マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』のロミオ役、フィッツパトリックに聞く「また、日本公演に出演できて、とてもワクワクしています」

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

鬼才マシュー・ボーンが放つ『ロミオ+ジュリエット』が4月10日~21日、東急シアターオーブで上演される。2019年に初演されたは『ロミオ+ジュリエット』、近未来の反抗的若者たちの矯正施設を舞台に物語が展開し、シェイクスピアの名作が大胆に再解釈されている。ニュー・アドベンチャーズとサドラーズ・ウェルズ劇場の共同製作による再演は、2023年夏より英国内ツアーが始まり、アメリカ、フランスツアーを経て待望の日本初上演が実現する。
日本ツアーでロミオ役を演じるのは、パリス・フィッツパトリック、ロリー・マクラウド、ジャクソン・フィッシュという注目のダンサーだ。今回から<マシュー・ボーンのロミオ>へのインタビューを3回にわたって連続でお届けする。
トップバッターは、2019年の『ロミオ+ジュリエット』初演キャストの一人だったパリス・フィッツパトリック。この公演は映画化され、日本では2020年に劇場公開されている。2018年『シンデレラ』の来日公演では、天使役を演じた。

――2019年の世界初演から4年が経ちましたが、今回はどのような気持ちで舞台に立っていますか。

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パリス・フィッツパトリック

フィッツパトリック この4年間で、人としてもアーティストとしても、大きく成長しました。表現者として、作品に対するアプローチが変わりました。さらに経験を積み、動きやストーリー・テリングへの理解が深まりました。現在の僕の演技はさらに知的で成熟してきたと想いますが、物語を伝えることへのこだわりは、昔も今も変わっていません。素朴で人生経験の浅いロミオというキャラクターに忠実であろうと努めています。動きと演技の面で新たに学んだ知識も取り入れているので、さらに良くなったと思っています。

――初演時のクリエーションに参加されていますね。

フィッツパトリック マシューは、その場にいるダンサーや他のアーティストが自分のアイデアを出し合ったり、何かを試したりすることを好みます。彼は「これをやってくれ」と言って、自分の考えを押し付けるタイプの振付家ではありません。彼は、僕たちダンサーに、ある程度の責任を与えてくれます。僕自身が考えた、振付のアイデアやストーリー・テリングの瞬間が作品に含まれることは素晴らしいことです。ですから、パフォーマーとしての僕にとって、ショーは自分や他のメンバーのアイデアの一部が織り込まれて表現されているので、特別なものとなっています。
初演のツアーでは、ロミオの役を演じた他のダンサーたちとアイデアを出し合って共有し、それらを試していきました。僕たちは、すべてのシーンにおいてベストなアイデアを選択しました。しかし、私たちはその後も、常に作品を改善し、新しいことに挑戦し続けているので、作品は日々変化し、進化しています。初演時の『ロミオとジュリエット』を映画でご覧になった方もいるかもしれませんが(日本では2020年に公開)、より細かい点やニュアンスが加えられています。今回の作品は、そういった点で初演時のものとは少し違って見えるかもしれません。

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パリス・フィッツパトリック(右から二人目)Photo by Johan Persson

――ダンサーや監督、スタッフたちは、公演を振り返るノート・セッションを毎日行うそうですね。

フィッツパトリック ええ。僕たちは、常に改善と洗練に取り組んでいます。週に7、8回のショーが何週間も続けて行われるので、時間が経つにつれて、小さなことが抜け落ちてしまう可能性があります。そのため、重要な点を全員に思い出してもらうようにしています。特に群舞の場面では、全員が適切なタイミングで、適切な動作をしていること、正しい方向を向いていること、そして多くの細かい点を確認することで、すべてが鮮明に保たれます。
ツアーが進むにつれて、新しいメンバーが参加したり、辞めたりすることもよくあります。また、出演者の怪我もよく起こります。そのため、僕たちは常に全員が新しい役を学び、最終的には、それを演じることができるようにリハーサルを重ねています。その成果が舞台に現れていると思います。

