ワールドレポート／東京

佐々木 三重子　Text by Mieko Sasaki

〈上野水香オン・ステージ〉と題された公演が、東京バレエ団により昨年2月に続いて今年3月にも開催される。昨年は、上野が令和3年度の芸術選奨文部科学大臣賞の受賞を記念したもの。今回は、令和5年度秋の紫綬褒章受章を記念する公演である。上野は、昨年3月に東京バレエ団のプリンシパルの契約を満了してゲスト・プリンシパルになった現在も、自身の名を冠した公演を東京文化会館の大ホールで2回も行えるほど高い人気を保っている。今年の〈上野水香オン・ステージ〉では、ライフワークとするモーリス・ベジャールの『ボレロ』のほかは、彼女の多彩さを披露すべく、昨年の〈オン・ステージ〉とは異なる演目が選ばれている。

上野については改めて紹介する必要はないかもしれないが、日本人離れした恵まれたプロポーションに加えて、柔らかい身体性に確固たるテクニックを備えている。ダンサーとしてのデビューは牧阿佐美バレヱ団だったが、東京バレエ団に移籍後も、古典から現代作品まで多様な作品を柔軟にこなし、常に卓越した演技をみせ、表現力を深めてきた。とりわけ、ローラン・プティとモーリス・ベジャールという巨匠から直に指導を受けるという得難い経験により、上野のパフォーマンスには一層の磨きが掛かった。また、東京バレエ団の海外公演に参加して世界の劇場で踊ったことや、ウラジーミル・マラーホフやマチュー・ガニオ、ロベルト・ボッレら世界のトップダンサーと共演の機会を得たことも、彼女の才能を大きく花開かせることになった。今回の〈上野水香オン・ステージ〉はそんな彼女の集大成の舞台となるように組まれたようだ。

上野が踊るのは3作品。一つは、アルベルト・アロンソ振付の『カルメン』のタイトルロールで、斎藤友佳理・芸術監督から伝授されたもの。闘牛場を模した半円形状の舞台で、運命に抗い自身の生を貫くファム・ファタールをいかに演じるか、"宿命"に焦点を当てたアロンソ版だけに注目される。ホセは柄本弾、闘牛士エスカミリオは宮本新大と、万全の布陣である。もう一つは、プティがロシアの伝説的バレリーナ、アンナ・パヴロワへのオマージュとして創作した『マ・パヴロワ』より『タイス』。マスネ作曲の「タイスの瞑想曲」に振付けられた抒情的なパ・ド・ドゥで、柄本と組んで踊る。鮮烈な印象を与えるカルメンとは対照的なこの作品で、上野のまた別の魅力が発揮されるだろう。三つ目は、アンコールの要望が多いというベジャールの『ボレロ』。"リズム"の男性群舞に囲まれて、赤い円卓の上で踊る"メロディ"は、その時のダンサーの心情が露わになると指摘されていることもあり、上野が今回どのように取り組むか、興味深い。ほかに、ウラジーミル・ワシーリエフ振付の『ドン・キホーテ』が東京バレエ団により抜粋版で上演される。活力にあふれた見どころ満載の作品だけに、ダンサーたちのパワーが炸裂するの見られるだろう。主役はダブルキャストで、キトリには秋山瑛と涌田美紀、バジルには生方隆之介と池本祥真が配されている。なお、〈上野水香オン・ステージ〉は、東京公演のほかに、演目を一部変えて、浜松と横須賀でも行われる。

公演詳細はhttps://www.nbs.or.jp/stages/2024/mizuka-ueno-tours/

「白鳥の湖」第２幕より photo/Shoko Matsuhashi

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