ハンブルク・バレエ団「ニジンスキー・ガラ」 ― シーズンを締めくくるカラフルなフィナーレ
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ワールドレポート/東京
矢沢ケイト
NIJINSKY-GALA Hamburg Ballet
「ニジンスキー・ガラ」ハンブルク・バレエ団
ロイド・リギンズが新たな芸術監督に就任したハンブルク・バレエは、シーズンを締めくくる恒例の「ニジンスキー・ガラ」を開催した。このガラ公演は、終演が深夜にまで及ぶ膨大なプログラムが組まれることが知られており、「今年は5時間半ならばコンパクトだね」という声も聞こえてくるほど。私は初見であったが、ノイマイヤー作品のみならず、多彩な作品をたっぷりと堪能できる充実感のある一夜であった。

© Kiran West
プログラムの構成は、シーズン中に上演された作品や振付家を含むハイライト上演に、他の短編作品を織り交ぜたガラ形式。各演目の上演前には芸術監督のロイド・リギンズが緞帳の前にマイクを持って登場し、観客の笑いをとりながら次の作品を紹介していく。また、客席前方には前芸術監督のジョン・ノイマイヤーの姿が見え、客席からは大きな拍手が送られた。
日本人ダンサーの活躍が見られたことも喜ばしい。ハンブルク・バレエ・スクールの生徒たちが好演した『ヨンダリング』では、幕開きから利田 太一が長い手足を生かして伸びやかに空間を満たし、デュエットを任された駒田鼓幸は、初々しくコミカルな掛け合い表現しながらも、クリーンなテクニックが光っていた。昨シーズンからハンブルクに返り咲いた石崎双葉は、『ラ・ヴェンタナ』にてブルノンヴィルの巧妙なテクニックも着実にこなしていた。

「ラ・ヴェンタナ」© Kiran West

「アンナ・カレーニナ」© Kiran West
お馴染みのノイマイヤー作品も多く盛り込まれていた。一際大きな拍手を呼んでいたのは『アンナ・カレーニナ』のパ・ド・ドゥ。雲が浮かぶ青空の下、アンナ・ラウデール演じるアンナ・カレーニナとエドウィン・ラヴァツォフ演じるヴロンスキーが、長く美しいラインで調和しながら、甘く柔らかいひと時を綴る。おもちゃの電車を押しながらよぎるアンナの息子セルゲイの姿も現れ、抜粋上演でありながらも息苦しくなるような物語のエッセンスを伝えていた。『シンデレラ・ストーリー』では、赤と黒のドレスに身を包んだ華やかな群舞と、シンデレラ(Charlotte Larzelere)と王子(Callum Linnane/オーストラリア・バレエ)のデュエットが上演された。床を転がるようにして想いをいっぱいに表す場面が印象的であった。終盤には『Opus 100 - for Maurice』も。この作品を踊り込み、振りのひとつひとつから今までの人生の旅路が滲み出るようなアレクサンドル・リアブコが、今回はWINN Dance (WHEN, IF NOT NOW?)で活動をともにするマライン・ラドメーカーと共演した。
『EPILOG』の抜粋には、アリーナ・コジョカルが出演し、Aleix Martinez、Caspar Sasseと踊った。ソプラノ歌手Maria Bengtsson、ピアニストのミハウ・ヤウクも加わり、プログラム終盤に花を添えた。

