ニューヨーク・シティ・バレエがロビンズ、ペック、バランシンの4作品を上演した、NYCB「CLASSIC NYCB II 」

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

「CLASSIC NYCB II 」" Fancy Free " by Jerome Robbins、" Rondor " by Jerome Robbins、" Solo" by Justin Peck、" Episodes " by George Balanchine
「クラシックNYCB Ⅱ」『ファンシー・フリー』『ロンド』ジェローム・ロビンズ振付、『ソロ』ジャスティン・ペック振付、『エピソーズ』ジョージ・バランシン振付

ニューヨーク・シティ・バレエは1月17日から2月26日まで、ニューヨークのDavid H. Koch Theaterで冬の公演を上演しました。1月31日の「CLASSIC NYCB II 」の公演を観に行きました。2回の休憩をはさんで4作品が上演されました。芸術監督はジョナサン・スタフォード(Johnathan Stafford)です。

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Daniel Ulbricht, Joseph Gordon, and Jovani Furlan in Fancy Free
Photo by Erin Baiano

最初の作品は『ファンシー・フリー』ジェローム・ロビンズ振付(1944年ニューヨーク初演)で、彼が25歳の時の振付処女作です。音楽はレナード・バーンスタイン、舞台セットはオリバー・スミスです。ロビンズ、バーンスタイン、スミスの3人は、後にブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』(トニー賞受賞)などを製作した名トリオです。バーンスタインの音楽でオーケストラの演奏も素晴らしかったです。
ロビンズらしいブロードウェイ・ミュージカルの要素の強い振付で、基本はバレエでありながらミュージカルのシアターダンスのエッセンスが多く、音楽にぴったり合っている振付でした。夏のニューヨークの摩天楼を背景に、酒場とストリートで繰り広げられるストーリーです。
舞台の左半分が酒場でカウンター内にバーテンダーが1人いて、右半分がストリートという舞台設定で、休暇中に街に繰り出している3人の若い水兵がガールフレンドを探し、通りがかりの若い女性3人に声をかけていきます。
3人の若い水兵は、ダニエル・ウルブリヒト、ジョセフ・ゴードン、ジョヴァンニ・フルランで、上下真っ白のセーラー服と帽子姿。3人の若い女性はインディアナ・ウッドワード、ローレン・コレット、マロリー・ラングレンで、フレアーのワンピースと小物もカラフルでドレスアップしています。女性はヒールのついた靴で、ブロードウェイらしい振付を踊りました。
3人の水兵がストリートからバーに入ってきて、バーテンダーにお酒を注文して飲み、飲み終わってから外へ出ました。
すると、ストリートに若い女性が1人通りかかりました。その女性を彼ら3人が囲んで取り合いをして、喧嘩になり大騒ぎに。彼女は1人で去っていきましたが、そのうちの男性2人が追いかけて去っていきました。
ストリートの地面にへたりこんで残された男性1人の前をまた別の女性が通りがかり、彼は彼女に声をかけて、さきほどの酒場へ2人で入っていきました。彼はダンスで彼女にアピールし、彼らは意気投合しペアで踊りました。
先ほど去っていった仲間の水兵2人と女性1人が酒場へ戻ってきました。そしてバーの中で5人はテーブル席に着いてお酒を飲み、まず男性3人が1人ずつ順番にダンスで勝負をして、2人の女性に踊って見せました。ここが一番の見せ場で盛り上がり、3人ともとても楽しそうに明るく踊り、コミカルな振付もたくさんありました。バー・カウンターの上やイスも使って、難易度の高い技をたくさん入れて次々に踊っていき、客席は大歓声と拍手に包まれました。
この直後に、3人の水兵は喧嘩を始めて、バー・カウンターの内側に追いかけて入って殴りあいをしている間に、女性2人は酒場を出て逃げてしまいました。3人は再び酒場を出てストリートで呆然としているところに、また1人の女性が通り過ぎてきて、踊ってアピールして去っていきました。3人はワンテンポ遅れて、慌てて1人ずつ走ってカーブを曲がり、走り去っていき、幕が閉じました。
5人で様々のやり取りをセリフのないミュージカル風に踊りと演技で表し、難しいテクニックとアピールする表現にユーモアも混じえ、とても楽しいバレエで観客も喜んでいました。時代を超えて観客に受け入れられる素敵な作品です。

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Mira Nadon and Isabella LaFreniere with pianist Susan Walters in Rondo
Photo by Erin Baiano

2つ目の作品は『ロンド』。ジェローム・ロビンズ振付(1980年ニューヨーク初演)です。音楽はモーツアルトの「Rondo in A Minor, K. 511 」(1787)で、舞台上でピアニストが1人で演奏しました。
ダンサーはイサベラ・ラフレニエール、ミラ・ネードンの女性2名で踊りました。レオタードとミニスカートで、シンプルな衣装です。
ゆったりとしたテンポで、1人の女性ダンサーが床にじっと座っていて、もう1人の女性だけが踊っていたり、バレエ・ベースの振付の中にも、ロビンズらしいストーリー性を表現していました。音楽にテンポと動きがぴったり合っている振付でした。
女性2人のデュエットでシンクロする振付や、手をつないでお互いに体重を支えあって踊るところなどもあり、大開脚でジャンプするところでは、大きな拍手がありました。
2人は丁寧にゆったりした動きで、語り合うような踊りでした。アラベスク、パッセ、アティテュードなど基本的なバレエの振付が中心で、音楽的な動きでした。難易度が高い振りはあまり盛り込まれていませんでしたが、ダンサーの実力のレベルが高く、重心もよく取れていて安定した踊りでした。