――ダンスキャプテンとして、ご自分の豊かな経験を踏まえて、ほかの二人のロミオ役のダンサーにもアドバイスをすることはありますか。

フィッツパトリック はい、もちろんです。リハーサルでは、動きやそのやり方を他のメンバーに教えました。そして、ダンスキャプテンとして公演を観て、たくさんのメモやアイデアを書きとめ、こうしたらもっとうまくいくかもしれないという提案をします。
でも結局のところ、何ヶ月も公演を重ねたこの段階では、皆が自主性を持ち、自分のものとして独自のアプローチを持つことが大切だと思います。したがって、これが唯一の方法であると決めつけず、「最善のアプローチはこうだと思う」という言い方をします。そのアドバイスで、多くの場合はうまくいきます。そうならないことも時にはありますが、それでいいのです。ヒントやアドバイス、提案を与えるために僕はベストを尽くしていますが、それを他のメンバーに強いるわけではありません。

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マシュー・ボーン Photo Hugo Glendinning

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パリス・フィッツパトリック(左のベッド中央)
Photo by Johan Persson

――今回、ジュリエット役は三人います。相手役が変わるとムードも変わってきますね。

フィッツパトリック パートナーによっては、公私にわたってよく知っている人のときもあれば、反対にプライベートでもあまりよく知らない人で、これまで共演する機会もあまりなかったという場合もあります。しかし、舞台上の一種のロマンスとして二人の関係を築いていくことは実に興味深いものであり、毎回の公演や作品に対するアプローチを新鮮に保つことができます。
ジュリエット役のダンサーにはそれぞれ個性があり、人間としてのエネルギーをパフォーマンスに持ち込みます。当然のことながら、身長、体型など肉体的条件が一人ひとり異なるため、パートナーが変われば感じ方も大きく異なります。自分が出演していないときは、相手役の公演を見るときもあります。いくつかのシーンで、彼女がどのように取り組んでいるのかを観察することができます。

――日本公演では、ロミオのほかにバルサザー、そしてモンタギュー上院議員、看守、看護師も演じます。さまざまな役をどのように演じ分けていますか。

フィッツパトリック 今回はロミオとその父親も演じますが、これは全く違う経験です。父親役は踊るというより、キャラクターの役であり、肉体的にはそれほど負担ではありませんが、すべてのジェスチャーや表情がその人物像と一致させて、演じる役そのものになりきる必要があります。ロミオを演じるときは、もっとエネルギーがいりますし、バルサザーは肉体的にも感情的にも非常に激しい役で、大変です。それぞれの役で苦労する面は異なりますが、いろんな役を演じるのは楽しいです。

――あなたのダンスキャリアについて教えてください。

フィッツパトリック 幼い頃から体を動かすことが好きで、木登りやスケートボード、水泳など何でもしていました。音楽も好きでピアノを少し勉強したり、ドラムを叩いたりしていました。6歳くらいのとき、テレビでダンスやバレエを見て、両親に自分も踊りたいと言ったそうです。週に一度、バレエのクラスに数年間通いましたが、とても楽しかったです。でも、僕が育った地域では、ダンスが男の子の習い事として、まだ一般的に受け入れられておらず、友だちにもダンスを習っていることを打ち明けませんでした。時には、からかわれることもありました。その頃は、ダンスが自分のキャリアになるとは思っていませんでした。その後、いくつかの舞台芸術の専門学校のオーディションを受け、そのうちのひとつの学校に入学し、そこで奨学金を得て学びました。こうして僕は、踊りや歌などのパフォーマンスをすることが受け入れられ、称賛される場所にたどり着きました。そのときから、僕は芸能の道を真剣に考えるようになりました。そして今、私が子供の頃、私をからかっていた人々も、僕の活動を認めてくれています。

