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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2016.10.11]

シュトラウスなどウィーンで活躍した作曲家たちの音楽に、バランシンが振付けた華やかな作品集

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ
BALANCHINE X VIENNA 「バランシン X ウィーン」

ニューヨーク・シティ・バレエの秋のシーズンが始まった。「バランシンXウィーン」というプログラムは、ウィーンで活躍した作曲家たちの曲にバランシンが振付けた作品を集めたもの。

NY1610a04.jpg Divertimento No.15. Photo (C) Paul Kolnik

最初に踊られたのはモーツアルトの『ディヴェルティメント15番(Divertimento No.15)』。音楽のイメージに基づき、花をあしらった美しい衣裳を着けたダンサーたちにより、様々なフォーメーションが展開する。動きは非常に音楽に忠実かつ、優れた解釈で振付けられている。しかし、ダンサーの解釈によっては、テクニックのみを考慮した演技が見られ、音楽の情緒が伝わってこない場面が認められた。また、動きが揃わないため、本来の効果が失われていると思われる場面も見られた。この日のプログラムの中では、恐らく一番テクニック重視の演技が認められた作品と言える。

次に踊られたのは、アントン・フォン・ヴェーベルン(Anton von Webern)の曲に振付けられた『エピソード(Episodes)』。ヴェーベルンは前衛音楽の草分けとして知られる作曲家。19世紀後半から20世紀前半の生存当時には彼の音楽は社会に受け入れられなかったが、彼の死後の二次世界大戦後に認められ、現代の前衛作曲家に大きな影響を残したと言われる。バランシンがこの作品を初演したのが1959年というから、ヴェーベルンの作品が見直された頃、いち早く導入したと言える。
正直なところ、ヴェーベルンの曲そのものは聞いていて気持ちの良いものではなく、不快と言った方が当たっている。『シンフォニー21番(Symphony, Opus 21)』はダンサーたちの美しい動きと音楽の不快さが不思議な対象をなすもの。不快な音楽をこんな風に聞いてみました、というかのようなバランシン独特の音楽の視覚化だ。『エピソード』の製作には実はマーサ・グラハムも当初関わっており、後にバランシンはグラハムとそのダンサー(ポール・テイラー)が関わった部分をすべて削除したという。しかし、男女のデュエットの『5つの作品、10番(Five Pieces, Opus 10)』にはグラハムの影響を彷彿とさせるリフトが認められた。『コンチェルト24番 (Concerto, Opus 24)』は足のフレックスを多く使ったり、ダンサーがカエルの様な形でポーズをとったり、敢えて奇妙な形も取り入れるなど、音のイメージを更に発展させている。しかし美しいデュエットも含まれ、不快な音楽を美しく見せている。この作品の最後に配されたバッハのMusical Offeringをヴェーベルンが編曲した、『Ricercata in six voices from Bach’s Musical Offering』は、やっと音楽らしい曲想となり、ほっとする。ブルーグレイの背景に黒い衣裳のダンサーたちがまるで墨絵を散らした様に見える。一組の男女のデュエットと14人の女性の群舞で構成され、曲調が美しいとダンスも美しく見えると思われたのが面白い。

NY1610a02.jpg Divertimento No.15. Photo (C) Paul Kolnik NY1610a01.jpg Episodes. Photo (C) Paul Kolnik

最後は観客に愛される作品、『ウィンナー・ワルツ (Vienna Waltzes)』。この作品では、かつてはテクニック指向でともすれば退屈な舞台になりがちだったニューヨーク・シティ・バレエの新しい側面が見られた。
ヨハン・シュトラウス二世の『ウィーンの森の物語 (G Schichten aus dem Wienerwald)』は、私が過去に見たニューヨーク・シティ・バレエとは全く違うものだった。美しいロマンチックな曲が流れる中、一組の恋人たちが現れる。そして多くの男女のダンサーが現れ、貴族の森の中のパーティのような風景に。女性はキャラクターシューズを履き、長いピンクのドレスの裾を華やかに翻す。男性は軍服風のタキシード姿だ。最初のカップルのレベッカ・クローン(Rebecca Krohn)とラッセル・ジャンゼン(Russell Janzen)の踊りには常に会話が存在している。特にクローンの表現が素晴らしく、他のダンサーたちとほぼ同じ衣裳でありながら、表情と気品のある踊りで浮き立っていた。寸時も気を抜かない演技で、うっとりと恋人と踊る様は観客を別世界に連れて行った。これはかつてのニューヨーク・シティ・バレエの舞台では見られなかったものだ。

また、同じくヨハン・シュトラウスの『爆発ポルカ (Explosions-Polka)』はコミカルなアレグロの踊り。男性ダンサーたちはリーゼントのような鬘を被って衣裳もコミカルなら、振付もコミカル。音楽の演奏もコミカルで、子供のふざけ合いのような振付で笑わせた。

フランツ・レハールの『金と銀のワルツ (Gold Und Silber Walzer)』も物語性を加えたニューヨーク・シティ・バレエの新しい側面が多く見られた。耳慣れたウィンナー・ワルツが流れる中、場面は貴族の館の広間に変わり、着飾った男女が踊る。その中で公爵と思われる男性が相手を探すような風情。まもなく黒い衣裳の貴婦人が入ってくる。彼女に挨拶してエスコートする公爵。そのまま踊ろうとすると、他の男性たちが彼女を引き取り、公爵は他の女性たちに囲まれる。何か訳ありのようだ。しかし、すぐに二人は組んで踊り始める。公爵役のチェース・フィンレイ(Chase Finlay)はカリスマ性があり、堂々かつ上品な押し出しを持っている。女性を演じたローレン・ロベット(Lauren Lovette)も高貴なイメージだ。女性は人妻だろうか、二人は道ならぬ恋に陥っているのだろうか?と想像させる中、二人が口づけをするところで終わる。

リヒャルト・ストラウスの『薔薇の騎士第一章 (Der Rosenkavalier Erste Walzerfolge)』がこの華麗な夜を締めくくった。舞台は豪華なボールルームとなり、美しいドレスとタキシードのカップルが行きかう。舞台の背面は鏡の壁になって、ダンサーたちを美しく反射している。そんな中に、一人だけの白いドレスの女性(テレサ・レイクレン/Teressa Reichlen)が出てくる。空想の相手と一緒に踊るように一人で踊りだす。非常に美しいダンサーだ。男性(アマール・ラマサール/Amar Ramasar)が時折出てきて一緒に踊っては消える。恐らくはまだ見ぬ恋人か、遠く離れている人だろう。レイクレンの踊りは情緒が深く、わずかな手の動きも美しい。表情のある体の使い方だ。やがて壮絶かつ美しい舞踏会の場面となり、多数のダンサーで舞台いっぱいにワルツが繰り広げられる。白と黒だけの衣裳だが、非常に華やかで、圧巻のフィナーレとなる。
素晴らしいルーベン・ターアルチュニアン (Rouben Ter-Arutunian) の美術とセットが各場面を見事に演出した。
(2016年9月23日夜 David H Koch Theaterr)

NY1610a03.jpg The Company in Balanchine's Vienna Waltzes. Photo (C) Paul Kolnik