ウィーン国立バレエ団プリンシパル・橋本清香&木本全優を迎えての中村恩恵振付『The Well-Tempered』と苫野の2作品を上演

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

苫野美亜プロデュース Dance Performance LIVE♯11 Contemporary Dance Pieces III

『OTOASOBI』『haptics 2』苫野美亜:振付、『The Well-Tempered』中村恩恵:振付

3作品が上演された苫野美亜プロデュース「Dance Performance LIVE♯11 Contemporary Dance PiecesⅢ」。苫野は最近、ギャラリープロジェクトとして美術館等でのダンス公演も行っているのだが、劇場での公演を行うのは2年ぶり。
まず上演されたのは、苫野美亜振付『OTOASOBI』。無音の中、一人の女性ダンサー(早乙女愛毱)が、床でウォーミングアップしている。そこに男性ダンサー(玉川貴文、この作品と次の作品『haptics 2』の音楽制作でもある)がPC等を持って現れる。普通に挨拶を交わすかと思いきや、距離感が微妙。なんだかオタクっぽい、何かにこだわっている風な男性。どうも、"音"を収集したいようだ。
女性が動き出すと、ポアントの音や息の音などをマイクを向けて収集する。玉川もダンサー(ブルガリア国立バレエ団)であり、ともに踊って見せながら進むのだが、なんだかシュールというのか、ユーモアを感じさせながら、不思議な空気感のなかに誘ってくれる作品だった。苫野は、こんなちょっと肩の力を抜いてみたのかな、と思えるような作品も創るのだと、嬉しい気持になりながら観た。もちろん、これも、同じ場にダンサーと観客が居合わせるからこその空気感が大切にされている、ダンスだからこその魅力を感じさせる作品だ。

IMG_9596.jpg

『OTOASOBI』
早乙女愛毱、玉川貴文 撮影:植村耕司

IMG_9599.jpg

早乙女愛毱、玉川貴文 撮影:植村耕司

IMG_0463.jpg

『haptics 2』
南江祐生、荒俣夏美 撮影:植村耕司

IMG_9741.jpg

『haptics 2』
南江祐生、荒俣夏美 撮影:植村耕司

2作目には、やはり苫野振付の『haptics 2』。私はこの作品の初演『haptics』がギャラリープロジェクトとして中之島美術館で上演されたものも観ている。美術館のガラス窓を通した自然光のなかでと、今回、随分、印象が変わるものだなと実感しながら観た。テーマとされる"触覚の伝達"ということにおいては、中之島美術館での上演の折の方が実感できた気がするが、間近にいるダンサーたちからの空気感は、劇場という濃密な空間でより伝わり易かったとも思える。また、こういった"白"あるいは"透明"というものを大切にした作品が彼女の創る作品のとても魅力的な持ち味だと思った。

IMG_9776.jpg

『haptics 2』
鈴木舞子 撮影:植村耕司

IMG_0051.jpg

『The Well-Tempered』 撮影:植村耕司

そして3つ目、ラストが中村恩恵振付『The Well-Tempered』。この作品の初演は17年前、大阪の野間バレエ団だった。その後、改訂されながら、様々な素晴らしいダンサー達が踊って来ている。苫野は、出演経験もあり、そして、そのほぼすべての現場で振付指導に関わって来たのだという。
初演の時から気になっている『The Well-Tempered』という言葉。英語で『The Well-Tempered』と記されるバッハの曲は、日本語では一般的に"平均律クラヴィーア曲集"と呼ばれる。この"平均律"というのは誤訳だと現代の音楽関係者は口を揃えて言う。訳すとすれば"ほどよく調律された"という感じになるようだ。ピアノのように、演奏の途中で調律できない楽器と違い、弦楽器等は演奏の、例えば楽章の変わり目などに奏者自身が調律し直すことができる。バッハは、それに長けていたようで、次に弾く曲に合わせて、自由自在に調律していたようだ。バレリーナが、次の幕の踊りには、この柔らかさのトゥ・シューズに、と履き替えるような感じだろうか?
この "ほどよく調律された" を現代の社会での生き方に置き換えた、多様な価値観のなかでの自身のあり方を考える──そんなテーマで創られた作品。
最初と同様に、ダンサー達がそれぞれウォーミングアップをしているところから始まる。今度は、出演するダンサーたち、たくさんのダンサー達が思い思いに準備をしていた。
そこから始まる踊りは、それぞれのダンサーが自分自身と向き合っている──そんな風に感じられるもの。ベテランダンサー・竹中優花が中央で佇むだけで伝わる彼女が積み重ねて来たもの。そして、ウィーン国立劇場バレエ団プリンシパルの橋本清香と木本全優のスケールの大きな、切なさを感じさせる表現。
この作品は、さまざまなダンサーによって、これからも、少しづつ変化しながら、いつまでも踊り継がれていくのだろうなと、そんな気がしながら観た。
(2026年8月22日ソワレ 神戸ファッション美術館オルビスホール)

IMG_9869.jpg

『The Well-Tempered』
橋本清香、木本全優 撮影:植村耕司

IMG_9874.jpg

『The Well-Tempered』
橋本清香、木本全優 撮影:植村耕司

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る