――ニュー・アドベンチャーズに参加したきっかけを教えてください。

フィッツパトリック 学生の頃にニュー・アドベンチャーズのパフォーマンスを 2、3 回観て、僕は一目で虜になりました。彼らのショーを目にして僕は感動し、自分のダンス・スタイルにも大きな影響を受けました。学校卒業後は、イギリスのノーザン・バレエ団に1年間在籍していました。その間にニュー・アドベンチャーズのオーディションを受けましたが、不合格でした。多分、予備リストに入っていたと思います。その直後に『赤い靴』が上演されたのですが、出演がかなわず残念でした。それからニュー・アドベンチャーズの夏季集中ワークショップに参加し、クラスといくつかのレパートリーを学びました。そして、この講習の最後にマシューが僕に話しかけてきて、次の公演に参加しないかと打診されました。それは『アーリー・アドベンチャーズ』というショーで、初期の作品のトリプル・ビルでした。これが僕の最初の仕事でした。皆フレンドリーで、楽しい時間を過ごしつつも、一生懸命働くことができて嬉しかったです。ここが自分の居場所で、これこそが自分のやりたい仕事だと思いました。それ以来、断続的にニュー・アドベンチャーズとの仕事を続けて7年近くになります。

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釜萢来美
Photo by Johan Persson

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パリス・フィッツパトリック(中央)
Photo by Johan Persson

――2020 年にスカイ・サウス・バンク・アーツ・アワードでのタイムズ・ブレークスルー賞、2022 年には英国舞踊批評家協会賞(National Dance Awards)で傑出したモダンダンス・パフォーマンス 男性の部で、それぞれノミネートされました。ご自分のパフォーマンスが高い評価を受けたことについてどう思いますか。

フィッツパトリック とても光栄です。これまで、賞を目標にしたことはなく、自分の仕事に自らの人生と魂を注いできました。それを人々が認識し、このように祝っていただくことは素晴らしく、大きな意味があります。

――マシュー・ボーンはどんな方ですか。

フィッツパトリック 彼は有名ですが、偉ぶったりはせず、派手な人ではありません。控えめですが、とても頭のいい人です。演劇とパフォーマンスに対する実に賢い目を持っています。僕は彼から多くのことを学びました。また、彼は僕に多くのチャンスを与えてくれました。彼は楽天的な性格で、絶妙なタイミングで冗談を言って、場を和ませてくれます。もちろん、真剣勝負のときもあります。彼は、自分が上司で、そのほかのメンバーが部下であるかのように上下関係をつけるのではなく、皆が積極的に関わることを好みますが、それは素晴らしいことだと思います。彼は同僚であると同時に、友人のような存在でもあります。

――ニュー・アドベンチャーズには現在、釜萢来美さんという日本出身のダンサーがいます。彼女はどんな方ですか。

フィッツパトリック 彼女は小柄ですが、まるで爆竹のようにパワフルで、素晴らしいダンサーです。踊りも上手で、良い友人でもあります。彼女は日本ツアーに出演することを楽しみにしていると思います。

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パリス・フィッツパトリック(階段上)
Photo by Johan Persson

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パリス・フィッツパトリック(前列右)
Photo by Johan Persson

――2018年の『シンデレラ』の日本公演では、天使を演じました。当時の思い出を教えてください。

フィッツパトリック 日本では素晴らしい時間を過ごしました。観客の方々は情熱的で、私たちのパフォーマンスに心から関心を寄せ、高く評価してくださっているように感じました。人々とつながり、何かを感じてもらうことができるからこそ、僕は踊るのです。日本では終演後、楽屋口で観客の方々が演者と会って写真を撮ったり、サインを欲しがったりしますが、皆フレンドリーで礼儀正しいです。これは、どの国でも同じというわけではありません。日本では、仕事を離れても人々の思いやりが感じられて嬉しいです。ロサンゼルスでは皆さんが公演を楽しんでくれていますが、日本ほど熱狂的ではないのではないか、と思います。東京では多くの観光スポットを歩き回り、素晴らしい人々に出会い、大好きな和食をいただき、素敵なファッションを見て楽しみました。京都も訪れましたが、美しい街で特別な体験でした。日本の思い出については、お話しできることがたくさんあります。

――日本のお客様へのメッセージをお願いします。

フィッツパトリック また日本公演に出演できて、とてもワクワクしています。日本で公演を行うのがとても久しぶりですが、もっと頻繁に行けたらいいのにと思います。皆様にお会いできるのが、今から待ち切れないほどです。

マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』

2024年4月10日(水)~21日(日) 東急シアターオーブ
上演時間:1時間50分
公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/mbrj2024/

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