「ニューヨーク・ニューヨーク」を歌いながらラインダンスで舞台を締めくくった、サラ・バラスの『アルマ』
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ワールドレポート/ニューヨーク
ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA
Flamenco Festival フラメンコ・フェスティバル
"Alma" Sara Baras
『アルマ』サラ・バラス:振付・出演
毎年恒例のスペインのフラメンコ・フェスティバルが、3月23日から26日までニューヨーク・シティ・センターで開催されました。フラメンコ・フェスティバルのプロデューサーはミゲ―ル・マリン(Miguel Marin)です。
今年は、スペインを代表するバイラオーラ(フラメンコ・ダンサー)のサラ・バラスの『アルマ』の上演でした。アルマとはスペイン語で魂という意味です。3月24日の公演を観ました。
スペインのフラメンコのアーティストたちは大所帯を率いて世界巡業をしていて、毎年、ニューヨークではフラメンコ・フェスティバルが行われます。フラメンコ音楽の演奏とダンサーたちの迫力ある熱い舞台が観劇できる貴重な機会で、チケットは毎回ソールド・アウトになります。
今年のフラメンコ・フェスティバルのメイン・ステージは、サラ・バラスだけでした。以前は、毎年、何組ものアーティストたちがフラメンコ・フェスティバルの世界巡回公演を行なってきましたが、パンデミックでお休みの期間をはさんで、3回くらいサラ・バラスの公演だけが続いています。それだけ、世界へ向けてスペインの顔として選ばれ続けているサラ・バラスは、現在、最高の女性のフラメンコ・バイラオーラであり、スペイン文化のフラメンコを体現している証です。
photo/Sofia Wittert
サラ・バラスはスペイン、カディスのサン・フェルナンドで1971年生まれました。フラメンコ一家の両親の影響で幼少時から母親のフラメンコ教室で学び、早くから世界中の舞台で踊ってきたサラブレッドです。小さい頃からいつも踊りたくてたまらず、毎日毎日、ずっとフラメンコの練習をしてきて常に踊り続けていたそうです。バラスは若い頃から活躍し続けていて、2003年にスペイン国家舞踊賞(Premio Nacional de Danza)を受賞、2020年にはローレンス・オリヴィエ賞(Laurence Olivier Award)も受賞しています。
バラスはフラメンコのバイラオーラと振付、芸術監督だけでなく、映画、テレビ、CM、モデル、ファッションショーなど多方面で長く活躍してきました。かつて私がスペインに住んでいた時に、サラ・バラスが国営放送のテレビ番組「アルゴ・マス・ケ・フラメンコ」(Algo Mas Que Flamenco)の司会をしていて、毎回フラメンコ・アーティストが出演し、バラスが紹介していました。毎週楽しみにして観ていました。1996年から2002年のことですから、その頃の20代の若いサラ・バラスはとっても可愛らしくて華があり、でも声はハスキーでドスが利いていて存在感がありました。
今はすっかりマダムになり落ち着いた雰囲気になって、若い頃よりも今のほうが幸せそうな雰囲気です。舞台公演で踊っている姿もとても明るくて楽しそうで、心からフラメンコが大好きな様子が伝わってきます。しかも、とても気さくで性格が良さそう。ますます、公私共に幸せな人生を歩んでいるのだと思います。バラスに憧れてフラメンコを始めたアーティストも多く、バイラオールたちに多大な影響を与えています。
photo/Sofia Wittert
photo/Sofia Wittert
バラスが若い頃は息を飲む大音量のサパテアードの速打ちは圧巻で、その力強いパワーに圧倒されて、観終わった後はしばらく感動の衝撃が残っていたほどでした。
現在、バラスは52歳ですが、今でもダンサーとしての肉体を保つためにとても節制されていて厳しい鍛錬を積んでいることが、舞台を見ているとよく分かります。今回の演目でも、舞台の半分以上はほとんどバラスがソロで踊っていて、存分にバイレを見せています。現在もバラスの迫力あるサパテアードは健在で、まだまだ現役で踊り続けることができそうです。
バラスは年月を経て、様々な経験をした後、今の舞台作品はさらに素晴らしい音楽の生演奏を重視していて、踊りは迫力よりも舞台全体でストーリー性と起承転結があり、より芸術的な舞台を作るように変化しています。年齢を積み重ねるごとに、さらに全体で芸術的な舞台を芸術監督としても振付家としても創作しているので、常にアーティストとして成長し続けていて円熟味が増しています。
photo/Sofia Wittert
photo/Sofia Wittert
今回の作品『アルマ』は、芸術監督と全ての振付はサラ・バラス、音楽は全編オリジナルで、ギタリストとしても出演したケコ・バルドメロ作曲です。
生演奏のミュージシャンはギター2名、カンテ2名、パーカッション2名、サックス&フルート&ハーモニカ1名の合計7名のバンドでした。出演ダンサーは7名で、主役のバイラオーラはサラ・バラス、他に女性バイラオーラ5名、男性バイラオール1名です。
