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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2013.02.12]

プレルジョカージュが新たな身体表現探求した対照的2作品の表情は苛烈と柔和

Ballet Preljocaj プレルジョカージュ・バレエ団(招聘公演)
Angelin Preljocaj “Helikopter““Eldorado(Sonntags-Abschied)“
アンジュラン・プレルジョカージュ振付『ヘリコプター』『エルドラド』

年明けのガルニエ宮にはアンジュラン・プレルジョカージュ・バレエ団が登場した。ドイツの現代音楽作曲家カールハインツ・シュトックハウゼン(1928・2007)の音楽を使った二つの作品である。
映写されたヘリコプターの4つの青い羽根が闇の中で回転しはじめ、舞台は幕を開けた。耳をつんざくような4台のヘリコプターの音と弦楽四重奏の音、それに青を基調にした照明。この何もおかれていない空間の中でダンサーの身体が動き出した。
シュトックハウゼンの「ヘリコプター弦楽四重奏曲」は連作オペラ『光』の「水曜日」第3場として構想され、1995年にアムステルダムで初演されている。弦楽器奏者が乗った4台のヘリコプターが演奏会場の上空を飛び、その音と映像をリアルタイムで中継したという。

すでに音と光が充満している空間に身体が切り込んでいく。6人のダンサーがデュオ、トリオ、4人組み、といったさまざまな組み合わせで絡み、動きと位置が細部まで計算し尽くされた振付を破格のエネルギーをもって肉体化していく。
演奏した音楽家は自分の弾く音が全く聞こえない不思議な体験だったともらしているが、轟音の最中にいるダンサーにとっても全く指標のない世界だろう。通常の伴奏音楽とは全く異なる困難な条件の中で、白井渚をはじめとするダンサーたちがこれほどはつらつとした動きで、緻密にムーブマンを描き出していくのに目を見張っているうちに、ローターの回転が緩やかになり、闇が訪れた。
35分間、音と光と身体、それだけだ。この世界に知的な理解は無用だろう。感覚だけが目覚め、時間の経過を忘れた。

pari1302a01.jpg (C) Opéra national de Paris/Laurent Philippe pari1302a02.jpg (C) Opéra national de Paris/Laurent Philippe
pari1302a03.jpg (C) Opéra national de Paris/Laurent Philippe pari1302a04.jpg (C) Opéra national de Paris/Laurent Philippe
pari1302a08.jpg (C)Opéra national de Paris/Laurent Philippe

前半の苛烈な舞台に対し、休憩後は一転して柔和な『エルドラド』(理想郷)が展開した。『ヘリコプター』の振付を見て衝撃を受けた作曲家が共同作業を申し出て、2007年に実現した作品である。
白の下着に透明のアンダーウエアを身につけた12人のダンサーは、当初照度を落とした空間の三方の壁にしつらえられた、象牙色のパネルの前に神像のように立っている。薄闇から次第に照明が強まり、姿がはっきりしてきた時点で、二人づつパネルを離れて中央に歩み出て、光に次いで身体がゆったりと動き出した。いくつかのシークエンスが交互に現れ、前半とは対照的に薄明の空間に甘美な陶酔感が周囲に広がった。ダンサー全員が元のパネル(台座のよう)に戻ったところで再び闇が周囲を包んだ。
前半と後半とはきわめて対照的だが、いずれも通常の音楽とダンスとの関係とは全く違う地平で、身体表現の可能性を極限まで突き詰めた作品だ。プレルジョカージュならではの新たな身体表現の探求に、ダンサーたちが全身で応えた濃密な空間は他に類がないだろう。
(2013年1月5日プルミエ ガルニエ宮)

pari1302a05.jpg (C)Opéra national de Paris/Laurent Philippe pari1302a06.jpg (C)Opéra national de Paris/Laurent Philippe
pari1302a07.jpg (C)Opéra national de Paris/Laurent Philippe

『ヘリコプター』
音楽/カールハインツ・シュトックハウゼン(「ヘリコプター」アルディッティ弦楽四重奏団演奏)
振付/アンジュラン・プレルジョカージュ
装置/ホルガー・フェルテラー
衣装/シルヴィー・メイニール
照明/パトリック・リュー
ダンサー/ヴィルジニー・コーサン、ロレナ・オニール、白井渚、セルジオ・ディアズ、ジャン・シャルル・ジュスニ、ジュリアン・チボー
『エルドラド』
音楽/カールハインツ・シュトックハウゼン(「日曜日の別れ」)
振付/アンジュラン・プレルジョカージュ
衣装・装置/ニコル・トラン・バ・ヴァン
照明/セシル・ジョヴァンシリ、アンジュラン・プレルジョカージュ
ダンサー/ヴィルジニー・コーサン、ガエル・シャパーズ、ナターシャ・グリモー、ロレナ・オニール、白井渚、津川ゆりえ、セルジ・アモロス・アパリチオ、マリウス・デルクール、セルジオ・ディアズ、ジャン・シャルル・ジュスニ、フラン・サンチェーズ、ジュリアン・チボー
音楽は録音を使用