"炎の復活祭"を皮切りに、日本での活動を本格化するイワン・ワシリーエフにインタビュー
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ワールドレポート/東京
インタビュー=香月 圭
ロケットのように爆発的なパワー溢れる踊りが持ち味のスターダンサー、イワン・ワシリーエフ。2024年12月27日に引退を表明後、2025年8月川越で開催された『Alexandrite Gala 2025 -最後のワシリーエフ-』で、観客の熱狂的な歓声によって、再び舞台へ立つ決意を新たにした。8月18日~20日には、"炎の復活祭 "と銘打ち、マリインスキー、ボリショイ、ドレスデン、サンフランシスコ、K-BALLET、谷桃子バレエ団と国境を超えてダンサーが集結する『Alexandrite Gala -炎の復活祭-』、さらにクイーンの9曲を使用した、ワシリーエフ自身による新作『LOVE OF MY LIFE』が上演される。ガラ公演では、ワシリーエフが近年封印してきた『パリの炎』のグラン・パ・ド・ドゥを、飯島望未(18、20日)、栗原ゆう(19日)と披露する。また、ワシリーエフは今年7月に新設された「Alexandrite World」 の芸術監督にも就任している。来日したワシリーエフに急遽、話を聞くことができた。

イワン・ワシリーエフ『Alexandrite Gala 2025 -最後のワシリーエフ-』フィナーレにて
――「Alexandrite Gala -炎の復活祭-」では、長く封印されていたご自身の代名詞ともいえる『パリの炎』グラン・パ・ド・ドゥを日本のお客様のために解禁しようと決意した理由をお聞かせください。
ワシリーエフ 『パリの炎』は体力的にもハードな演目です。他の案件で忙しいこともあり、最近は踊る機会が少なくなっています。昨年の『Alexandrite Gala 2025 -最後のワシリーエフ-』では、お客様に喜んでいただけただけでなく、僕の中の踊りたいという純粋な気持ちを取り戻させてくれました。踊りを継続する意欲を回復させてくれた、大切な日本のお客様のためだったら、ということで解禁しようと決めました。
――『パリの炎』は今回で見収めとなるのでしょうか。
ワシリーエフ 日本のお客様は昨年の公演をサポートして支えてくださいました。本番の舞台では、僕のこれまでのキャリアに対してリスペクトの気持ちが、お客様から伝わり、感慨深い思い出となっています。『パリの炎』を踊るのは、現時点では最後にしようというふうに思っていますが、今後の展開については、お客様の反応を見てみたいと考えています。今は、一生踊っていたいような気持ちになっています。
――『パリの炎』では、元K-BALLET TOKYOプリンシパルの飯島望未さん(18、20日)、英国バーミンガム・ロイヤルバレエ団プリンシパルの栗原ゆうさん(19日)がパートナーを務めます。時間がない中で、初めて組む相手とどのように息を合わせていくのですか。
ワシリーエフ プロのダンサーとして20年に渡って積み上げてきた経験があるので、同じくプロフェッショナルであるお相手のバレリーナの方と合わせることができるのです。時には、全くリハーサルをしないまま舞台に上がることもあります。
――ワシリーエフさんの復活に華を添えて、マリインスキーやボリショイ、ノヴォシビルスク、ドレスデン、サンフランシスコ、K-BALLET TOKYO、谷桃子バレエ団のトップダンサーが共演しますね。『Alexandrite Gala -炎の復活祭-』についてどのように思われていますか。
ワシリーエフ ガラ公演というのは、全幕バレエとは異なり、祝祭的な雰囲気のある特別な催しのようなものだと思っています。お客様にとっても、楽しむことができて、エキサイティングなものでなければいけないというふうに考えています。そのためには、ハイレベルのダンサーたちを集めることが大切です。彼らはみんな別々の輝きを持っていますが、個性は様々でも、互いにリスペクトし合い、一期一会の舞台を盛り上げてくれるからです。
――「Alexandrite Gala -炎の復活祭-」では、ワシリーエフさん振付のスペシャルソロをポリショイのプリンシパル、デニス・サヴィンさんが踊るそうですが、どのような作品になりそうですか。
