ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2013.07.10]

夢みる青年をマチュー・ガニオが見事に表現したオペラ座の『ラ・シルフィード』

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Pierre LACOTTE, ¨La Sylphide¨
ピエール・ラコット振付『ラ・シルフィード』

幕が開くとスコットランドの大きな農家が現れた。広い居間の左には大暖炉、左奥に中二階への階段、右手に窓、右奥に扉がある。ジェームスに扮したマチュー・ガニオがタータン地のスカートをはいて椅子に座り、居眠りしている。そっと部屋に入ってきたシルフィード(ドロテ・ジルベール)は白の花輪をかぶり、人差し指を口に当て、大きな瞳でジェームスの寝顔を眺める。ちょっといたずら好きな茶目っ気のある妖精だ。額に接吻して若者が目を覚ました時には左の暖炉から姿を消す。

pari1307a01.jpg Photo (C)Opera national de Paris/Anne Deniau

若い農夫たちに囲まれてのジェームスとエフィーの婚約した二人の踊りでは、メラニー・ユレルのこぼれるような微笑に、意中の男性との結婚式を目前にした女性の喜びがあふれていた。
この喜びは魔女の登場で水を差される。ステファーヌ・ファヴォランが長い不気味な爪とメーク、ぼろの衣装をまとって、手相を見て、婚約した二人が結ばれず、エフィーは彼女に片思いしているグルンと結ばれると予言する。ファヴォランの巧みな身振りと演技によって周囲の雰囲気が一変した。アレクサンドル・ガスはエフィーへに焦がれるグルンの切ない想いを、すがり付くような視線と抑えた演技で明瞭に見せてくれた。
左奥の階段でジェームスとエフィーが一時の別れるシーンも、息の合ったガニオとユレルにより印象的だった。
それからのジェームスが一人となった場面や、再び登場したシルフィードをつかまえようとして果たせない場面などで見せた、ガニオの気品のある踊りと立ち姿、そして美しいアントルシャは、夢見がちな青年を表わすに相応しいダンス表現だった。戻ってきたエフィーとシルフィードという地上と天上の二人の女性と青年が踊る場面は照明の変化により、現実と夢幻の世界が交互に立ち現れることが誰にもわかるように構成されていた。セリによるシルフィードが退場する工夫(ピエール・ラコットの振付)も、妖精の変幻自在ぶりをよく示して効果的だった。
また、ジェームスが手にしていた指輪を抜き取ってシルフィードの後を追い、外へ駆け去ったのを見て、エフィーが母親の腕に崩れ落ちるシーンのユレルの姿には、胸に熱いものを感じた。

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Photos (C)Opera national de Paris/Anne Deniau
pari1307a04.jpg Photo (C)Opera national de Paris/Anne Deniau

休憩後の第2幕は一転して、霧の立ち込めるスコットランドの森の中。木から木へと空気の精たちが吊りによって飛び交う幻想的な場面に、客席から大きな拍手が沸いた。白いチュチュに背中に羽がはえた妖精たちの飛翔には、誰にも抗いがたい魅力がある。
コール・ド・バレエは初日でありながら、きれいに揃って完成度の高い群舞だった。
ドロテ・ジルベールの足先にヒロインにふさわしいなめらかさがあったら、という心残りは確かにあった。しかし、当日も客席から舞台を見守っていたピエール・ラコットの丁寧に要所要所に工夫を凝らした振付により、見事に幻想的な雰囲気に包まれた舞台であった。
(2013年6月22日 ガルニエ宮)

pari1307a06.jpg Photo (C)Opera national de Paris/Anne Deniau pari1307a07.jpg Photo (C)Opera national de Paris/Anne Deniau
音楽/ジャン・マドレーヌ・シュナイツホーファ
振付・翻案/ピエール・ラコット(1972年パリ・オペラ座)
装置/マリー・クレール・ムッサン
衣装/ミッシェル・フレネ
演奏/フィリップ・ユイ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
配役
ラ・シルフィード/ドロテ・ジルベール
ジェームス/マチュー・ガニオ
エフィー/メラニー・ユレル
魔女/ステファーヌ・ファヴォラン
グルン/アレクサンドル・ガス
エフィーの母親/ナターシャ・ジル
スコットランド人たちのパ・ド・ドゥ/ミュリエル・ズュスペルギ、エマニュエル・ティボー
3人のシルフィード/アマンディーヌ・アルビッソン、ローラ・エケ、ローランス・ラフォン