ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2012.04.10]

ロビンズの優美なエレガンスと現代の感触を浮かび上がれせたエック

Ballet de l’Opera national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Jerome Robbins " Dances at a gathering", Mats Ek "APPARTEMENT"
ジェローム・ロビンズ振付『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』マッツ・エック振付『アパルトマン』

3月のガルニエ宮は前半がジェローム・ロビンズ(1918・1998)の『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』、休憩後がマッツ・エック(1945生)の『アパルトマン』という対照的な作品が並んだプログラムだった。    
『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』は幕が上がると、まずショパンのマズルカ作品6第2番の流麗な旋律に乗って3月7日にエトワールに任命されたばかりのジョシュア・オファルトが登場した。はつらつとした若さにあふれている。
背景のスクリーンには青い光が投影され、マズルカ、ワルツ、エチュード、スケルツォ、ノクターンといった音楽とあいまって幻想的な雰囲気が舞台を包み込んだ。ソロ、デュオ、二組のデュオといったソリストたちが視線を交わし合い、近づくかと思うと離れていく。パートナーを取り交わす場面も軽い戯れのトーンを離れることはない。やわらかい、音楽に寄り添ったムーブマンはあくまでも優しく、失われてしまった時代へのノスタルジーに満ちている。
ミュリエル・ジュスペルギの明るい笑顔、あくまでもたおやかなオーレリー・デュポン(軽く手の甲をしならせるとちょっとした仕草だけでもエレガンスの香りが立ち込める)をはじめとして女性たちはあくまでも優しく、一方イタリア人らしいぐっと人を引き付ける茶目っ気たっぷりなアレッシオ・カルボネ(赤いバラを女性に差し出す動作一つだけでもドラマが生まれる)ら男性はダイナミックに、とダンサーたちの個性が交錯しながら、男女五人それぞれの対照が鮮やかだに浮び上がった。
ちょっと寂しかったのは「緑」役に予定されていたマチュー・ガニオを見ることができなかったことだ。大判のポスターには名前があったものの、配役表印刷の時点でバンジャマン・ペッシュに、そして最終的にはスジェに昇格したばかりのピエール・アルチュール・ラヴォーに代わった。パリ・オペラ座バレエ団きってのダンスール・ノーブルはかけがえのない存在なのだ。次の公演に期待したい。

pari1204a01.jpg (C)Sebastien Mathé/Opéra national de Paris pari1204a02.jpg (C)Sebastien Mathé/Opéra national de Paris

後半の『アパルトマン』は休憩時間中にオーケストラピット部分をせり上げて、張り出した舞台で演じられた。
第1場のバスルームの場面では幕をたくし上げてマリ=アニエス・ジローが現れた。ビデ一つという装置だが、中に顔を突っ込んだり、その上に仰向けに横たわったりというさまざまな姿態は、日常生活のありふれた動作を組み合わせたものでありながら変化に富み、ジローの強靭な筋肉のきびきびとした動きからは誰もが目を離せなくなった。第2場の長いすに座ってテレビを見ている男を、皮肉たっぷりに踊ったヴァンサン・シャイエの芸達者ぶりも強烈な印象を残した。
掃除機を手にした5人の女性によるアイルランドのジーグも圧巻で、ジローとともにプルミエ・ダンスールに昇格したばかりのアリス・ルナヴァンの切れの良い動きが目に付いた。昨年秋『泉』で怪我をしたニコラ・ル・リッシュも復帰し、野性味に富んだ存在感たっぷりな姿を見せてくれた。
舞台幕を場面の進行に従って挙げ、空間のヴォリュームに変化をつける以外は、ビデ、レンジ、テレビ、長いす、ドアといった場面に、わずか一つか二つの小道具だけであとは何もない裸の舞台で、ダンサーの緩急に富んだ動きだけで構成された個性的な作品に年齢を問わず客席から大きな喝采が送られた。
エレガンスにみちた優美な19世紀の夢に浸らせてくれた前半のロビンズ、激しくざらついた現代の日常を生々しく浮き上がらせたエック、という対照的ながらいずれも完成度の高い二つの作品がダンスの魅力をたっぷり感じさせてくれた夕べだった。 
(2012年3月31日 ガルニエ宮)

pari1204a_01.jpg (C)Sebastien Mathé/Opéra national de Paris pari1204a_02.jpg (C)Sebastien Mathé/Opéra national de Paris
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"Dances at a gathering"
音楽/ショパン 演奏 久山亮子
振付/ジェローム・ロビンズ
衣装/ジョー・ユーラ
照明/ジェニファー・ティプトン
配役(登場順) ジョシュア・オファルト(茶)、ミュリエル・ズスペルギー(黄色)、ピエール・アルチュール=ラヴォー(緑)、オーレリー・デュポン(ローズ)、カール・パケット(紫)、メラニー・ユレル(青)、クリストフ・デュケンヌ(青)、エヴ・グランスタイン(葵)、アニエス・ルテスチュ(緑)、アレッシオ・カルボーネ(煉瓦色)
"Appartement"
音楽/フレッシュ・クワルテット(舞台上で生演奏)
振付/マッツ・エク(2000年パリ国立オペラ座)
装置・衣装/ペデール・フレイユ
照明/エリック・ベルグラント
配役 1. 浴室 マリ=アニエス・ジロー、ジェレミー・ベランガール、ニコラ・ル・リッシュ、オードリック・ブザール、アドリアン・クーヴェーズ
2. テレビ ヴァンサン・シャイエ
3. 歩道 アリス・ルナヴァン、アマンディーヌ・アルビッソン、クリステル・グラニエ、ニコラ・ル・リッシュ、オードリック・ブリザール、シモン・ヴァラストロ、アドリアン・クーヴェーズ
4. キッチン(パ・ド・ドゥ) クレールマリ・オスタ、ジェレミー・ベランガール
5. 子供の遊び(トリオ) クリステル・グラニエ、ロール・ミュレ、シモン・ヴァラストロ
6. ワルツ アマンディーヌ・アルビッソン、オードリック・ブザール、クレールマリ・オスタ、ジェレミー・ベランガール、マリ=アニエル・ジロー、ヴァンサン・シャイエ、アリス・ルナヴァン、ニコラ・ル・リッシュ
7. 掃除機の行進 マリ=アニエス・ジロー、クレールマリ・オスタ、アリス・ルナヴァン、アマンディーヌ・アルビッソン、ロール・ミュレ
8. 胎児のデュオ シモン・ヴァラストロ、アドリアン・クーヴェーズ
9. グラン・パ・ド・ドゥ アリス・ルナヴァン、ニコラ・ル・リッシュ
10. フィナーレ 出演者全員