション」をダンスと音楽で
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小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera

『牧神とニンフの午後』関典子
Photo by Juichi Takahashi
千葉市美術館にて、この夏ダンスと音楽の特別上演「おとぎの国をめぐる踊りと音楽」が開催された。同館の企画展「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」に兵庫の「薄井憲二バレエ・コレクション」より収蔵作品が展示され、その関連イベントとしての上演である。特別上演は1日限り、昼夕2公演。特別上演の監修を、薄井憲二バレエ・コレクション・キュレーターでダンサー、神戸大学准教授の関典子が務めている。
プログラムは、『牧神とニンフの午後』『青い鳥』『シェヘラザード』『シンデレラ』の4演目。いずれも美術館の企画展にちなんだ作品である。
特別上演の会場となったのは、館内1階にある「さや堂ホール」。戦前の旧川崎銀行千葉支店だった築約100年の千葉市指定有形文化財であり、同館の象徴的建造物でもある。ホール内は大理石の柱が連なり、ひんやりとした質感も相まって、重厚な雰囲気が漂う。会場に座席の用意はなく、観客はホール内を移動しながら自由に観てまわる。生演奏の音楽と共に、ダンサーの動きを間近に体感するという試みだ。
三浦栄里子のピアノ伴奏が始まると会場は静まりかえり、重々しい空気に包まれていく。本作は関典子振付のソロ作品で、観客がぐるりと取り囲むなか、関が会場中央のせり台の上で踊った。
『牧神の午後』はバレエリュスの時代にニジンスキーがドビュッシーの楽曲に振付・主演した伝説の作。ニジンスキーが踊る『牧神の午後』の映像は現存せず、絵と写真が残されているのみだ。評伝はさまざまあるものの、実際のところどんな動きだったのか。関はその空白に挑み、イメージの創造を身体を通して訴える。せり台の上でゆっくりと動き始め、平面におろした手のひらに、折り曲げた膝と、ニジンスキーを象徴するポーズを体現していく。かと思えば、すとんと身体を落とし、別の何かに成り代わる。それは人間にも見え、また獣にも、彫像にも見える。牧神とニンフを一つの身体で表現するのが本作の面白さ。何気ない仕草で7人のニンフたちを身体の細部に宿し、そのわずかなニュアンスが想像力をかき立てていく。関はヴェールの衣裳で終始表情を隠し、身体のラインをあらわにする。それはどこまでも艶やかで、ニジンスキーがパリの初演時、衝撃を与えたというエロスの美を彷彿とさせた。
『青い鳥』を踊ったのは、貞松・浜田バレエ団の後藤俊星。企画展に薄井憲二バレエ・コレクションより1920年代にスタニスラス・イジコフスキーが着用した衣裳が出展され、それを後藤の体型に合わせて復元したという。実際に美術館で実物の衣裳を目にしたが、刺繍や宝飾のあしらいなど、その再現度の高さに驚かされた。
ヴァイオリンの音色が響くなか、後藤が青い鳥の衣裳を纏い、観客の合間をぬうように羽ばたき、彷徨う。クラシカルな衣裳がホールの雰囲気に溶け込み、どこか神秘的な印象だ。
『シェヘラザード』は、佐藤一紀のヴァイオリンと三浦のピアノ演奏で、フリッツ・クライスラーによる編曲盤を用いている。バレエリュスで知られる『シェヘラザード』だが、歴史あるホールがその音色に深みをもたせるかのよう。

『牧神とニンフの午後』関典子
Photo by Juichi Takahashi

『青い鳥』後藤俊星(衣裳デザイン:レオン・バクスト、再現制作:鷲尾華子)
Photo by Juichi Takahashi

『シンデレラ』若林絵美・後藤俊星
Photo by Juichi Takahashi
ラストは『シンデレラ』。後藤と薄井憲二バレエ・コレクションのアシスタントを務める若林絵美がデュオを踊っている。会場後方から王子が、中央からシンデレラがあらわれ、一目で惹かれ合い、そしてワルツを踊り出す。観客は舞踏会に招かれたゲストという設定で、全ては観客の目の前で繰り広げられる。リフトにピルエットと、ダンサーの技をここまで間近に目にする機会はそうはないだろう。12時の鐘が鳴ると、シンデレラが駆け出し、王子がその後を追う。ガラスの靴のトゥシューズを手にした王子がシンデレラを伴い、そこで幕となる。その巧みな演出に引きこまれた。
美術館で開催された企画展「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」では、薄井憲二バレエコレクションより、バレエリュスの公式プログラムや、1916年のレオン・バクストによる『シェヘラザード』の舞台デザイン、1893年に上演された帝国マリインスキー劇場の『シンデレラ』の台本など、貴重な資料の数々が展示され、こちらも非常に見応えがある。薄井憲二バレエ・コレクションの総数は約6,500点を数え、世界でも有数の規模を誇るというが、個人の力でここまで成し遂げた偉業に改めて感じ入る。
同美術館ではダンスとのコラボレーションは初の試みだというが、上演、展覧共によく練られた好企画で、充実の時間を味わった。
(2026年8月16日 千葉市美術館)

『青い鳥』後藤俊星(衣裳デザイン:レオン・バクスト、再現制作:鷲尾華子)
Photo by Juichi Takahashi

『シェヘラザード』佐藤一紀・三浦栄里子
Photo by Juichi Takahashi

「トーク」関典子と『牧神の午後』(レオン・バクスト画、ワツラフ・ニジンスキー)
Photo by Juichi Takahashi

「トーク」関典子と山下彩華(千葉市美術館学芸員)
Photo by Juichi Takahashi

『シンデレラ』佐藤一紀・若林絵美・後藤俊星・三浦栄里子
Photo by Juichi Takahashi
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