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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2016.03.10]

「ダンサーの動きから音楽を、音楽家の演奏から動きを...」ローザスの『作業』

Rosas ローザス
" Work/Travail/Arbeid" Anne Teresa De Keersmaeker
『作業』アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル:振付

パリ・オペラ座とポンピドーセンターの共催でアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマーイケルの『Work/Travail/Arbeid(作業)』が2月26日から3月6日まで行われた。それに先立って行われた2月25日17時からの内覧会を見た。

pari1603b_03.jpg (C) 三光 洋

入り口から向かって右側のエスカレーターを昇ると三方がガラス面になったGalerie Sud(南ギャラリー)の白い、床には何もない広い空間が現れた。ガラスの向こう側は通りと広場で、通行人が立ち止まって中を覗き込んでいる。
やがて、見物人の間から白い服の二人のダンサーが歩み出て、動き始めた。地面にはガルニエ宮で上演された『レイン』と同様にチョークでさまざまな円が書かれている。音楽家もダンサーを見ていて、音がない中で静かに滑らかにダンサーの身体が移動していく。きわめて広い空間なので、見ているとダンサーの方に自分の身体が自然と近づいていく。周りの人々の反応は多種多様で、同じ位置に座ったり、立ったままで見ている人がいるかと思うと、地面に書かれたチョークの線を越えて行く人もいる。
ダンサーが動きを止めて、人々の前から姿を消すと、しばらく間があってから、音楽家二人が別の場所で演奏を始めた。
この作品は美術館という空間で行われたダンスではなく、振付を展示している。
「ダンサーの動きから音楽を、そして音楽家の演奏から動きを感じ取ってほしい」とケースマイケルは語っているが、通常一体となっているダンスと音楽とを切り離したり、重ね合わせたりすることで、もう一度ダンスと音楽との関係を問い直そうとしている。コンセプトとテクニックと身体が一体となったWork(作業)を観客は同じ高さで、身近で感じ取っていくことになる。
9日間にわたる公式展示は毎回9時間にわたって作業が続いた。観客は2分だけでも、数時間でも自分の好きなだけ、あたかも美術館で絵を見るときのように鑑賞時間を選択できる。途中でギャラリーから出て、コーヒーを飲んでから再び会場に戻ってくることも可能だ。
劇場というブラック・ボックス(客席の照明が消えた閉じられた空間)では、ダンサーは舞台上、観客は座席、とそれぞれの占める場所が固定され、見る視線も方向が決まっている。これに対して美術館というホワイト・キューブ(白い開かれた空間)では観客もダンサーも移動し、ダンサーを見る角度も観客が選ぶことになる。

pari1603b_02.jpg (C) Anne Van Aerschot pari1603b_01.jpg (C) Anne Van Aerschot

『Work/Travail/Arbeid(作業)』の動きと音楽は、ケースマイケルが2013年10月3日にドイツのルールトリエナール芸術祭で発表した約一時間の作品『Vortex Temporum』(音楽に使われた20世紀のフランスの現代音楽家ジェラール・グリゼの題名と同じタイトルになっている)を解体したものである。長い時間をかけて編み上げた織物を逆に解いていったのがこの新作のようだ。ローザスの7人のダンサーと現代音楽の演奏団体アンサンブル・イクチュスの6人の音楽家とが参加したが、今回の『Work/Travail/Arbeid』にも同じメンバーがそろった。
黒い地味な服を着たケースマイケルはじっと観客の背後から、あるいは踊っていないローザスとダンサーと並んで、終始ダンサーや音楽家を見守っていた。
ダンサーの動きも音楽もテンポは遅めで、歩いたり走ったりという日常的な動作も含んでいて一見したところ単純に見える。しかし、こうした動きの一つ一つ、音符の一つ一つを無限に組み合わせが、ある瞬間と交差することからケースマイケルの振付が生まれてくる現場を見ているような気分になった。「アンサンブルから切り離された身体の動きの単純さと美」(ケースマイケル)に、マリー =アニエス・ジロやアリス・ルナヴァンといったパリ・オペラ座のダンサーたちを始めとする観客たちも一心に見入っていた。
この作品はすでにブリュッセルのWIELS現代アートセンターで、2015年の3月から5月にかけて初めて展示されて成功をおさめた。パリの後は今年の7月8日から10日までロンドンのTate Modern、来年の3月25日から4月2日まではニューヨークのMoMAと場所を移して展示される。
ケースマイケルは、パリには2017年の1月26日からガルニエ宮でモーツアルト『コジ・ファン・トゥッテ』をダンサーを使って「演出」する。「身を心も惹きつけてやまない作品」と深い思い入れがあるだけに、どんな舞台になるのか今から楽しみだ。(2016年2月25日 ポンピドーセンター)

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pari1603b_08.jpg (C) 三光 洋

コンセプション アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
アンサンブル・イクチュス演奏
音 楽 ジェラール・グリゼ「Vortex Temporum」
ダンス ローザス
会 場 ポンピドゥー・センター