パリ・オペラ座ダンサー・インタビュー:イネス・マッキントッシュ

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

Inès McIntosh イネス・マッキントッシュ(プルミエール・ダンスーズ)

現在21歳のイネス・マッキントッシュ。2019年に入団した彼女がスジェに上がったのは2022年である。2023年11月に開催されたコールド・バレエ昇級コンクールではスジェは参加せず、シーズン中に芸術監督によるプルミエへの任命という試みが実験的になされることに。コンクールが終わってまもなく、マルティネズ監督はイネス・マッキントッシュとフロラン・メラックをプルミエに任命した(昇級は2024年1月1日)。彼女については満場一致の決定だったという。12月のオペラ・バスチーユでポール・マルクと彼女は初役同士で『くるみ割り人形』を踊り、技術的にも芸術的にも手応えのあるステージを見せた。今年1月29日に行われた授賞式ではプルミエール・ダンスーズとなっていたが、24歳以下のコール・ド・バレエのダンサーに与えられる2023年度のカルポー・ダンス賞も彼女が受賞。マルティネズ監督は受賞式においてのスピーチで彼女のダンスへの情熱と熱心な稽古ぶりを称えた。小柄な身体に逞しさを宿す、愛らしいダンサー。2月8日から始まる4年ぶりのパリ・オペラ座来日公演に参加する彼女は、これが初来日だという。しっかりとした技巧の中に優美さを込めて踊る彼女は、『白鳥の湖』でパ・ド・トロワそしてハンガリーの踊り(チャルダッシュ)のソリストに配役されている。

Q:ダンスを始めるきっかけになったのは、10歳の頃にテレビで見たパリ・オペラ座バレエ学校の番組だそうですね。

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Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

A:はい。当時小さな女の子が誰でもやるように私も4~5歳の頃から近所の教室でダンスを習ってました。このルポルタージュを祖父の家で見て、バレエの世界を発見し、パリ・オペラ座を知り、この学校で本格的に学びたいという気持ちになったんです。

Q:『未来のエトワールたち』でしょうか。

A:いいえ。アントワーヌ・キルシェールやエロイーズ・ジョクヴィエルが出ていて、プティ・スタージュのルポルタージュでした。『Les enfants de la danse』とか『Les petits rats de l'opéra』とかそんな題名だったと思います。バレエ学校にすごく興味を引かれて、まず、パリのコンセルヴァトワールで1年半クラシックダンスを学んだ後、パリ・オペラ座のバレエ学校に入学しました。第六ディヴィジョンから始めました。

Q:クラシックバレエの魅力は何でしょうか。

A:小さい時は、あらゆる小さな女の子が夢見るようにチュチュへの憧れや、バレリーナというものに対する幻想のようなものがありました。ダンサーとなった今、その魅力はたくさんあります。まず、身体で感情を表現するということ、そして、異なる役を踊って様々な種類の感情表現を探ること。例えば『ドン・キホーテ』のキトリを踊るとしたら、その人物は『ジゼル』のジゼルとは違いますね。それぞれの役のパーソナリティ、その感情を身体を介して発展させるのはとても面白い仕事です。

Q:学校ではナンテールの寮に入っていましたか。

A:最初の1年だけ、寮生活をしました。この1年は私にとってとても難しい年で、夜に家族と一緒に過ごせないことが辛かったんです。ダンスの面でうまく行かず、放校される可能性もあって・・・あまり理想的な年ではなかったですね。通学生となってからは順調で、落第もなく第一ディヴィジョンを終え、卒業した年にカンパニーに入団しました。

Q:2019年の入団以来、2021年にコリフェ 、2022年にスジェと順調に昇級しました。そして今年からプルミエール・ダンスーズ。この速さは想像していた通りですか、それ以上でしたか。

A:私が期待していた通りと言えます。そうあったらいいと願っていたスピード!(笑)でした。

Q:今年プルミエールに上がって、階級の重みを感じますか。

A:プルミエールに上がって、2段階で思いがありました。まず昇級した時、肩の荷をおろし、ストレスが軽減されたという感じがとても大きかった。自分はプルミエールに上がれるのだろうか、それはいつだろうか、どのようにしたら昇級できるのだろうか・・・とそれまで毎日がストレスだったから。昇級が決まって、あああ、良かった!と。次いで、この責任を全うしたいという思いが芽生えました。学びを続け、常にベストを尽くし、正直であるように努め・・・これが求められるクオリティだと思っています。毎回、より良くできるように努めることは大切。それって他人にも見えることです。ベストを尽くそうと努める所に、進歩があります。

