ワールドレポート／その他

関口 紘一　Text by Koichi Sekiguchi

「うたかたの恋」© 2018 ROH.Ph by Helen Maybanks

今年はマクミランの没後30周年ということもあり、英国ロイヤル・バレエとパリ・オペラ座バレエの新シーズンは『うたかたの恋ーマイヤリングー』の競演となった。また、宝塚歌劇団の新春公演もミュージカル『うたかたの恋』だ。
2002年、この自作の上演中に舞台袖で急逝した、20世紀を代表するドラマティック・バレエの振付家、ケネス・マクミランを悼む心が舞踊家やバレエファンの間で広く共有されている証左だろう。
このマクミラン追悼の年に大きな存在感を放っているのが、英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、平野亮一である。平野は2018年のシーズン開幕初日、怪我の回復に至らなかったエドワード・ワトソンの代役として、ナタリア・オシポワのマリー・ヴェッツェラを相手役にルドルフ皇太子を踊り大きな成功を収めた。さらに昨年、スコティッシュ・バレエの『The Scandal at Mayerling』にも出演して役柄の理解をいっそう深めたであろう。そして今回も2022/23シーズンの開幕初日にオシポワと踊り、その舞台はイギリスを始め世界18ヵ国、806の映画館でライブビューイングされた。平野亮一は名実ともに英国ロイヤル・バレエのトップダンサーに成長したのである。

ルドルフ皇太子役は、愛人のマリー・ヴェッツェラ（ナタリア・オシポワ）、元愛人のラリッシュ伯爵夫人（ラウラ・モレーラ）、母の皇妃エリザベート（イツィアール・メンディザバル）、新妻ステファニー王女（フランチェスカ・ヘイワード）、高級娼婦ミッツィー・カスパー（マリアネラ・ヌニェス）という5人の女性とのパ・ド・ドゥやヴァリエーションを踊って、多彩な人物たちと屈折した関係を表現する。超絶的なパートナリングの技巧を息のつく暇もないほど駆使して踊らなければならい。女性ばかりではなく、ハンガリーの将校（リース・クラーク、カルヴィン・リチャードソン、ニコル・エドモンズ、レオ・ディクロン）の政治的な働きかけに対応し、母、エリザベート皇妃の愛人（ギャリー・エイヴィス）、お気に入りの御者（アクリ瑠嘉）などとも演技する。当然、演劇的な細やかな表現力を十分に発揮しなくてはならない。こうしたマクミラン作品の中でも難役中の難役とも言われるルドルフ役をロイヤル・オペラ・ハウスの舞台で堂々と踊って、英国の辛辣な批評で知られる評者たちから高い評価を受けた。
マクミランの『うたかたの恋ーマイヤリグー』の音楽は、ハンガリー出身のフランツ・リスト。パ・ド・ドゥには『超絶技巧練習曲』から選曲されて使われている。美術はマクミラン作品を多く手がけているニコラス・ジョージアディスで、オーストリア=ハンガリー帝国のホーフブルク宮殿の華麗さを彷彿させている。

「ダイヤモンド・セレブレーション」© ROH Bill Cooper, 2012

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