「マタイ受難曲」© Kiran West
ノイマイヤー作品に挑む若き才能たちの姿も見られた。『ヨンダリング』を踊ったのはハンブルク・バレエ・スクールの生徒たち。若さに満ちたエネルギーをたくさん込めて、壮大なガラの幕を開けた。床にバタンと倒れる音や笑い声まで、バレエの舞踊的技法にとどまらず豊富な表現ツールを仕入れて成長していく彼らの姿が垣間見えるかのようであった。プロとしての一歩を踏み出す上級生から、スタート地点に立ったばかりの幼い生徒までが登場し、それぞれの場面のストーリーテラーとして輝いていた。『マタイ受難曲』を披露したのは、ナショナルユース・バレエ のダンサーたち。バッハの旋律のもと、白い衣裳に身を包んだ群舞とシンガー(Maria Bengtsson, Daniel Ochoa)の歌声が呼応していた。
外部カンパニーのダンサーも多く出演していた。『ISLANDS』は、振付を手がけたカナダ国立バレエ団のEmma Portnerと、同バレエ団プリンシパルのHeather Ogdenによるデュエット。決して派手な演出ではないが、暗く静かなピアノ曲の中に、2人を重ね合わせるように設計された身体美が印象的であった。
また、マーサ・グラハム振付作品も織り交ぜられ、振付も色彩デザインにおいてもアクセントとなっていた。2つのグラハム作品を踊ったAnne Souder(マーサグラハム・カンパニー)が観客を魅了した。空っぽの舞台の上にポツンと置かれたベンチに1人の女性が座る『ラメンテーション』。鮮やかな紫色の筒状の布にすっぽり覆われ、見えているのは顔や手先・足先と限られているが、布の中でとられるポジションによって描き出されるラインの変化、その形が醸し出す強い叫びや深い感情に自然と惹き込まれた。優しく憂いを帯びたピアノはミハウ・ヤウクの演奏。『SATYRIC FESTIVAL SONG』では、グリーンやイエローのストライプのロング丈ワンピースに身を包み、長い髪の毛をなびかせながら、高音のフルートの音色に乗せて語りかける。客席をじっと見つめるような目線を送ったり、腰を振ったりと、ところどころコミカルな表情で観客の笑いを誘った。
今シーズンに上演された振付家たちの作品も見られた。前夜にも上演されていた ブルノンヴィル(前夜は『ラ・シルフィード』)からは、『ラ・ヴェンタナ』のパ・ド・トロワ。両手をアンバーに保ちながら行う足さばきや、巧妙にデザインされたアダジオなど、ブルノンヴィル特有のスタイルの中で高度なコントロールを要する作品で、石崎双葉、Charlotte Kragh、Francesco Corteseが奮闘した。バランシン(3月に『セレナーデ』を上演)の『タランテラ』に挑んだのは、長身のAna TorrequebradaとLouis Musin。最も観客が沸いたのは、最後に幕に入る前の2人の掛け合い。高度なテクニックよりも感情が見て取れる場面に心動かされるハンブルグの観客を象徴しているかのような瞬間であった。
最近発表された作品も多く盛り込まれていた。今年2月のミックスプログラム「Fast Forward」でも作品を発表していたXie Xin(Xie Xin Dance Theatre) は、自身の振付作品『FROM IN + & PLUS』(抜粋)で Liu Xueと共演。淡いピンクの衣裳で、流れるように続いていく作品に、客席からは一際、盛大な拍手が沸き起こった。昨年末にハンブルク・バレエにて世界初演されたAleix Martínez振付『ÄTHER』(抜粋)も上演され、Hayley PageとFlorian PohlがKatja Pieweckの歌唱にのせて、アダジオ調のデュエットを披露した。プリンシパルのエドウィン・レヴァツォフの振付作品『DISTANT LIGHT』も上演された。昨年11月に自身が監督を務めるカンパニーHamburger Kammerballettで世界初演された本作は、幾何学模様のような照明デザインや壁(装置)の活用など、新しさも見られる群舞作品であった。Neshama Nashman(バレエ・アムライン)振付『AHD SO AM I』では、シルヴィア・アッツォーニが出演。この日に引退を迎えたEmilie Mazonと共演した。「ハッ」と吐く息の音や笑い声を響かせる長編の作品で、仲良しから次第に変化する2人の関係性を綴った。

© Kiran West

「Shall We Dance?」© Kiran West
公演を締めくくったのは『Shall We Dance ?』より「I Got Rhythm」。お馴染みのガーシュウィンのメロディが響くと、黒いシルクハットとスーツに身を包んだ全出演者たちが次々と現れ、深夜に迫る劇場を華やかに飾った。カーテンコールでは、ダンサーたちが大きなピンク色の花束を抱えて並び、舞台上にはカラフルなカンフェッティが舞い散った。色とりどりの作品を届けるこのカンパニーを象徴するかのような色鮮やかな光景に、何度も幕が上がり、最後まで大きな拍手が送られ続けた。
幕間にはプリンシパルへの昇格も発表された。男性では『タランテラ』を踊ったLouis Musin。 女性は『A CINDERELLA STORY』を踊ったCharlotte Larzelere、 6月に世界初演されたラトマンスキーの新作『WUNDERLAND』でアリス役を踊ったOlivia Betteridge が来シーズンより新たにプリンシパルとして名を連ねる。様々な紫色のアジサイを束ねたブーケが贈られ、舞台上からも客席からも温かい拍手が沸き起こった。
(2026年7月5日 ハンブルク国立歌劇場)

Charlotte Larzelere © Kiran West

Olivia Betteridge © Kiran West
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