Q:ジョゼ・マルティネズ芸術監督がカルポー賞の授賞式において、あなたの熱心な稽古ぶりを褒めていました。

A:2年前にわかったのは、ダンスは私にとって一瞬の避難場所だということです。学校でうまくいかない時も、私が頼りにできる唯一の実質的なことは仕事でした。上手くいかなければ、上手くできるよう仕事をする。仕事をすれば、進歩をします。これによって安心が生まれます。気持ちよく感じられることですね。あらゆる問題がこれで解決できる! といった気になります(笑)。

Q:模範にしているダンサーはいますか。

A:たくさんいますよ。ナタリア・マカロワ、ノエラ・ポントワ。シルヴィ・ギエムもあげましょう。それからエカテリーナ・マクシーモワ。インスパイアーされるのはイヴェット・ショーヴィレ。今のエトワールたちの仕事は分析するようにして映像をチェックしています。とりわけマリアネラ・ヌニェスのが多いですね。彼女の仕事は身体にはっきりとみて取れるんです。一体どうしてるのだろうと思って見てると、ああ、彼女はここで足を返してるのね、といったように・・・。オペラ座のダンサーだとドロテやセウンの映像を見ます。

Q:2023年11月のコンクールにスジェのクラスは参加しないと知った時は、どんな気持ちでしたか。

A:これは意外なことでしたね。コンクールをするかしないか、という提案がジョゼ・マルティネズ芸術監督から私たちにありました。それでスジェのダンサーたちみんなと多くの話し合いをもった後、コンクールの有無についての投票。それで決まった結果なんです。

Q:コンクールがないということで気が楽になりましたか。

A:........ これはどっちとも言い難い。私にはコンクールがあってもなくても同じでしたから。でも確かにコンクールの時期と公演のための準備が結構重なってたので、コンクールがないことになったのは都合が良かったと言えます。例えば『グラン・パ・クラシック』。コンクールがあったらその準備とほぼ同時期だったし、『くるみ割り人形』のリハーサルもあったし・・・。コンクールがないおかげで、これらの稽古に専心することができました。でも、もしコンクールがあったら、それはそれで問題なかったけど、仕事時間のオーガナイズという点、身体の疲労という点でコンクールなしになったのは好都合でした。

Q:『グラン・パ・クラシック』は9月末の南仏エクサン・プロヴァンスのツアーでの公演ですね。

A:はい。八菜(・オニール)が公演の何日か前に足をちょっと痛めてしまって、その間に彼女のパートナーのギヨーム(・ディオップ)は稽古をする必要があり、代役だった私が彼と2~3回スタジオで一緒に稽古をしたんです。最終的に八菜はその次のジェローム・ロビンズの仕事に集中したいと大事をとってツアーには参加しなくなり、私が彼女の代わりにステージで踊ることになりました。

Q:超技巧満載の作品を、スジェのあなたはエトワールのように堂々と踊っていました。どのような体験でしたか。

A:その半年前にトマ・ドキールとガラでこれを踊ったことがありました。エクサン・プロヴァンスで踊る機会が得られ、ああ、エトワールの役を踊れるなんて!とすごく幸せでした。ちょうどコンクールがないということも知ったところだったので、余計に。それにギヨームと一緒というのも嬉しくって。素晴らしいパートナーで、彼とは楽に踊れます。

Q:こうしたテクニックを見せる作品ではアドレナリンが湧くタイプですか。ストレスで怖気づくタイプですか。

A:私、以前はすごくストレスがあって・・・でも、今はそれをコントロールできるようになっています。学校時代はストレスがひどくて、なんとか踊れてもメンタル面での管理ができなくて、こんなことではダンサーのキャリアはやってけない! っていうほど。催眠療法を受けた結果、とてもうまくいきました。もちろん今もストレスはあるけれど、コントロールできるんです。

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「En sol 」
(左から)イネス・マッキントッシュ、オーバンヌ・フィルベール、オルタンス・パジュラー
Photo Julien Benhamou / Opéra national de Paris

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「En sol 」イネスは中央
Photo Julien Benhamou / Opéra national de Paris

