パリ・オペラ座バレエ団の４・5月の公演は来シーズンにガルニエ宮での招聘公演が決まっている、ネーデルランド・ダンス・シアターで活躍している振付家の作品を三つ並べて行われた。
最初はネーデルランド・ダンス・シアターの芸術監督を2011年から務めているポール・ライトフットがソル・レオンと組んで2007年に振付けた『運命の指先』だった。

"Sleight of hand" 『運命の指先』© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

空のオーケストラピットには大きな階段が置かれた。幕が上がると闇の中の6メートル近い高みに八菜 オニール（左側）とステファン・ブリヨン（右側）の上半身が浮かび上がった。二人を支える台は黒い布に包まれ、巨人のカップルが舞台を見下ろしているかのような印象を与えた。その足元にはレオノール・ボーラックとジェルマン・ルーヴェが演じるもう一つのカップルがやがて姿を現した。こうして地下から天上へという広い垂直の空間で8人のダンサーのシルエットが展開していく。周囲が黒装束の中でただ一人明るい色のパンタロンをはいて、上半身は裸のミカエル・ラフォンは天使を象徴していたようだ。
同じ音型が延々と繰り返されるフィリップ・グラスのミニマル音楽が流れる中、ダンサーの指は曲がり、口は大きく開かれて声にならない叫びを発する。悪夢に憑りつかれたかのように全身がけいれんする。この動きからそれぞれの観客は内面の葛藤、運命に翻弄される人間、カップルという関係の不安定さといったメッセージを受け止めていったようだ。闇が強調され全体のトーンは暗鬱だが、照明と多様で複雑な動きから生まれる謎めいたイメージは鮮烈で美しかった。

次に演じられたのはレオンとライトフットの師で今年86歳を迎えたハンス・ファン・マーネンが、1982年に振付けた『3つのグノシエンヌ』だった。何もない裸の舞台にピアノが一台置かれ、サティの曲が静かに流れ、リュドミラ・パリエロとユゴー・マルシャンのなめらかな身体が描く変化に富んだ曲線が形作られていった。女性は前腕だけで男性に支えられていたのが特徴的だった。この優雅なパ・ド・ドゥはわずか8分の短さにも関わらず個性的な美で観客を酔わせた。

休憩後の後半は再度レオンとライトフットの共作による『あなた自身のために話せ』だった。まず背中に発煙筒を背負ったフランソワ・アリュが姿を現して作品が始まり、やがて5人の男性ダンサーと3人の女性ダンサーがこれに加わった。途中、天井から霧雨がダンサーたちに降りかかり、照明に水滴が反射するきれいなシーンとなった。これという筋はない抽象的な作品で、振付家の意図が謎めいている点で『運命の指先』と共通していた。
なお5月には、ネーデルランド・ダンス・シアター２がシャイヨ劇場で引越公演を行うことになっている。優れたダンサーを揃えたダンス・カンパニーの舞台にパリのダンスファンの間で期待が高まっている。
（2019年4月19日　ガルニエ宮）

『運命の指先』（レパートリー入り）（2007年3月15日　デン・ハーグ　リュセント・ダンスシアター初演）
音楽　フィリップ・グラス「交響曲第2番」第2楽章（1994年）
振付・装置・衣装　ソル・レオン＆ポール・ライトフット
照明　トム・ビヴォールト
音楽は録音を使用
ダンサー　八菜 オニール　ステファン・ブリヨン　レオノール・ボーラック　ジェルマン・ルーヴェ　ミカエル・ラフォン　チュン・ウイン・ラム　パブロ・ルガサ　アドリアン・クーヴェーズ
『３つのグノシエンヌ』（1982年3月5日　アムステルダム・シュタートシューブルク国立バレエ初演、2017年9月21日レパートリー入り）
音楽　エリック・サティ「グノシエンヌ」第1、2、3番（1890年）
振付・装置　ハンス・ファン・マーネン
衣装　ジョープ・ストクヴィス　ハンス・ファン・マーネン
照明　ヤン・ホフストラ
ピアノ　エレナ・ボネー
ダンサー　リュドミラ・パリエロ　ユゴー・マルシャン
『あなた自身のために話せ』（レパートリー入り、1999年11月25日　デン・ハーグ　リュセント・ダンスシアター初演）
音楽　バッハ「フーガの技法　対位法　第1番　19番」（1740－50年）　スチーヴ・ライヒ「カム・アウト」（1966年）
振付・装置・衣装　ソル・レオン＆ポール・ライトフット
照明　トム・ビヴォールト
音楽は録音を使用
ダンサー　フランソワ・アリュ　リュドミラ・パリエロ　ユゴー・マルシャン　ヴァランティーヌ・コラサント　ダニエル・ストークス　シルヴィア・サン＝マルタン　シモン・ル・ボルニュ　パブロ・ルガサ　アンドレア・サーリ

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