ヌレエフ版『ラ・バヤデール』の主役ニキヤ、ソロル、ガムザッティが8組の組み合わせによって踊られた、パリ・オペラ座/バスティーユ・オペラ
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
La Bayadère Rudolf Noureev
『ラ・バヤデール』ルドルフ・ヌレエフ:振付
2022年4・5月以来、ヌレエフ振付『ラ・バヤデール』が2025・2026シーズンの閉幕公演として、6月17日から7月14日までバスチーユ・オペラで上演された。リハーサル指導にはニコラ・ル・リッシュ、フロランス・クレール、クレールマリ・オスタという3人の元エトワールが招かれた。ちなみにフロランス・クレールはヌレエフから『ラ・バヤデール』の直接指導を受け、ニコラ・ル・リッシュはヌエレフが最後に舞台に立った1992年10月8日の『ラ・バヤデール』初日公演に奴隷役で出演している。
エロイーズ・ブルトン
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
2020年の無観客上演ではポール・マルク、2022年4月20日にはフランソワ・アリュ(その後、退団)がエトワールに昇進した演目。今回のシリーズでも6月21日にソロルを踊ったトマ・ドッキールが新たなエトワールに任命された。
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/paris/detail043347.html
今回のシリーズの主役3人はニキヤ、ソロル、ガムザッティの順に以下の通りだった。
A=レオノール・ボーラック/ポール・マルク/ブルーエン・バッティストーニ(4回)。B=セウン・パク/ポール・マルク/イネス・マッキントッシュ(3回)。C=エロイーズ・ブルドン/ジェルマン・ルーヴェ/クララ・ムーセーニュ(3回)。D=ドロテ・ジルベール/トマ・ドッキール/ロクサーヌ・ストヤノフ(1回)。E=セウン・パク/トマ・ドッキール/イネス・マッキントッシュ(1回)。F=ドロテ・ジルベール/ユゴー・マルシャン/ロクサーヌ・ストヤノフ(3回)うちテレビ録画2回。G=レオノール・ボーラック/ギヨーム・ジョップ/ビアンカ・スキュダモア(3回)。H=ホアン・カン/トマ・ドッキール/クララ・ムーセーニュ。
最初に舞台を見られたのは C配役(6月27日)だった。6月6日にバスチーユ・オペラのアンフィテアトルで行われた公開リハーサルで、ニキア役のエロイーズ・ブルドンとガムザッティ役のクララ・ムーセーニュの二人は、元エトワールのクレールマリー・オスタからラジャ(藩王)の宮殿での二人が争う場面のパントマイムの指導を受けている(第1幕第2場)。跳躍と回転といったダンスのテクニックではない、演劇的な感情表現についてオスタは身体の位置や動き、表情といったディテールへの細やかな指摘によって後進のプルミエール・ダンスーズ二人を導いていた。
ニキヤ役のエロイーズ・ブルドンはまだスジェだった2015年12月に、ニキヤとガムザッティの二役を踊っている。当時、大いに期待されていたダンサーで現在でも一部に熱狂的なファンはいるが、2019年にプルミエール・ダンスーズに昇進後、すでに7年の歳月が経過してしまっている。
公開リハーサルでも感じたことだが、ブルドンの演技にはニキヤの情念の噴出する場面で、今一つ苛烈さに欠けていた。このために、高飛車なガムザッティに対して身分違いにも関わらず、思わずナイフを振りかざしてしまうところでも、抑えることのできない怒りの火花が飛び散ることはなかった。すでに舞台を重ねていて作品をよく知っているので、それなりにきちんとまとまってはいるのだが、ヒロインらしい周囲を圧倒する存在感や華やぎという点で問題を残した。
ガムザッティ役のクララ・ムーセーニュはC配役で3回踊った。シーズンを通して主役級の役に抜擢されており、シリーズの最後から2回目の7月12日にH配役にも起用されている。オペラ座首脳陣の期待の高さがうかがわれるだけに、今後の課題はフランス人バレエ評論家がそろって指摘している演技面だろう。
ジェルマン・ルーヴェはいつもながら、パートナーへのきめ細かい配慮となめらかな動きを見せていた。気品のあるダンサーだけに、これにかつてのニコラ・ル・リッシュのような雄々しさが加味されれば、理想的なソロルとなるだろう。
金の偶像はアントワーヌ・キルシャーだったが、着地するたびに身体が大きく揺れてしまい、客席からはため息が漏れた。
クララ・ムーセーニュ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
ジェルマン・ルーヴェ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
ジェルマン・ルーヴェ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
シャール・ワグマン
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
エロイーズ・ブルトン、ジェルマン・ルーヴェ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
エロイーズ・ブルトン、ジェルマン・ルーヴェ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
ケイタ・ベラミ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
二日後の6月29日はドロテ・ジルベール/ユゴー・マルシャン/ロクサーヌ・ストヤノフの組み合わせ(F配役)だった。
ニキア役のドロテ・ジルベールはシリーズ開始前の「テレラマ雑誌」(4月29日付、エマニュエル・ブーシェ記者)のインタヴューで、「(ニキヤという)人物にはとてもきれいなパッセージがあります。インド舞踊由来の様式化された腕の動きは独自のものです。それに対して、脚の動きはクラシックです。衣装は素晴らしく、第2幕でゆったりした亜麻布のズボンを履いて踊るのは喜びです。それと反対なのは、チュチュの下に裸の脚となる第3幕でショッキングです。広いバスチーユ・オペラの舞台の上では、突如として観客の目にさらされたように感じます。どんなに長い年月経っていても、この瞬間は気持ちの良いものではありません。」と語っていた。
ドロテ・ジルベールは、混み入っていることで知られるヌレエフによる振付のむずかしさを感じさせなかった。スジェだった2004年に『ドンキホーテ』のキトリを踊って以来、ヌレエフ作品の全てを踊ってきた長年の積み重ねの賜物だろう。余裕のある自然な演技は2007年からエトワールを務めてきた人が最終的に到達した円熟した境地だった。長い間、パートナーを組んできたユゴー・マルシャンとの息がぴたりとあっていた。それと共に、演技派のロクサーヌ・ストヤノフとの女性二人の激しい情念のぶつかり合いは劇的な緊迫感にあふれ、観客の誰もが息を殺して舞台に見入っていた。
6月21日に新エトワールとなったトマ・ドッキールも、高い跳躍と安定した着地、切れ味の良い動きで金の偶像にふさわしかった。
第3幕第2場「影の王国」ではよく揃ったコール・ド・バレエによる群舞に加え、ホアン・カン(第1ヴァリエーション)、イネス・マッキントッシュ(第2ヴァリエーション)、ビアンカ・スキュダモア(第3ヴァリエーション)という若手のプルミエール・ダンスーズ3人の競演が圧巻だった。なお大僧正役を務めたスジェのヤン・シャイユーは今回のシリーズで定年引退となった。
ドロテ・ジルベールを軸に据えた充実したF配役の舞台がテレビ収録されたことはバレエファンにとって朗報だ。
(2026年6月27日、29日 バスチーユオペラ)