Q:10月の公演『ジェローム・ロビンズ』のトリプルビルで最初に踊られた『En sol』は、あなたのムーヴメントで始まる作品でした。緊張はありましたか。

A:ああ、あれは恐ろしかった! あのスタートにはストレスがあった。他のダンサーは後ろ向きで、中央の私は5エム・ポジションで一人観客に向かっていて・・・。指揮に従って、1は静寂のまま、2で私がプリエすると同時にオーケストラが演奏を始める。ぴったりとシンクロしないと間が空いてしまう・・・これは確かにストレスがあったけど、ステージに対して背を向けて踊り始めるダンサーたちの方が、ストレスが大きいかもしれないとも思いました。幸いにも20~21の全公演で私はこれを繰り返したので、最後にはステージ上で喜びが感じられるようになりました。それに踊るのがとても快適な作品で、楽しめました。

Q:年末公演の『くるみ割り人形』に配役されたのは、スジェの時代でした。主役を踊ると知った時は、どのような気持ちでしたか。

A:これは全く期待してなかったことなので、とても大きな喜びでした。配役はメールで公演日とパートナー名とともに連絡が来てたのだけど、この時、私はメールボックスに問題があって、メールを見たのは3日後だったんです。その間に、''メール見た方がいいよ''って人にしつこく言われたけど、配役については何も教えてくれなかった。それでメールを見て、びっくり! とても幸せでした。踊りたかった役で、最初は代役だっていわれていたのに配役されて、しかもパートナーがポール・マルクだったので嬉しかったですね。

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「くるみ割り人形」
Photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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「くるみ割り人形」
Photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

Q:オペラ・バスチーユで行われた公開リハーサルのときに、ポールとあなたは兄妹といった親しさを感じました。

A:彼とは気が合います。それまで一度も一緒に踊ったことはなかったけれど、彼が故郷のダックスでチャリティー・ガラをオーガナイズした時に私を招いてくれて・・・良い関係なのです。彼はとても誠実な人。こうして彼と二人で踊れたのは幸せでした。

Q:古典大作初の主役でも全く緊張を感じさせず、堂々としたステージでした。

A:ポールがいろいろと私に語りかけて、私を安心させてくれて、自信を持たせてくれました。私がちょっとストレスに見舞われると、彼がすぐに鎮めてくれて、と。それにこの作品の良いところはクレッシェンド、ということ。一番ストレスを感じさせる部分が来るのは最後なので、それまでに舞台の照明、観客など慣れる時間があるので徐々に緊張が解かれてゆきました。

Q:この作品で踊るのが好きなパートはどこでしたか。

A:面白いことに、リハーサルの時は最後のパ・ド・ドゥは私の一番のお気に入りというものじゃなく、2幕目の最初に踊るパ・ド・ドゥの方が好みだった。ところが本番ではこの最後のパ・ド・ドゥを踊るのが最も好きなこととなって・・・。私たちがオーケストラで踊ったのは公演初日が初めてでした。リハーサルのピアノ伴奏と違ってオーケストラだと音楽がとても魅力的で、とりわけ最後のパ・ド・ドゥでは盛り上がるものがあったんですね。『くるみ割り人形』にはポジティブな思い出しかありません。というのも、公演初日と2日目はストがあって公演がキャンセル。3回目の私たちの舞台もどうなるかという状況で、やっと公演前日に踊れることがわかったんです。一種の安堵の気持ちがありました。それまで、あああキャンセル? あんなに稽古を頑張ったのに??? ひどい!!! といった感じだったので。ポールとはリハーサルでもすごくうまくいっていたし・・・というわけで、大きな安堵ゆえに舞台で踊る喜びがストレスを上回って幸福感があるだけでした。

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「くるみ割り人形」
Photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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「くるみ割り人形」
Photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

Q:あなた向きの役に思える『リーズの結婚』に配役されなかったのは意外でした。でも『ジゼル』を踊ることになったのですね。

A:そうなんです!! 信じられない!! これは私の夢だったので、とっても嬉しいです。アンドレア・サリと踊ります。昨年の韓国ツアーの『ジゼル』では二人とも代役だったので、少しだけ一緒に稽古をしています。舞台に立つことはなく終わったけれど、おかげで役について準備することができました。今回踊るのは5月22日だけだけど、公演が待ち遠しいです。

