パリ・オペラ座ダンサー・インタビュー:ポール・マルク
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大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA
ポール・マルク Paul Marque(エトワール)
8月には東京で行われたジル・イゾアールによる公演「エスプリ・ドゥ・ラ・ダンス」で定評の安定したテクニックを駆使し、ブルーエン・バティストーニをパートナーに見応えのあるパ・ド・ドゥで観客を沸かせたポール・マルク。韓国でのガラとこの東京のガラの間に過ごしたオーストラリアでの10日間がこの夏のバカンスだそうだ。
目下、パリ・オペラ座バレエ団のシーズン2026/27の開幕演目となる『マノン』のリハーサル中である。彼は2023年に初役で踊ったデ・グリュー役に再び配役されている。これが彼のこのシーズンの最初の演目であり、最後の演目となる。というのも、10月下旬に『マノン』を3公演踊った後、彼は来シーズンまでサバティカル・イヤーに入るからだ。インスタグラムで7月18日にそれを発表したところ、励ましのメッセージがたくさん届いたという。フリーランスのダンサーとなる彼の、その間の日本での公演予定は今の所ないけれど、彼がパリ・オペラ座でセウン・パクと踊った『ロメオとジュリエット』と『白鳥の湖』がTOHOシネマライズ日本橋他で上映される。前者は2月5日~11日、後者は3月19日~25日。またパリ・オペラ座のストリーミングサイトPOP(Paris Opéra Play)では、マニュエル・ルグリの『シヴィルア』で彼とブルーエンの組み合わせに再会できる。なおサバティカル期間中の彼の予定は、インターネットサイト(www.paulmarque.com)でチェックを。
Q:新しいシーズンが始まります。開幕作品となる『マノン』でデ・グリュー役を踊る喜びを語ってください。

『マノン』Photography Svetlana Loboff /OnP
A:まず、ケネス・マクミランの振付が素晴らしことが挙げられますね。そして物語・・・僕は幸運なことに彼の『マイヤリング』も踊っています。彼の作品は演技面でもとても強いものがあり、デ・グリューもとても興味深い役なんです。しかも、嬉しいことに僕はこの役をセウン(・パク)をパートナーに、今回、再び彼女と踊れる。同じパートナーと再演できるのは素晴らしい。僕と彼女はこの作品について同じ考え、願望があるので心地よく・・・だから公演が待ち遠しいです。
Q:二人で何か改善したいこととか話しあったりしますか。
A:改善すべきことは常にあるものです。同じパートナーと再演するというのはいい面がありますね。より遠くへと行ける可能性がある。でも、別のパートナーと踊ることになってもそれはそれでいい・・・ケース・バイ・ケースです。
Q:真面目な青年デ・グリューはマノンと出会ったことでトランプのいかさま、さらに殺人を犯します。こうした人物をどのようにみていますか。
A:そう彼は貴族の家に生まれ、良い教育も受けていますね。でも僕にとってデ・グリューというのは、何よりも夢と愛に生きる人物なんです。彼は人生最愛の女性に出会って恋に落ちました。それまでは育った環境のコードに従って生きてきたけど、彼女を知り、この愛情以上に大切なものは他になくなってしまう。愛によって彼は変身してしまうのです。
Q:あなたにとって、そうした彼は理解しやすいことですか。
A:ええ。でも何れにしても役を演じるには物語を信じなければ。そうでなければ踊れませんから。
Q:マノンについてはどのような女性だとみていますか。
A:とても関心を引く人物ですよね。彼女は貴族ではなく、娼婦です。でも彼女もまた愛に生きる女性です。でも、同時にお金も大好き。お金のない愛をとるか、愛のないお金を取るか。この世で大好きな2つのどちらかを選ばねばならない。これが彼女にとっての戦いなんです。両方を得ようとしますけれど、うまくゆかない・・・。