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Anthony Huxley in Solo
Photo by Erin Baiano

3つ目の作品は『ソロ』で、NYCBの常任振付家であるジャスティン・ペック振付(2021年オンライン初演)です。Covid-19のパンデミックの最中に、ぺックがプリンシパル・ダンサーのアンソニー・ハクスリーのために振付けて、オンラインで放映された作品です。音楽は、サミュエル・バーバーです。ストリングスの音色で、リズムは一定ではなく、ランダムな速さでした。衣装はラフ・シモンズで、アーティスティックな素晴らしいデザインで、黒が基調のノースリーブとショートパンツのスーツと、水玉のタイツ、黒のシューズで独特の雰囲気があります。今の時代のデザインの衣装と現代の振付家ペックの新しい振付の踊りがよく合っていました。
バレエ・ベースの振付で基本と技術はしっかりしているうえに、プリンシパルであるアンソニー・ハクスリーがソロで踊ったので、そのレベルの高いバレエダンサーの実力が生かされていて振付がよく映えて、ソロで現代的な振付なのにとても見ごたえがありました。落ち着いて余裕がある踊りでした。コンテンポラリーの振付をバレエダンサーが踊ると、基本がしっかりしているので上手でよく映えます。
振付の一つ一つはバレエ・ベースなのですが、床に寝そべったり、何かをポケットから取り出して次にジャンプして大きく動いたり、コンテンポラリー的な表現が多く、パッセした後に静止せずにそのまま回転を加えてアラベスクして上半身は下げる動きを繰り返したり、アラベスクでも上半身を上にキープしないなどモダンな振付でした。
足を上げたまま回転して進んだり、ジャンプして軸足を入れ替えて進んだり、詩的でメリハリがある素速い動きが続いていて、難しい振付でした。最後はうずくまって終わり、幕が閉じました。すごい拍手でした。

4作目は『エピソーズ』ジョージ・バランシン振付(1959年ニューヨーク初演)です。音楽は、アントン・ヴェーベルン、約30分の長めの作品で、衣装はシンプルなレオタードとタイツです。
この作品は4つのムーブメントに分かれています。
1つ目のパートはもともと、バランシンがマーサ・グラハムの依頼を受けてグラハムのカンパニーのために振付けたものです。後にソロのパートをポール・テイラーのために振付け、他のパートをNYCBのために振付して加えられました。

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Miriam Miller and Russell Janzen in Episodes
Photo by Erin Baiano

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Megan LeCrone and Andrew Veyette in Episodes
Photo by Erin Baiano

1つ目の"Symphony, Opus 21"は、アンドリュー・ヴェイエット、ミーガン・ルクローンとコール・ド・バレエです。
男女ペア4組が登場し、一組ずつパ・ド・ドゥを踊ったり、4組で踊ったり散ったりしていました。リズムが無い音楽なので、テンポの取り方が難しく、踊るのが難しい作品だと思います。でもすべてのダンサーの動きとテンポが見事に揃っていました。
両足を6番ポジションのまま立って両腕だけを動かしたり、1つ1つは基礎的な動きでした。女性が床に座り込んでいる時点から相手の男性が女性の手を引っ張り上げて、女性がすばやくポワントで立ち上がりグランバットマンをしたり、動きの難易度は高いですし強弱が強く、踊り全体にメリハリがありました。
2つ目の"Five Pieces, Opus 10"はエミリー・キクタ、アレック・ナイトのパ・ド・ドゥで、左右から1人ずつ出てきて2人で踊りました。何かの生物かクリーチャーのような動きをしていて、面白い振付でした。最後は2人ともしゃがんで終わりました。
3つ目の"Concerto, Opus 24"はユニティー・フェラン、ハリソン・ボールとコール・ド・バレエが続き、4つ目の"Ricercata in six voices from Bach's Musical Offering."は、ミリアム・ミラー、ラッセル・ジャンセンとたくさんのコール・ド・バレエが大人数で迫力がある踊りでした。
大勢で固まって動いたり、センターに集まって輪になって皆で手をつないだりしていました。男女のパ・ド・ドゥの周りにコール・ド・バレエが出てきて踊りました。振付は基本的なバレエで、簡単でシンプルなもので、パッセ、アラベスクなどが淡々と続きました。基本に忠実な振付で、難易度の高い部分は無かったです。ソロ、パ・ド・ドゥが続き、リフトもあり、ゆったりと丁寧な踊りでした。
最後は、コール・ド・バレエも全員出てきてたいへんに盛り上がりました。
(2023年1月31日夜 David H. Koch Theater)

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