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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2012.02.10]

踊りのエネルギーが弾けるようなブルノンヴィルの『ナポリ』

Ballet Royal du Danemark デンマーク王立バレエ団
Sorella Englund / Nikolaj Hubbe "Napoli" ソレラ・エングルントとニコライ・ヒュッベ振付 『ナポリ』

ガルニエ宮の新春はデンマーク王立バレエ団の引越公演だった。演目はオーギュスト・ブルノンヴィル(1805・1879)の原振付をもとに2009年にソレラ・エングルントとニコライ・ヒュッベが新しく振付、演出した3幕の『ナポリ』である。1月7日のプルミエにはデンマーク女王もフランス人の夫君とともに臨席した。

pari1202a01.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe

ナポリの下町サンタ・ルチアの漁師ジェナーロはテレジナと相愛の関係にあるが、テレジナの母は二人の結婚に反対している。海の散歩に出かけた二人だが、嵐になり、テレジナの行方がわからなくなってしまう。不思議な女巡礼の助けで海底の青い洞窟を訪れたジェナールは悪の精ゴルフォの手からテレジナを奪い返す。陸に戻った二人は人々に迎えられ、にぎやかな婚礼が行われる。
この筋は地獄に愛妻ユーリディーチェを探しにいった古代ギリシャのオルフェウス神話に似ているが、最後がハッピーエンドになっている所が大きく違っている。
第1幕サンタ・ルチアの港の場面は恋人たちのパ・ド・ドゥがあるもののパントマイムが主体となっていた。新振付が1950年代に時代をずらした結果、装置や衣装だけでなく動作や仕草、視線も戦後のイタリア映画を思わせる作りになっていた。(ブルノンヴィルの原振付は1842年のナポリを背景にしていた)
女装のホモが長々と立ち回るところは悪趣味でちょっと興ざめだったものの、軒下で客を引く娼婦たちや魚屋、リモネード売りが下町の雰囲気をそれらしく感じさせた。
ヒロインのテレジナ役のスザンネ・グリンダーは表情豊かで、若々しさが周囲にぱっと広がった。群舞で目に付いたのは半ズボン姿の男性たちの脚の筋肉だ。ふくらはぎの筋肉が盛り上がっていて文字通り筋骨隆々。パリ・オペラ座バレエ団のダンサーとは全く違う体型になっている。
エドワード・ヘルステッド、ホルガー・シモン・パウリ、ハンス・クリスチャン・ルンバイ合作の音楽はロッシーニの『セビリヤの理髪師』を引用するなど、19世紀半ばのロマンチックな音楽で物語にぴったりだった。

pari1202a04.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe

第2幕は照明と現代的なスクリーン映像を駆使することで、青の洞窟が表されていた。海底というロマンチックで幻想的なシーンを期待していただけに、特殊効果を使ったアメリカ映画を思わせる舞台は一貫性に欠ける印象を与えた。ニコライ・ヒュッベの新振付は「パントマイムの側面を消そうとするあまり、装置も、振付のエクリチュールも単なる映画的な描写にとどまり、パも出し惜しみ、ドラマにも欠けた」(「コンセールネット」誌)、「ちょっとモダンなだけで、愚かしい」(ジャックリーヌ・チュイユー「コンセールクラシック」誌)と期待を裏切り、取って付けたような現代作曲家による女性のささやき声とハープとチェロのピチカートという音楽(ほとんど映画の効果音に近い)も味気ない印象を残した。
第3幕になって、左右の袖に岩、左奥が教会で壁の後方にヴェスビオ山が遠望される。壁の上の道に女巡礼が姿を見せ、本来のブルノンヴィルの世界が広がった。
巡礼のやさしいまなざしに見守られて、奇跡的に嵐の海から生還した恋人たちが登場し、結婚式となる場面だ。色とりどりの衣装がカラフルに揺れて華やいだ空気が舞台に立ち込めた。 
ミラノ固有の「タランテラ」の音楽にのったフィナーレはあたかも一筆書きであるかのようだった。ソリストが一人また一人とソロを披瀝した後、少しも休むことなく次々に輪舞の輪に入っていく。独特な肩(エポールマン)、脱力しての垂直方向への跳躍、一つ一つの動作が滑らか重ねられ休止のないはじけるようなエネルギッシュな動きからは、誰もが目を離せない。ブルノンヴィルが実際にサンタ・ルチア港を見下ろす部屋から見た、何時までも踊り止まないナポリの下町の人々の姿がダンサーたちに重なって浮かび上がってくるかのような錯覚に囚われた。
(2012年1月10日 ガルニエ宮)

pari1202a03.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe

『ナポリ』オーギュスト・ブルノンヴィル台本による3幕のバレエ
音楽/エドワード・ヘルステッド、ホルガー・シモン・パウリ、ハンス・クリスチャン・ルンバイ(第1・3幕 1842年) ルイーズ・アレニウス(第2幕 2009年)
ダヴィッド・レヴィ指揮コロンヌ管弦楽団
振付・演出/ソレラ・エングルント、ニコライ・ヒュッベ(オーギュスト・ブルノンヴィル原振付)
衣装・装置/マヤ・ラヴン
グラフィック/アントン・リープ
照明/ミッキー・クンツ
ジェナーロ(若い漁師)/ウルリック・ビルキャール
ヴェロニカ(若い未亡人)/メッテ・ボドチャー
テレジナ(ヴェロニカの娘)/スザンネ・グリンダー
ジャコモ(パスタ商人)/フェルナンド・モラ
ペッポ(リモナードの売り子)/ジャウン・リュシアン・マッソ

pari1202a07.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe pari1202a08.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe
pari1202a02.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe pari1202a06.jpg (C)Opéra national de Paris / Laurent Philippe