『マノン』Photography Svetlana Loboff /OnP

『マノン』Photography Svetlana Loboff /OnP
Q:技術的には難易度が高い作品ですか。
A:日頃オペラ座で踊っている、とりわけヌレエフ 作品とはとても違いますね。男性のヴァリアッションは、ピュアなテクニックをあまり求められません。テクニックは隠されてるんです。つまり、『ドン・キホーテ』の第三幕のようじゃないということです。技術はストーリーを語るためあるという作品です。パートナリングの技術が他の振付家とはとても異なります。このバレエは2名の登場人物をベースにおいているので、ソロはあまりありません。二人が一緒にいるのでパ・ド・ドゥが多く、どれもパートナリングがハードなんです。
Q:とりわけ最後のパ・ド・ドゥは見るたびに驚かされます。
A:あれは確かに超技巧ですね。でも、他のパ・ド・ドゥも観客には見えにくいのだろうけれど、技術的には同じくらい難しいんですよ。
Q:この作品のようにストーリーを語るバレエの『オネーギン』ではレンスキー役、『椿姫』ではガストン役を踊っていますが、主人公はまだですね。
A:そうオネーギン役、アルマン・デュヴァル役は踊りたい作品のリストに入ってます。この他にも、まだまだ多くの作品がリストにはありますよ。
Q:『マノン』のあなたの公演日は10月20、22、28、30日とシリーズの後半です。あなたのウエッブサイトによると9月中、いくつか国外のガラに参加するようですね。
A:『マノン』を踊る前にポーランドのワルシャワ、そしてドイツのドルトムントでガラがあります。そして『マノン』を踊り終えたら、サバティカルに入り、パリをベースにフリーランスとして踊ることになります
Q:サバティカルを取らずに、これまで通りパリ・オペラ座での仕事を続けながら、他の都市で踊ることはできないのですね。
A:この3~4年、確かにそのように踊ってきました。でも、他所で踊ることについて、もっとより深く探求したいと思ったのです。それはオペラ座の仕事とは両立ができないこと。それで来年9月まで、サバティカルを取ることにしたのですが、まず、とても大きな幸運、それはジョゼ(・マルティネス芸術監督)が許可してくれたことですね。最終決定を出すまでジョゼだけでなく、アレクサンダー・ネーフ監督、オペラ座の経営部門、友達、家族など大勢と話し合いをしました。パートナーのセウンやブルーエンとも・・・時間をかけて熟考したことなのです。ずっとずっと以前から頭の中にあったことですから。
Q:サバテエィカル・イヤーという考えは、あなたにとって一種狂気の沙汰でしょうか、それとも明晰さゆえのアイディアでしょうか。
A:両方がそれぞれ少しづつですね(笑)・・・実のところ、これは本当に心から望んだこと、僕の意思なんです。これまで外部で踊ることをジョゼが許可してくれてたのはとても幸運なことでしたけど、それでも外部でしたいことの全てをできるには至らなかったんですね。たくさんのことを外部ですると、オペラ座の仕事を100パーセント満足にはできません。というのも、しょっちゅう外部に踊りに行くと、オペラ座でのリハーサルを何度も逃すことになりますから。徐々に両方をうまく管理できない状況に陥ってしまったんです。オペラ座と外の仕事との良いバランスが見つけられず、一種のフラストレーションがあって・・・。これ、ちょっとマノンのお金か愛かのようですけど、僕もオペラ座かフリーランスかという2つのうちの1つを選ばなければ、となって。オペラ座ではサバティカル・イヤーを取れる幸運があります。そのチャンスを活用しないのはもったいないこと。それでサバティカルの1年を選んだわけです。オペラ座に戻ってくる僕は、マノンと違って両方を得ることができるんです(笑)。

