ジークフリート役のアラン・ベルの気品のある踊り、オデット/オディールを踊ったソ・ヒの美しさが際立った、ABT『白鳥の湖』

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by Mami Hariyama

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

"Swan Lake" by Kevin McKenzie
『白鳥の湖』ケヴィン・マッケンジー:振付

アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のサマーシーズンで『白鳥の湖』を鑑賞しました。
この日のオデット/オディールはソ・ヒ(Hee Seo)、ジークフリート王子はアラン・ベル(Aran Bell)、ロットバルトにジョー・ウォン・アーン(Joo Won Ahn)が出演しました。主演のうちの2人に韓国人がキャスティングされていることもあり、客席にはアジア人の姿が多く見られました。

slbell2gs.jpg

「白鳥の湖」アラン・ベル
Aran Bell in Swan Lake. Photo: Gene Schiavone

1幕のプロローグシーンでパ・ド・トロワを踊ったのはジミー・コーカー(Zimmi Coker)、ブレアン・グランルンド(Breanne Granlund.)、カルロス・ゴンザレス(Carlos Gonzalez)でした。3人とも若々しく実際の年齢よりも舞台上では幼く見える印象でした。女性二人とも特に足の甲が美しくポワントワークに目が奪われました。特にジミー・コーカーはジャンプも高くテクニックが強くて、どんなテンポの音楽にもぴったりと合う素晴らしい踊りを見せました。この3人は2幕(オディール姫と王子の婚約シーン)の冒頭でもパ・ド・トロワを踊るのですが、ブレアンの姿が無く急遽エリカ・ラール(Erica Lall)が代役として出演しました。このような急なキャストチェンジにより、エリカはこの日、パ・ド・トロワ デビューを果たしました。ケヴィン・マッケンジー版『白鳥の湖』のプロローグは、少し長すぎるのではないかという印象を持ちました。
1幕では、王子の誕生日パーティに集まった客人たちが華やかに踊り、長いリボンを持って踊るシーンは特に華やかで印象的です。王子役のアランは気品のある踊りと、母親に王になるために婚約相手を決めるようにと伝えられた気持ちの葛藤をよく表現していました。

slseo1gs.jpg

「白鳥の湖」ソ・ヒ
Hee Seo in Swan Lake. Photo: Gene Schiavone.

湖畔のシーンになりオデット姫のヒ・ソが登場しました。腕が細く長くて美しく、首や背中の使い方が美しいです。特にパ・ド・ドゥでは、おそらく彼女はこれまでにこの有名な王子とのパ・ド・ドゥを何十回、もしかすると100回も踊り込んでいると思います。その体に浸み込み踊り込まれたオデット姫の美しさはとても素晴らしかったです。ただし王子とオデットの愛の表現、止められない心の感情は2人とももう少し出して欲しいとも思いました。
4羽の白鳥にはコールド・バレエの山田ことみが選ばれていました。速いテンポの中でもとても良く揃っていて美しく、一糸乱れぬ4羽の白鳥に会場が湧きました。

この日のヒ・ソはオディールの方が印象的でした。王子をたぶらかし誘惑する姿には自信が溢れており魅力的でした。王子のアランもテクニックが素晴らしく見ごたえのある踊りでした。このシーンが見せ場であるロットバルトを演じたジョー・ウォン・アーンは、オディールの父親である威厳と強さと怪しさ、客人たちを黙らせるほどの不思議な魅力をもう少し表現出来たら良いと思いました。このロットバルト役の魅力は、ダンサーとしての経験が豊かな方が出せるのではないかと思います。

過去20年で何度もアメリカン・バレエ・シアターの『白鳥の湖』をさまざまなキャストで見てきました。特に印象的だったのはニーナ・アナニアシヴィリ、ディアナ・ヴィシニョーワ、ポリーナ・セミオノワなどのオデット/オディール。新しい芸術監督にスーザン・ジャフィが就任し、運営チームも新しくなり変わっています。今後もバレエ団の演目、進化を見届けることを楽しみにしています。バレエ団にいる日本人ダンサーたちの活躍も楽しみにしています。
(2023年7月11日 メトロポリタンオペラ劇場)

slswans6ro.jpg

Scene from Swan Lake. Photo: Rosalie O'Connor

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る