ワシリーエフ サヴィンは、現在、ボリショイ・バレエでバレエマスターとしての仕事もあり、お互い多忙なため、彼のための新作を用意する時間が足りませんでした。その代わり、ユーリ・ポソホフ振付、キリル・セレブレンニコフが演出・台本・舞台美術を手がけた、ソビエトが生んだ偉大な天才ダンサー、ルドルフ・ヌレエフの波乱の生涯を描いた『ヌレエフ』(2017年ボリショイ劇場初演、後にロシアでLGBTQ関連法強化の影響を受け、ボリショイ劇場のレパートリーから外された。2026年3月ベルリン国立バレエ団が上演。)より「Letter」と題したソロをサヴィンに踊ってもらうことにしました。
――去年の引退公演では、クイーンの音楽を使って、フレディ・マーキュリーになりきってエキサイトしたフィナーレが話題となりました。今回の『Love of my life』という新作でも、クイーンの音楽9曲を用いて、復活を成し遂げる男のストーリーをテーマにしているということですが、クイーンの音楽は、ご自身にとって、どんな存在ですか。
ワシリーエフ クイーンは僕にとってのインスピレーションであり、小さい時から寄り添ってくれた音楽です。バレエを習い始める頃には夢中で聴いていましたし、今でもずっと愛聴しています。嬉しいときも悲しいときも、僕の感情に寄り添ってくれる存在です。
――『Love of My Life』のストーリーは、復活を成し遂げる男のストーリーだそうですが、ご自身の体験が下敷きになっているのでしょうか。
ワシリーエフ 僕がもし、パラレルワールドに迷い込んだらどんな人生を送るだろうか、と空想して創り上げたストーリーです。主人公のキャラクターは、僕自身のままと言っていいでしょう。
――『Love of My Life』では、ボリショイ、ノヴォシビルスク、日本からは谷桃子バレエ団、スターダンサーズ・バレエ団など様々なダンサーが共演しますが、見どころを教えてください。
ワシリーエフ 世界中のダンサーが集まって1つの作品を創り上げるというのは、初めての試みなので、とても楽しみにしています。 プリンシパルやソリストだけではなく、コール・ド・バレエのダンサーも皆主役という風に捉えて創っています。思わず感動するシーンやコメディ作品のように笑える場面もあり、物語は起伏に富んでいます。ダンサーたちによる美しいデュエットや華麗なテクニックもお楽しみください。
――貴石アレクサンドライトを背中に添えて撮影された、ワシリーエフさんの横顔の写真が目を引きました。光の種類によって緑色から赤色へと色が移り変わる希少な宝石で、ロシア産のものは希少価値が高いそうです。唯一無二の存在感を放つ宝石ということで、ワシリーエフさんを象徴するように思えます。『Alexandrite Gala』という、この貴石を用いたタイトルについて、どのような印象をお持ちですか。
ワシリーエフ そんな風に言っていただけて、ありがとうございます。僕だけでなく、ゲスト・ダンサーたちや、このガラ公演をオーガナイズしてくださっているスタッフ皆さん一人一人が宝石のような輝きを持ち、皆が集まって力を合わせることで、あのような宝石が持つ強い輝きを持った舞台になると考えています。素晴らしい仲間に会えて、僕は幸せです。
――2024年の12月27日に引退を示唆されたとき、どういうお気持ちでしたか。
ワシリーエフ どのダンサーも必ず引退する瞬間というのはあり、踊る機会も減ってきていたので、自分にとってもその時期が近づいているなという実感が出てきました。世界各地で公演を行っていましたが、。そうした生活も少しずつ終わりにして、振付や演出の方面へキャリアを移していこうと思っていました。『スパルタクス』『ドン・キホーテ』など、存分に体を動かすような作品からは、いずれ離れていくことにはなるだろうと思います。

終演後、イワン・ワシリーエフ、福田昂平
――福田昂平さんから、日本での引退公演の企画を聞いた時は、どのようなお気持ちでしたか。
ワシリーエフ 何かの終わりは、必ず何かの始まりでもあるので、ポジティブな気持ちしかありませんでした。
――去年の『Alexandrite Gala 2025 -最後のワシリーエフ-』で、お客様の熱狂的な拍手を受けて、即座に引退を撤回されたということですが、そのときのお気持ちを覚えていますか。
ワシリーエフ 「ショー・マスト・ゴー・オン!」というような気持ちになっていました。
――「Alexandrite World」の芸術監督に就任されましたが、日本滞在の期間も増えるでしょうか。ご家族は、ワシリーエフさんの新たな活動についてどのように受け止めていますか。
