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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2005.03.10]

●パリ・オペラ座、3人の女性振付家<ノワレ/リンケ/スコッツィ>の夕べ

 前号既報のように、2月の女流3振付家の夕べで、ウィルフ リード・ロモリがエトワールに任命されたことは、新年に明るい話題を提供することになった。しかし、残念ながら、プログラム全体が地味だったため、最後ま で観客動員の点では苦戦していたようだ。(公演は2月3日から24日までガルニエ)。

 個人的には、ミシェル・ノワレもスザンネ・リンケも、非常に個性の強いダンサーなので、振付作品にも大変興味を引かれたが、共に、2人の男女ソリストに コール・ド・バレエを配した、30分ほどの今回の新作が、オペラ座の踊り手たちの資質や個性を十分生かした画期的な作品となったかどうかは疑問である。

『迷宮の人々(Les Familiers du labyrinthe)』


 ベルギー出身のノワレ振付の『迷宮の人々(Les Familiers du labyrinthe)』は、暗いブルーに包まれ、天井から吊られた3つの巨大なパネルが移動する空間が舞台。地鳴りのようにとどろくトッド・トドロフの ミュージック・コンクレートの音響が、工場か未来都市の中にいるような印象を与える。ノルウェン・ダニエルとバンジャマン・ペッシュ以下、13人の踊り手 たちは、信頼し合っているというより、互いに警戒していているような雰囲気で、空間を行き来する。両手を組んだり、こすり合わせる動きが特徴的で目につく が、踊りのダイナミズムやオリジナリティーの点で物足りなさを残してしまった。


『私は・・・』
  続くリンケ作品『私は・・・』は、リンケが敬愛するマリー・ヴィグマンとドーレ・ホイヤーへのオマージュ的作品。ソリストのロモリとメラニー・ユレルが、 18人のアンサンブルの間を縫うようにして登場するが、ユレルよりもロモリの存在感の方が強調されていたように見える。舞台奥にグランド・ピアノが置か れ、ピアニスト(フレデリック・ラグノー)が重いタッチや静謐な響き、あるいは小刻みの繰り返しの音響を奏でていく(音楽:トーマス・シコルスキ)。黒い 僧服のような衣裳を着けたロモリの立ち姿には、ヴィグマンのシルエットが重なって見える。非常に抑制された動きの中に、秘めたエネルギーが感じられた。 コール・ド・バレエは、後半にようやく即興的な各自のソロの場が与えられたほかは、概して歩いて舞台を横切る背景としての扱いに終わっていたのが惜しまれ る。

幕が下り、再びカーテンが上がると、舞台にモルティエ総監督とルフェーヴル舞踊監督が並び、ロモリのエトワール任命が発表された。観客の前で任命が行われたのは、何年ぶりのことだろう。その場に居合わせた観客は総立ちで、喜びを分かち合った。


 作品的には、昨秋のプレルジョカージュ振付『メディアの夢』などの方が、エトワール任命の舞台としてふさわしかったかもしれない。41歳という年齢も、 コンテンポラリーの小品での任命もすべて異例のことだが、これも従来の制約にとらわれない新体制になっての変化の一つだろう。シーズンが始まって以来、特 にオペラの新制作で人気を失っているモルティエ体制にとって、今回の任命は、窮地を救う明るいニュースとなったことは確かだ。

 当夜は、ここでおしまいではなく、ブレヒト=ワイル の『七つの大罪』が最後を締めくくった。ローラン・ペリー演出、ラウラ・スコッツィ振付で、2001年に初演された制作の再演。アンナ1を歌手のウルス ラ・ヘスが歌い、アンナ2をエリザベト・モランとカロリーヌ・バンスが踊り分けた。舞台は、ポップ・アート風で、ヒップホップ調のスコッツィの振付もパン チが効いて、アイディアあふれて見所が多い。相変わらずモランの演技は達者で、セリフが聞こえてきそうなほど真に迫っていた。

なお、終演後、レセプションがあり、新エトワールのロモリは、鮮やかなオレンジ色のセーターで登場、関係者から祝福を受け、晴れやかな笑顔を見せた。ダ ンサーの姿は少なかったが、首脳陣は勢揃いし、新メートル・ド・バレエのローラン・イレール(正式の就任は3月1日より)がロモリのそばに寄り添うように 激励の言葉をかけていたのが印象的だった。

『七つの大罪』