『アルマ』は「戻ることは常に夢への招待であり、再開することは発見への道であり、この機会に、戻ることは再会であり、書かれるスコアと私たちに再会するために点灯しなければならない照明と私たちの感情と言語を劇場の不確かなキャンバスに描くことにめまいを感じ、拍手、愛情、暖かさ、私たちを維持し続ける理由との不可能な抱擁、観客へ戻ります。魂はフラメンコがボレロを抱きしめる巨大な抱擁であり、ボレロはフラメンコから抱擁され、セギリージャ、ソレア、カニャ、ガロティン、ブレリアになる・・・形、色、官能性が容赦なく予期せぬ回転に捉えられ、旋律はひねられ、愛はバラバラになり、声とギターは空っぽになり、手には魔法があり、足には運命がありました。魂は絶え間なくうなずき、常に私たちと一緒にあったメロディの記憶の中での冒険です。魂は、フラメンコの最も伝統的なスタイルに適応した伝統的なサウンドを使用して、まったく新しい振付と音楽から世界を熟考する方法で、人生を理解し、それをビートに乗せる方法の特異なブランドの作成です。 ダンス、音楽、衣装、照明、テクスチャー・・・今の時代に本物の味、ボレロの魂を持つフラメンコ。」
photo/Sofia Wittert
photo/Sofia Wittert
『アルマ』のプログラムの演目は11曲で、休憩なしでノンストップでした。
最初は、サラ・バラス自身のナレーションだけが流れるところから始まりました。起承転結があり、ゆるやかでゆったりとしたリズム、だんだん盛り上がって激しく早くなっていくリズム、強弱のコントラストが強かったです。伝統的な昔ながらのフラメンコの要素もしっかりとあり、基本が大切にされていました。それだけではなく、全体的に現代の新しい表現、振付もプラスされていました。衣装は現代的で、サラ・バラスらしいシンプルなラインのドレスが多かったです。
ギタリストのケコ・バルドメロが作曲した全ての音楽は、伝統的なフラメンコではなく、ジャズの要素が多く混ぜられていて、新しくて現代的で、素晴らしかったです。音楽のバンドはカンタオール2人を含む7人編成で、分厚い音で、迫力のある素晴らしい演奏でした。サックス、フルート、ハーモニカという、伝統的なフラメンコにはなかった楽器の演奏も取り入れていて、ジャズのようなフラメンコ音楽でしたので、斬新でした。今回は音楽が特に技術的にもアレンジもレベルが高くて素晴らしかったと思います。
今を生きる振付家でダンサーの現代的な作品で、ただ伝統的な古いスタイルのフラメンコをそのまま再現して繰り返しているのではなく、常に新しい現代の風を表現しているという、バラスの努力が表れていました。伝統的なフラメンコという型から飛び出して、かつ、伝統も大切に引き継いでいて、土着的なフラメンコのバイレもちゃんと入れていました。伝統的なダンスとされているフラメンコの踊り方も時代とともに変化していき、フラメンコ音楽も現代風に変化していき、フラメンコも生きていて時代を反映していっているのだなと思いました。
私は昔の古い時代のフラメンコの映像も観ますが、バラスのような現代のフラメンコ作品と比べると、大昔のフラメンコは衣装や踊りも一昔前の時代のものなのだなと感じます。ダンスとは、衣装も踊りもその時代を反映していて生きているのだなと分かります。
photo/Sofia Wittert
photo/Sofia Wittert
ほとんど舞台の半分以上を主役のサラ・バラスが踊り、他に女性1名や男性1名がバラスと共に重なって踊ったり、他の群舞の女性4名も加わって全体で迫力のある踊りを同じ振付で踊っていきました。
大きなマントンを使って踊るところもありました。足のサパテアードだけでなく、両手や上半身をよく使ってダンスの要素が多かったです。
サラ・バラスらしい見せ場も多く用意されていて、ソロで、横向きに舞台に立ち、ロングスカートのスソをひざ上までまくり上げて、すごい速さと音量で見事な早打ちのサパテアードは圧巻で、すごい迫力で、重心もどっしり安定していて健在でした。
バラスとカンタオールが交互に掛け合いをしてバトルで踊ったり、バラスとサックスの演奏が交互に掛け合いをして踊ったり、ミュージシャン1人ずつと1対1でバラスが踊るところも多かったです。
録音の現代的なピアノ曲が流れて、舞台上で衣装を着替えて演技をするシーンもあり、静かな演技と踊りがありました。このような構成は、フラメンコの枠にとどまらないものです。
photo/Sanana de Yepes
最後のほうには、昔ながらの伝統的なフラメンコらしい要素もちゃんと用意されていて、ミュージシャン達とダンサー達が真ん中に集まって、1人ずつ順番が周ってきて真ん中に出てダンス・バトルをしていくシーンもありました。周りを囲んだミュージシャン達やダンサー達は、手拍子をしながら掛け声もいれて、「トマ・トマ・トマ!」とか「セニョーラ!」とか大声で言って、みんなお互いに燃え上がり始めて、だんだん盛り上がっていき、踊りも演奏も掛け声も激しくなりました。これは、客席も一番盛り上がったシーンでした。このダンス・バトルの掛け合いでどんどんエスカレートして燃え上がっていき盛り上がるシーンはフラメンコらしいので、この要素は大事な伝統だと思います。
幕が閉じてからも、何度もアンコールで出てきて踊り、演奏し、何度か続いて、いつもサラ・バラスは観客に対してサービス精神が旺盛です。
そして今回は、フランク・シナトラが歌った有名な曲、「ニューヨーク・ニューヨーク」を出演者が皆で横に並んで歌いながら、ラインダンスをしていました。これはとても受けていて、ニューヨークの観客はとても喜んでどよめいていて、いっしょに歌っている方々もいました。ニューヨーク公演でニューヨークの歌を歌ってニューヨークらしいラインダンスの演出まで用意していて、バラスは大スターなのに茶目っ気があり、現地の観客に喜んでもらえるように尽力していることが分かります。きっと、世界ツアーで行く先々で、その現地ならではのご当地ものの演出を考えて変えて、加えているのだろうなと思いました。
(2023年3月24日夜 ニューヨーク・シティ・センター)
photo/Sanana de Yepes
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