Q:ジョゼ・マルティネズが芸術監督に就任以来、各演目のキャスト数が増えています。

A:そうです。彼は大勢にチャンスを与えようとしています。これはダンサーには喜びです。例えば『くるみ割り人形』ではコリフェのルナ・ペニェが主人公の妹ルイザ役を踊ったように、彼は大勢にソリスト、ドゥミソリストに役を踊れる機会を与えています。ダンサーは鍛えられ、こうしたステップを踏んで成長してゆく必要があるので彼のやり方は正しいですね。

Q:ジゼルの狂気のシーンをあなたがどう演じるかが楽しみです。

A:これはとても特殊な体験となるでしょう。この狂気のシーン、とても好きです。ジゼルの役はとても心に触れるものがあります。例えば花を拾って花びらを一枚づつとってゆく仕草は、彼と過ごした良い時間の思い出・・・。この役の解釈は進化してゆくもので終わりがありません。これからの長いキャリアにおいて踊ってゆく中で、その時の私に応じて変わってゆくでしょう。この役はこうして生き続けるのです。それに踊るダンサーによっても、とても違う。ダンサーのそれまでの体験によって、それぞれのパーソナリティが語り、各人各様のジゼルがあるのです。

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「ジゼル」アントワーヌ・キルシェールと
Photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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「ジゼル」アントワーヌ・キルシェールと
Photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

Q:ジゼル役に配役されているのはミリアム・ウルド=ブラーム、ドロテ・ジルベール、セウン・パーク、オニール 八菜、ブルーエン・バティストーニ、そしてゲストでロイヤル・バレエ団のプリンシパルのマリアネラ・ヌニュス。あなたどのようなジゼルでしょうか。

A:私が今の年齢で踊るジゼルは、人生を満喫していて、喜びで光輝いていて・・・。以前稽古した時にコーチが言っていたのですが、家のドアを開けてジゼルが出てくる登場のシーン、それは太陽の出現なのだと。人生を愛し、生きる喜びを噛み締め、人との関係においてとてもナイーブな若い娘なんです。誰かを愛するなら、心底その人を愛する娘。それゆえに彼女は気が狂ってしまうのですね。愛するか嫌うかという、極端なたちで白か黒しかなく中間がない。彼女はそれほどよく知らないのにアルブレヒトに恋をし、すごく夢中になっていて・・・。彼だけに心を捧げていただけに、それがストップしたところで、彼女の世界には何もなくなってしまう。この作品を踊るのが夢だったのは、この人物に自分を重ね合わせらるからです。彼女の中に、私は自分を見出すのです。私も彼女のようにとても極端で、あの狂気は私にも起き得る何かなんです(笑)。情熱に結びついている狂気。今はそれほどではなくなったけれど、小さい時にステップがうまくできないとき私は不安のあまり発作を起こすような感じがあって・・・まるで気が狂ったよう。出来るようになりたいという思いが強すぎて、出来るようにならないのではないか、という恐れがあまりにも大きくて、それで狂人のようになってしまっていたんですね。怒りもとても大きかった。奇妙に聞こえてしまうかもしれないけれど、こうした自分の体験をジゼルの役に活用するつもり。狂気のシーン、こうした子供時代のことを思い出してごく自然に出来ると思います。

Q:2019年に入団というのは、芸術監督がオーレリー・デュポンの時代ですね。

A:そうです。『若いダンサーたち』で私を『パリの炎』に配役したのは彼女です。私にいつも良い配役をくれていましたね。前回の『ドン・キホーテ』はちょうど私がスジェに上がることが決まったコンクールの後、つまりまだコリフェだった時だけれど私はマドモワゼル・ドゥヌールに配役され、まだキュピドンの代役にも選ばれて。さらに『ラ・バヤデール』でもガムザッティの代役に。彼女、そして今のジョゼ・マルティネズ。私は芸術監督に恵まれています。

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「パリの炎」
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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「パリの炎」ニコラウス・チュドランと
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

Q:『ラ・バヤデール』ではガムザッティとニキアではどちらを踊りたいですか。

A:ニキア!! ガムザッティもできますよ、でも、ニキアの方が私の身体、パーソナリティという点で一致すると思います。私、ちょっとばかりクレージーだけど、穏やかなんですよ(笑)。