ワシリーエフ 人生は芸術的になればなるほど、いいものになると思っています。日本のことは妻と子どもも大好きなので、この仕事を喜んでお引き受けしました。呼んでいただけるなら、いつでも日本を訪れたいという気持ちです。
――この公演はそのクラウドファンディングで運営されていますが、2ヶ月足らずで目標を達成しました。そうした反響の大きさについてどう思いますか。
ワシリーエフ そもそも芸術というのはお客様がいなければ成り立ちません。そういった意味では、反響をいただいていることは、とても良いことだと思います。私たちは設立されたばかりの企業で、まだスポンサーも今のところついておりませんが、お客様からのサポートや反響がたくさんあるということは、非常に良いことだと思います。「前進あるのみ」ということをモットーにしていますが、僕たちはこれから前に進んで行くうえで、お客様がいなければ芸術は成り立たない、ということを忘れないようにしたいと思っています。

福田昂平
――ワシリーエフさんに憧れて、引退公演・復活公演と次々にプロデュースを手がけてきた福田昂平さんについて、どう思っていますか。
ワシリーエフ 僕たちは、踊る人、プロデュースする人というふうに役割分担をしっかりしたうえで、この世界をもっと良くするという、共通の目標を持って進んでいるので、非常に良い関係です。実は、誕生日も同じなんです。
――コール・ド・バレエを経験したことはありますか。
ワシリーエフ プロとしてのキャリアを始めたのが15歳の時です。カザン(ロシア・タタールスタン共和国の首都)の劇場で、『ドン・キホーテ』と『海賊』で、ソリストを飛び越えての主役デビューでした。コール・ド・バレエは10歳のとき踊ったことがあります。 正直に言うと、目立ちすぎるので、コール・ド・バレエとしては、優秀とは言い難いダンサーでした(笑)。
――バレエを始めたきっかけを教えてください。
ワシリーエフ 7歳の時に、ワディム・ピサレフの踊りを見て「これは僕のやりたいことだ!」だと思って、バレエの道に進みました。
――ベラルーシのバレエ学校を卒業されたそうですね。
ワシリーエフ はい。生まれはウラジオストクです。当時、ソ連は世界最大の面積を誇っており、両親は各地を転々としておりました。あるバレエの先生が「この学校はとてもいいよ」とおっしゃったベラルーシの学校に入学し、そこでいい先生と出会いました。
――8月半ばには、ワシリーエフさんをはじめとするプロのダンサーの方々によるワークショップが開催されたばかりです。短時間で学べることは、どういったことでしょうか。
ワシリーエフ 1回のレッスンで、ピルエットやカブリオールなど、高度なテクニックを教えることは無理ですが、バレエを愛するという心、バレエを楽しむ気持ちをお伝えしたいと思います。前向きな態度でレッスンに臨むと、テクニックが自然と上達していきます。
――7月に新設された「Alexandrite World」の芸術監督として、日本のバレエ界にどのように関わりたいと思いますか。
ワシリーエフ 日本には多くの優れたダンサーがいるので、これからいろいろな公演を企画して、様々なダンサーに踊っていただく機会を提供していきたいと思っています。趣味でバレエを楽しんで習っている方々のための公演も企画したいと思います。踊る心があるかどうかが大事で、バレリーナのような体型でない人だから、バレエは無理というふうには考えてほしくないです。僕自身もボリショイ・バレエ学校の入学試験で、バレエに向いていないと不合格になりましたが、現在の僕をご覧ください。バレエの適性の見極めはプロでも難しいのです。
――ワシリーエフさんの活動を楽しみにしている方々へッセージをお願いします。
ワシリーエフ 応援してくださるお客様には心から感謝しています。 今後、楽しい新企画でお客様に喜んでいただこうと、心血を注いでいくつもりです。全てはまだ始まったばかり、いや、正しく言うと、まだ始まりにも至ってない、ウォームアップが終わったぐらいの時期です。今後の展開にご期待ください。
『Alexandrite Gala -炎の復活祭-』
2026年8月18日(火)12:30開演
8月19日(水)12:00開演
めぐろパーシモンホール 大ホール
2026年8月20日 (火)18:00開演
豊中市立文化芸術センター 大ホール
『Love Of My Life』
2026年8月18日(火)18:30開演 (17:45開場)
8月19日(水)17:00開演
めぐろパーシモンホール 大ホール
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