ドロテ・ジルベール
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャン© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

ドロテ・ジルベール
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

ドロテ・ジルベール
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャン
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
『ラ・バヤデール』
音楽 ルドヴィッヒ・ミンスク(ジョン・ランチベリー編曲)
台本 マリウス・プティパ、セルゲイ・クーデコフ
振付・演出 ルドルフ・ヌレエフ
装置 エジオ・フリジェリオ
衣装 フランカ・スカルチピアーノ
照明 ヴィニチオ・ケリ
コーン・ケッセルズ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
配役(6月27日、29日)
ニキヤ エロイーズ・ブルドン/ドロテ・ジルベール
ソロル ジェルマン・ルーヴェ/ユゴー・マルシャン
ガムザッティ クララ・ムーセーニュ/ロクサーヌ・ストヤノフ
ファキール ケイタ・ベラミ/ダニエル・ストークス
大僧正 ジャン=バティスト・シャヴィニエ/ヤン・シャイユー
ラジャ(藩王) レオ・ドゥ・ブースロール/アルチュス・ラヴォー
金の偶像 アントワーヌ・キルシャー/トマ・ドッキール
ダンス・マヌー ニーヌ・セロピアン/マリーヌ・ガニオ
ダンス・アンディエンヌ アポリーヌ・アンクティル ファヴィアン・レヴィヨン/ヴィクトワール・アンクティル アントニオ・コンフォルティ
第3幕 第1ヴァリエーション カミーユ・ボン/ホアン・カン
第2ヴァリエーション 桑原沙希/イネス・マッキントッシュ
第3ヴァリエーション セリーヌ・ドゥルイ/ビアンカ・スキュダモア
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