『マイヤリング』
photography Maria-Helena Buckley /OnP

『マイヤリング』
photography Maria-Helena Buckley /OnP
Q:来年4月に30歳になります。年齢もこの決断を左右した要素の1つでしょうか。
A:はい。フリーになって飛行機で移動してあちこちのカンパニーに出向き、未知の劇場で未知の振付家と仕事して・・・というのは、体力的にも大変なことです。サバティカルをとってフリーランスとなるって最高だ! って長いこと思っていましたけど、これは年齢、身体のコンディションが関わることなんですね。今、僕はまだ若く、体調もよいのだから出来る! それに、アパルトマンのローンがあるくらいで僕はまだ結婚していないし、子供もいないだから、あまり狂気の沙汰となりすぎないようにではあるけれど、これを可能な限り利用しないのは・・・と思ったわけです。40歳ではしたくない。だから、30歳で、ということなんです。
Q:女性ダンサーは妊娠のタイミングをプログラムの内容との関わりで決めると聞いたことがあります。シーズン2026/27のプログラムは、あなたが踊りたい作品が少ないから、といったこともありますか。
A:これはウイでありノンでもあります。今シーズンもいつものように興味深いプログラムです。でもいつだって残るための良い理由があり、去るための良い理由があります。セウンが出産する前、 ''もし妊娠したらどこそこへのツアーには参加できない、何々のバレエが踊れない'' というように言っていました。だから彼女に「妊娠しないための理由はいつもあるものだよ。どこかで決めなくては」って。僕について正直に言えば、今シーズンのプログラムは確かに前や前々シーズンに比べると、逃して惜しいという度合いが高いシーズンではない。オペラ座側にしても、他のシーズンに比べて僕がいなくても、というプログラムです。もちろんこれはメインの理由ではないですが、タイミング的には良かったのです。僕はどこに行こうがパリ・オペラ座のダンサーで、僕のカンパニーに対する愛は変わりません。決して ''あとはご勝手に'' と扉をパタンと締めて出てゆく、というのではありません。カンパニーが僕を必要としている時には不在したくないけれど、今シーズンは『ラ・バヤデール』『ロメオとジュリエット』などもなく、12月にも大作がない。他のシーズンに比べて僕の不在でオペラ座が困ることがないと言えます。
Q:他所のカンパニーの創作に参加するなど、フリーダンサーとして具体的にはどんなことを期待してるのですか。
A:他所のカンパニーでゲストで踊ること。つまりオペラ座でしていることを、一定期間、世界中のあちこち別の場所で、ということです。ガラにも参加しますよ。パリ・オペラ座の1シーズンのようなもので、つまり全幕も踊れば、その合間には小品もあって、と。それをオペラ座以外の複数の場所で行うということになります。
Q:パートナーとして踊りたいダンサーが他のカンパニーにいますか。
A:ええ、いますよ。例えば最近一緒に踊ったリュドミラ・コノヴァロアとはいつか全幕を踊れたらと思うし、前シーズンにヤーナ・セレンコと踊る予定があったけど実現しなかったので彼女とも踊りたい。日本でちょっとだけ一緒に踊れたマヤナ・マグリも最高だし・・・。
Q:フリーランスということは、相手からのアプローチもあれば、自分でも売り込みをするということですか。交渉も自分でするのですね。ウエッブサイト(www.paulmarque.com)で見ると、PMというイニシャルでロゴも作ったのですね。ちょっとしたブランドのようですね。
A:仕事は相手からの提案と自分からの両方です。何年か前から僕にはエージェントがいるので、そうしたことは一切彼に任せています。ロゴについて言えば、フリーランスのダンサーというのは一種商品のようなものですから、売らなければならない。でも、僕はそうしたことができないので、エージェントが僕の代わりにやってくれているのです。踊れたら、と夢見ているカンパニーは山ほどあります。どうなるかはこれからのこと。何れにしても、世界中どこにでも行けるのですから・・・。日本? よく知ってる国なので、もし踊れる機会があったら素晴らしいですね。
Q:サイトのカレンダーという項目に、スケジュールが順次発表されてくのですね。
A:はい。交渉中のものについては契約にサインするまでは載せないので、今の所12月のローマ歌劇での『白鳥の湖』までを掲載。あ、そのあとパリで来年1月9~10日にジル・イゾアールのガラ「Beuté de la danse」も。これはブルーエンと一緒に踊ります。
Q:サバティカルイヤーを取るエトワールというのは、あなたが初めてではないでしょうか。
A:わかりません。このシステムはそれほど古いものではないと思います。例えば、シルヴィ・ギエムがオペラ座を去った当時にはなかったと思いますよ、多分。もしかすると間違ってるかもしれないけど、以前は残るか去るか、というチョイスしかなかった。エレオノーラ・アバニャートがサバティカルを取ったのは、まだプルミエール・ダンスーズの時代で、その後戻ってからエトワールに任命されてますね。

「白鳥の湖」photography Julien Benhamou/ OnP

「白鳥の湖」photography Julien Benhamou/ OnP
Q:あなたの同期入団のダンサーについて言えば、多くがサバティカルを取らずオペラ座を去っているような印象があります。
A:アクセル・マリアノは2年取りました。で、今はサバティカルから戻ってきてますよ。でも確かに女性はユージェニー(・ドリオン)、エロイーズ(・ジョクヴィエル)、アワ(・ジョアネ)、マリオン(・ゴティエ=ドゥ=シャルナッセ)が辞めていますね。
Q:さて、シーズン2027/28からはガルニエ宮の舞台だけでなく、リハーサルスタジオも使えなくなると耳にしました。
A:工事前の検査の際にステージ周りの壁に鉛が見つかって・・・とても有害ですよね、鉛は。除去のために壁を削る必要があるので、スタジオそのものの工事がないにしても、建物内にいると工事の際に鉛を吸い込んでしまう可能性がある。それで5年の工事期間中、僕たちはきっと1~2年はガルニエ宮にアクセスできないことになるんだと思います。
Q:ということは楽屋も使えなくなるのですね。いったいどのような日々がダンサーに待ってるのでしょうか。
A:わかりません。想像もできない・・・とにかく健康が害される危険があるので、接近できなくなるんです。どこでリハーサルをすることになるかは、しっかりとオーガナイズされると思いますけど・・・。でも、多くのカンバニーが常にそういった状況で仕事をしてるのですよ。僕たちは本当に素晴らしい環境で仕事ができてるんです。ガルニエとバスチーユという2つの劇場があり、リハーサルスタジオ、それに楽屋・・・。例えばベルリン州立バレエ団はスタジオもあるし、楽屋もいくつかあるけど、ステージがない。この間カナダに踊りに行きなしたが、スタジオ、楽屋があって、でも公演は他所で行う、という状況でした。きっと僕たちはしばらくはバスチーユが拠点になって、他所のステージに踊りに出かけて行って・・・というようになるのかも。