Q:この他にも踊りたいと夢見る作品はありますか。

A:すべての古典大作! 例えば『ドン・キホーテ』。これは2023年の夏に、南アフリカのケープタウンでメイナ・ギールグッド版の公演があり、ゲストに招かれて踊りました。私の父は南アフリカの出身です。でもポートエリザベス出身なので、それまでケープタウンには何度も行ったことはありませんでした。

Q:今、21歳ということは、オペラ座でこれから先21年間踊ることになります。

A:そう、今がちょうど半分ですね。とにかく可能な限り多数のクラシックとネオクラシックの作品を踊りたいと夢見ています。『ロメオとジュリエット』、そして『眠れる森の美女』・・・『オネーギン』も踊りたいです。まずはオルガ役からでも、絶対にタチアナ役を。また現存のコレオグラファーによるクラシック作品、ネオクラシック作品にも興味あります。アレクセイ・ラトマンスキーやハンス・ファン・マーネンと仕事がしてみたい。クリエーションに興味があるんです。ボリショイの『スペードの女王』のように、ロシアでは創作作品が結構ありますね。ピエール・ラコットの『ファラオの娘』『マルコ・スパーダ』をオペラ座で踊れたら、すごく嬉しいことです。

Q:入団以来、コンテンポラリー作品には一度も配役されていませんね。

A:はい。興味がないわけではないけれど、私はクラシックが大好き。コンテンポラリーを踊ると、クラシックを踊るために作り上げた身体を少し失うことになる。1か月以上続く創作とかに配役されるのは、身体的に今の私には理想的じゃないんです。

Q:昨年末オペラ・ガルニエで踊られましたがイリ・キリアンの作品はどうでしょうか。

A:キリアンは第二ディヴィジョンの時に学校公演で『un ballo(ウン・バロ)』を踊っています。これ、今シーズンの学校公演で踊られますね。昨年末のオペラ座では公演「イリ・キリアン」は『くるみ割り人形』と同時だったので不可能だったけど、例えば彼の『petite mort』とか踊ってみたかったですね。『Stepping Stones』も・・・次の機会にぜひ!

Q:ダンスにおいて自分の切り札は何だと思っていますか。

A:テクニックを要する作品に多く配役されていますけど、私としては、自分は感性的なダンサーだと思っています。だから芸術性を要求される作品に向いている。もちろん、テクニックはベースですから大切。それがあって芸術表現に専心することが可能になるのですけど、観客が持つ私のイメージという点で、テクニシャンというよりアーティストであって欲しいのです。アーティストたるべく、様々な面で自分を磨くように努めています。ダンサーの伝記などもよく読み、音楽もクラシックを始めよく聞いています。

Q:自由時間があると、さらに稽古を重ねますか、気分転換をしますか。

A:...... ええ、1日にするべき仕事の時間があり、それが終わったら身体の管理ということも含め、自分のために時間を使いたいです。仕事では頭の中での仕事もあるので、身体と同時にメンタルの面での解放が必要。仕事にのめり込んでしまうと、見えることも見えなくなります。欠点も見えなくなり、新しいアイディアも湧かなくなってしまう。仕事以外のことを考える必要があるので、美術館にゆき頭と身体に風を通すのは良いことです。

Q:最近、どこかミュージアムに行きましたか。

A:1月の休みはロンドンに行ったので、ナショナル・ギャラリーでモネ、ゴッホなどの作品を鑑賞しました。私、印象派の作品のファンなのでパリではオルセー美術館が大好き。入団後初めて観客の前に私が姿を見せたのは、この美術館の中で行われたドガをテーマにしたダンスのイヴェントだったんですよ。

Q:2月8日から始まるパリ・オペラ座日本公演に参加しますね。日本に最初に行ったのはいつですか。

A:日本に行くのは今回が初めてなんです。昨年、韓国に行ったのが、私の初のアジア旅行。今回のツアーで私は『マノン』は踊らず、『白鳥の湖』だけ。パ・ド・トロワ、ハンガリーの踊りのソリストです。どちらも前回オペラ座で踊っています。このツアーの後、私は上海で開催されるガラがあるので、その出発までの1週間はフリータイムとなります。その間、クラスレッスンに参加し、ガラのためのリハーサルは行うけれど舞台はないので、京都に行ってみるのはどうだろうかって考えています。

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