マリオン・モタン、シェー・シン、クリスタル・パイトの3人の女性振付家による3作品が上演された
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ワールドレポート／パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
『The Last Call』Marion Motin 、『Horizon』Xie Xin、『The Season's Canon』Christal Pite
『ザ・ラスト・コール』マリオン・モタン：振付、『ホライゾン』シェー・シン：振付、『ザ・シーズンズ・カノン』クリスタル・パイト：振付
パリ・オペラ座バレエ団は23・24年シーズンの開幕公演としてガルニエ宮でトリプルビルを９月23日から10月12日まで上演した。このシーズンはオーレリー・デュポン前舞踊監督が作成した年間プログラムによる最後のシーズンとなる。（ジョゼ・マルティネス舞踊監督はこれにクラシック作品を追加して現在の年間プログラムとなった。それだけに、来年春に発表されるマルティネス監督による最初のシーズンラインアップが注目される。）
当夜はマリオン・モタン、シェー・シン、クリスタル・パイトと三人の女性振付家の作品が並んだ。
「ザ・シーズンズ・カノン」
シルヴィア・サン・マルタン、アレクサンドル・ガス
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
最初はマリオン・モタンの『ザ・ラスト・コール』だった。モタンはマドンナやストロマエといったロックやヒップホップの音楽家のスペクタクルやジャン＝ポール・ゴルチエのファッションショーを手がけてきたフランスの女性ダンサーで振付家だ。
開演前から心臓の脈動を思わせるようなスペインの作曲家ミツカ・ルナ（1977年生まれ）の音楽が流れ、やがて暗い裸の舞台に電話ボックスが浮かび上がった。携帯電話の普及で今世紀に入ってから次第に撤去され、現在では見ることのなくなった電話ボックスを目にして、ちょっと郷愁を覚えた。電話が鳴り、「生きた人間」を命名されたダンサー（アレクサンドル・ボカラ）が受話器を手に取る。短い会話は観客には全く想像もつかないが、「生きた人間」は床にスローモーションでゆっくりと崩れ落ち、電話のコードが伸びていった。床をのたうち回るアレクサンドル・ボカラの演技からは「生きた人間」が絶望に駆られていることがはっきり伝わってきた。
「ザ・シーズンズ・カノン」
シルヴィア・サン・マルタン、アレクサンドル・ガス
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ザ・シーズンズ・カノン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
やがて闇の中からラテックスの衣装をまとった十五人のダンサーたちが現れ、ロック調の音楽に乗ってスイングスピンで回転したり、腰をひねったり身体を左右に揺らす動作を繰り返した。しかし、時間が経過しても、繰り返しの多いグループの動きからドラマが生まれることはなかった。
この中で黒の衣装を付けた「死神」役のアクセル・イボは、これといった動きがないにも関わらず不気味な雰囲気を醸し出していた。
マリオン・モタンは多彩なカラーを使った照明やストロボに加えて、ドライアイスを使った霧も使って舞台に変化を付けようとしていたが、プログラムノートに書かれていた「突然姿を消して、別の次元に行ってしまった人たちはどこに行ったのか」という問いは最後まで視覚化されないまま30分が経過していた。6月に見たベルギーのピーピング・トムによる「三部作」のようなダンサーの身体によって物語を紡ぐ力がモタンになかったために、コンテンポラリーダンスに優れたダンサーたちの熱の入った演技にも関わらずむなしさだけが残った。
「ザ・シーズンズ・カノン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ザ・シーズンズ・カノン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ホライゾン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
数分間の暗転の後は中国人の振付家シェー・シンによる新作『ホライゾン』だった。ドライアイスが多用された点だけは『ザ・ラスト・コール』と共通だったが、シェー・シンは霧とも流れる水とも見えるドライアイスの効果によって、全体が滝に変貌したかのような水墨画を思わせるきれいな舞台を構成した。
この滝の前の霧に包まれたような空間で九人のダンサーたちが、ゆったりとして静かなシルヴァン・ワンの音楽をバックに、空手や太極拳に似た、流れるようになめらかな動きを見せた。腕や脚が実にしなやかだったタケル・コストを筆頭に、ダンサーたちの腕の動きは風に揺れる柳の枝を思わせ、見た目にきれいで、自然と人間との協調という主題は明快に描かれていたが、30分という時間は音楽に変化が乏しいこともあって長く感じられた。
「ホライゾン」アントナン・モナン（中央）
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ホライゾン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ホライゾン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ホライゾン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ホライゾン」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ザ・ラスト・コール」
アレクサンドル・ボカラ（生きている男）
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
休憩後の後半は2016年9月にガルニエ宮で世界初演のあったクリスタル・パイトの『ザ・シーズンズ・カノン』だった。灰色のズポンに上半身は半裸の五十四人のダンサーたちが、ヴィヴァルディの「四季」を編曲したマックス・リヒターの音楽と一体となって、躍動感のある舞台を35分間にわたって繰り広げた。初演にも出演したエトワールのリュドミラ・パリエロ、プルミエール・ダンスーズとしてどの作品でも安定した踊りを見せているシルヴィア・サン・マルタン、期待されている若手のナイス・デュボスク、コール・ド・バレエのメンバーまでが一つになった躍動する身体のうねりには誰もが引き込まれ、カーテンコールではスタンディングで熱狂的な拍手が送られた。
（2023年10月９日 ガルニエ宮）
「ザ・ラスト・コール」
アレクサンドル・ボカラ（生きている男）
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ザ・ラスト・コール」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ザ・ラスト・コール」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「ザ・ラスト・コール」
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
『ザ・ラスト・コール』
2023年9月21日パリ・オペラ座バレエ団により世界初演
振付 マリオン・モタン
音楽 ミツカ・ルナ
衣装 アトゥール・アヴェラーノ
装置 カミーユ・ドゥガ
照明 ジューディット・ルレ
ダンサー
死神 アクセル・イボ
生きている男 アレクサンドル・ボカラ
カロリーヌ・オズモン イダ・ヴィイキンコスキー ヤン・シャイユー シリル・シュークルーン 他
『ホライゾン』
2023年9月21日パリ・オペラ座バレエ団により世界初演
振付 シェー・シン
音楽 シルヴァン・ワン
装置 フ・ヤンジュン
衣装 リ・クン
照明 ガオ・ジー
ダンサー ヴィクトワール・アンクティル ニーヌ・セロピアン イヴォン・デュモル タケル・コスト 他
『ザ・シーズンズ・カノン』
振付 クリスタル・パイト
音楽 マックス・リヒター
装置 ジェイ・ゴーワー・テイラー
衣装 ナンシー・ブライアント
照明 トム・ヴィッサー
ダンサー リュドミラ・パリエロ シルヴィア・サン・マルタン ロクサーヌ・ストヤノフ ナイス・デュボスク パブロ・ルガサ フランチェスコ・ムーラ 他
音楽は録音を使用
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