『ロメオとジュリエット』
Photography Julien Benhamou/ OnP

『ロメオとジュリエット』
Photography Julien Benhamou/ OnP
Q: パリ・オペラ座のダンサーは素晴らしい労働環境に恵まれてると言えますね。
A:そうですよ。世界で他にこうしたカンパニーがあるのかどうか・・・。英国ロイヤル・バレエ、オーストラリアン・バレエは素晴らしい環境が整ってます、オランダも・・:。でも、例えば僕たちのようにエトワールは個室の楽屋を持てるというのは、世界中、どこにもないことです。1つエピソードをお話ししましょう。僕の楽屋は12平米あって、これは僕の妹がパリで借りた最初のアパルトマンより広いんですよ・・・信じられませんよね。世界中どこにもこのような仕事場はないでしょうね。僕たちには本当に信じられない幸運に恵まれてるんです。
Q:シーズン2027/28では何を踊るかわかっていますか。
A:まだ何も聞いていません。ガルニエで踊れないからバスチーユの公演が増え、パリ市内の劇場で踊り、それからツアーを行うとも聞いています。いつもガルニエとバスチーユで2つの公演が同時に行われているので、そのリズムは保たれるように聞いています。ダンサーの数もそれに適応できるものですし。

『シルヴィア』
Photography Yonathan Kellerman/ OnP
Q:1シーズンを満たす仕事をフリーランスとして取るのは、大変なことだと思いますか。
A:今の所、契約締結まで行ってることしかカレンダーに載せていませんが、交渉中のものはたくさんあって・・・時期によっては、複数から選ばなければならないとう状況なんです。つまり、仕事を自分で探さねばという必要はすでになく、それどころか、提案が多すぎるので選択せねばならないんです。パートナー、劇場、国・・・選択の条件は色々。それに公演日が重なってなくても、移動日と重なるとか・・・。フリーランスですから生活に必要な分は稼がなければ・・・(注: サバティカル期間中は無給)。でも、アーティステイック面で興味のあるプロジェクトをやはり優先しますね。夢見ていることがあって・・例えば、ローマ・オペラ座に僕は12月に踊りに行きますが、今エージェントが交渉してるのは1週間半とかリハーサルと公演に要する最低の期間ではなく、2~3週間くらい滞在することなんです。演目は『白鳥の湖』。と言ってもヌレエフ 版ではなくバンジャマン・ペッシュのバージョンで、パートナーは以前『ラ・バイヤデール』でガムザッティ役で僕と踊ったシュザナ・サルヴィなので少しは知っていると言っても全幕を踊る新しいパートナーでもあるし・・・
その土地に暮らし、カンパニー内に入り込んでということが僕が夢見ていることなんです。ホテルと劇場だけしか知らずに帰るのではなく、その地の文化にも触れたい。この間カナダに踊りに行った時、土曜に到着し、翌朝からすぐにリハーサルのためにスタジオ入り。パートナーのルナ・ササキを5日間リハーサルをして、4日公演があって・・・終わった翌日パリへと。カンパニーのダンサーたちから''休みがあるなら一緒に山にゆこう''って誘われたけど、時間がなくって・・・。パリに翌朝戻ったら、当日の午後はオペラ座で『ロメオとジュリエット』のリハーサルだったので。サバティカル・イヤー中、僕には時間があります。他所に踊りに行ったら、現地のダンサーたちとカフェに行ったり、夕方はアペリティフを楽しみ、週末には一緒に山なりどこかに一緒に出かけて・・・これまでできなかったことをしたいと思っています。贅沢 ? そうですね。この贅沢を自分にプレゼントしたいんです。
Q:刺激的な1年となりそうですね。ところで、あなたのサバティカル期間中、飼い猫はどうするのでしょうか。
A:サバティカルを取ると行ってもパリを1年不在にするわけではないので、いままで通りですよ。何も変わりません。犬と違って猫は散歩に連れ出す必要もないので、僕のリトル・プリンセスは1日くらい僕がいなくても慣れているし・・・。48時間以上不在になる時は友達が世話をしにきてくれるんです。実は長い期間離れ離れになるのは、僕の方が耐えられないんです(笑)。
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