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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2011.08.10]

マクレガーの新作『感覚の解剖学』の抽象表現を超えた鮮烈なダンス

Ballet del' Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Wayne Mcgregor "L’Anatomie de la sensation pour Francis Bacon"
ウエイン・マクレガー振付『感覚の解剖学 フランシス・ベーコンのために』
pari1108b01.jpg (C) Anne Deniau/
Opéra national de Paris

今シーズンのパリ国立オペラ座バレエ団の唯一の世界初演である『感覚の解剖学 フランシス・ベーコンのために』を見た。当初は6月29日にプルミエが予定されていたが、大道具担当のわずか数名の職員が年金改革に反対してストを行ったために中止となった。パリ国立オペラ座ではしばしば裏方のストにより公演中止を余儀なくされ、歴代の総監督の頭を悩ましてきた。

振付を担当したウエイン・マクレガーは1970年、英国のストックポートに生まれている。1992年に自分のバレエ団ランダム・ダンスを創設し、ニューテクノロジーを取り入れた特異なダンスで注目を浴びている。
マクレガーは少年時代にドイツで見たブランシス・ベーコンの奇妙な絵画に惹かれた。ベーコンは美術学校で学んだことはなく、ピカソを見ながら独学で絵画の道に入っている。そこには、世界をイメージとレフェランスとのせめぎあう場所ととらえ、その二つの間にある空間が再創造の場として利用されていた。肉体を絵画の中心に据え、永続的にイメージを変容させることで新しいオブジェを作り出すプロセスを目にして、コレグラフィーとの類似に打たれたという。

『感覚の解剖学』という題に「フランシス・ベーコンのために」という副題が添えられたことにウエインのこの画家への思い入れが反映している。ヤニック・ビッテンクールとアレクサンドル・ガスが踊った第1のムーブマンでは、二つの頭と引き伸ばされた手足がベーコンが描いた身体のように歪められ、デフォルメされたいた。ベーコンの絵画の名前を題名にしたマーク・アントニー・ターナージのジャズが優秀なアンサンブル・アンテルコンタンポラン管弦楽団によって演奏され、9つのムーブマンから全体は構成されていた。
その中にはマリ=アニエス・ジローのソロによる第2のムーブマン、単なる抽象的な動きを超えて絵の中の人物のように個性的な特徴を与えることに成功したアリス・ルナヴァン(第4のムーブマン)、久しぶりの舞台でも存在感にかげりのなかったオーレリー・デュポンの第6のムーブマンと、ダンサーの創意による印象深いシーンがいくつかあった。しかし、個々のムーブマンを結んで、全体として振付家が表現しようとしたのが何だったのかは最後まで判然としないうちに、75分の上演時間が過ぎ去っていた。
ベーコンとの関連性も、青、赤、紫という画家が好んで使った色が使用されていたことと、上に記したわずかな相関性を別にすると全く見られなかった。見る人に嫌悪感をおこすほどの強いエネルギーを持つベーコンの世界とは皆無の、表現する対象のないダンスだったためにバレエ評論家からは酷評されたものの、ダンサーたちの思いのこもった踊りに対しては一般観客からは大きな拍手が送られていた。
(2011年7月5日 バスチーユ・オペラ)

pari1108b02.jpg (C) Anne Deniau/
Opéra national de Paris
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Opéra national de Paris
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 (C) Anne Deniau/
Opéra national de Paris

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(C) Anne Deniau/ Opéra national de Paris

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『感覚の解剖学  フランシス・ベーコンのために』
音楽/マーク・アントニー・ターナージ
ピーター・ランデル指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン管弦楽団
振付/ウエイン・マクレガー
装置/ジョン・パーソン
衣装/モリッツ・ユンゲ
照明/リュシー・カーター
第1ムーブマン/ヤニック・ビトンクール、アレクサンドル・ガス
第2ムーブマン/マリ=アニエス・ジロー
第3ムーブマン/レティシア・プジョル、アマンディーヌ・アルビッソン、ヤニック・ビトンクール、アレクサンドル・ガス他
第4ムーブマン/アリス・ルナヴァン、ニコラ・ポール、サブリナ・マレム、ジュリアン・メザンディ
第5ムーブマン/レティシア・プジョル、アマンディーヌ・アルビッソン、ローレーヌ・レヴィ、マチルド・フルステ、アドリアン・クーヴェーズ他
第6ムーブマン/オーレリー・デュポン、ジェレミー・ベランガール
第7ムーブマン/エレオノール・ゲリノー、シルヴィア・サン・マルタン他
第8ムーブマン/サブリナ・マレム、ジュリアン・メザンディ