8月に来日するABT新プリンシパルのキャサリン・ハーリンに聞く

ワールドレポート/ニューヨーク

インタビュー=香月 圭

8月に開催される英米のスター・ダンサーたちによるガラ公演「The Artists -バレエの輝き‐」に出演するアメリカン・バレエ・シアター(ABT)のプリンシパル、キャサリン・ハーリンにオンラインで話を聞いた。彼女はABTの付属校ジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクール(JKOスクール)の顔として在学中からその名を知られてきた。昨年9月にABTのプリンシパル・ダンサーに昇進し、今後の活躍がますます期待される。今回が日本での初舞台となる。

※2020年4月掲載のキャサリン・ハーリンとアラン・ベルのインタビューはこちら
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/others/detail016573.html

―― 5月3日にネブラスカ州で『ジゼル』のタイトル・ロールでデビューされましたが、いかがでしたか。

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© Jade Young

キャサリン デビュー公演はネブラスカ州リンカーンでした。「バレエがあまり見られない場所で公演を行い、アメリカ中にバレエを広める」という、ABTが近年掲げるミッションの一環として訪れました。バレエを知っている人が多くはない地域ですが、お客様に次世代の素晴らしいアーティストを見出したと思っていただけたら光栄です。現時点での私のジゼル像を自分なりに演じることができ、全体的な出来は悪くはなかったとは思いますが、まだまだ未完成です。常に改善すべき点を見つけては、練習し続けています。役の新しい解釈法も探求しています。特に第二幕ではテクニックがすごく要求されるので、技術面も改善しようと努めています。

―― パートナーはオランダ国立バレエ団から、昨年、ABTに加わったダニエル・カマルゴでしたね。

キャサリン 彼は素敵でした。これまで『ジゼル』にたくさん出演し、他のカンパニーでいろんな経験をしてきたので、ジゼルについて私にいろいろ教えてくれました。第一幕はカンパニーによって少しずつ違うので、彼にはABTの第一幕を教える必要がありました。それに比べて、第二幕はどのバレエ団でもほとんど同じです。ですから、第二幕のリハ―サルはスムーズに進みました。彼は以前やったことを正確に覚えていたからです。彼は最終的にすべてを調整して、ABTのアルブレヒト役をやり遂げたのです。

―― あなたがプリンシパルになってから初めて踊った主役を教えてください。

キャサリン 『ジゼル』と『ロミオとジュリエット』、それから『赤い薔薇ソースの伝説』のゲルトゥルーディス(革命に参加する女性)です。とても活発で自律的な女性の役で、この役を演じるのはとても楽しいです。ソリスト昇進前にデビューした役は『白鳥の湖』と『ドン・キホーテ』です。これらは私のキャリアのなかでも大きな足跡となりました。

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『ジゼル』©Patrick Fernette

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『白鳥の湖』

―― あなたのお母様(デニーズ・ロバーツ・ハーリン Denise Roberts Hurlin)はポール・テイラー・ダンス・カンパニーのダンサーだったのですね。あなたご自身はクラシック・バレエの方に進まれました。お母様が踊っていたモダンダンスについてはどのように思っていましたか。

キャサリン 小さい頃はコンクールに出ていました。ジャズダンスも踊りましたし、タップダンスにも挑戦しました。タップはあまり向いていなかったようです。当時はあらゆる種類のダンスを習いました。その頃は自分では「リリカル・ダンス」(叙情的なダンス)と呼ばれていた道に進もうと思っていました。YAGPに参加してJKOのスカラシップをいただいたとき、母は「ABT付属のJKOスクール(ジャクリーン・ケネディ・オナシス・スクール)でバレエを学ぶことこそ、あなたにとって正しい道だと思う」と断言したのです。彼女はダンスのことをよく理解していて、私のダンス人生において大いなるガイドです。私自身は「バレエなんて無理よ。私はリリカル・ダンサーなんだから」と言い張っていましたが、母は「あなたは100パーセント、バレエ向きよ」と言いました。結果的にそれは正しかったのです。バレエ・クラスを受けてみて合点がいきました。「バレエっておもしろい。これならできそう」と思いました。
JKOでは以前よりも体の動きについて多くのことを学べました。当時の私の教師だったフランコ・デヴィータは、バレエについて皆が知っているごく普通の内容を話していましたが、私はコンクール対策校にいたのでそういった基本的なことも知りませんでした。その学校ではプリエとタンジュを機械的にこなすだけで退屈でした。JKOでのフランコの説明はすばらしくて、ダンスに対する私の見方を完全に変え、自分がやりたかったことも変わりました。その頃から、ABTの作品をよく見るようになりました。同じビルの上の階にJKO、ABTは下の階に位置しているので、JKOにいるとABTのダンサーをよく見かけます。おそらくそういった環境が「これこそ私がやりたいことだ」と思った理由の一つだったと思います。

―― ラジオ・シティ・ミュージック・ホールでクリスマスに『くるみ割り人形』に出演されました。ニューヨークの子どもたちの憧れをすべて手にしてきたような子役時代ですね。

キャサリン ええ、とても楽しかったです。演じることが大好きなのです。その頃は年間300回ほど出演していました。3年間そういう生活を続けていたので、もしかしたら1年あたり100公演くらいだったかも知れません。とにかくたくさん出演しました。1日に4回のショーを行ったこともあります。もちろん、私の出番は2分もかからないくらいの長さでしたし、やることも単純で簡単でした。劇場の中にいることが楽しかったのです。これこそ私がやりたかったことでした。劇場の中で暮らしたくて、普通の公立の学校に戻りたくはなかったのです。できるだけ長くラジオ・シティにいたかったのです。

―― ニューヨークはパフォーミング・アーツを目指す子どもたちにとっては理想的な環境なのでしょうか。競争も激しく厳しい面もあると思いますが。

キャサリン ダンスや演劇などのプロを目指す子どもたちは、ニューヨークの環境の中で育まれると思います。専門の教育機関がたくさんあるし、東京やロンドンと同様に、ニューヨークでもコンクールはたくさんあると思います。この街では多くの知見を得られるし、最良のトレーニングを受けることができます。ニューヨークには世界中から子どもたちが大勢来ています。それもかなり年少の頃から。親友の中には15歳でトレーニングのためにここに来た人もいます。プロのダンサーを目指すなら、トレーニングを早く始める必要があると思います。

―― あなたは2010年にアレクセイ・ラトマンスキー振付によるABTの『くるみ割り人形』初演で少女クララを演じました。その後もABTスタジオ・カンパニーやメイン・カンパニーで『ホイップクリーム』『四季』『Of Love and Rage』など彼の様々な新作に出演されていますね。

キャサリン 彼は天才だと思います。音楽に動きをつけるのが抜群に上手いのです。私が観てきたバレエはたくさんありますが、彼の作品はバレエのレパートリーにあるとは思えないようなクレイジーな動きが出てきます。彼が作る作品は音楽と相まって、とても見応えがあります。彼はロシア人だからでしょうか、とても細部にこだわり、近作もとてもディテールが凝っています。彼は不可能に挑戦し、想像よりもはるか彼方へダンサーたちをいざなうのです。

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『ジゼル』©Patrick Fernette

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『ジゼル』©Patrick Fernette

――『Of Love and Rage』はABTでのラトマンスキーの最新作で、一世紀中期ギリシャのカリトンによる古代小説「カッリロエ」を原作としていますが、キャサリンさんはタイトル・ロールを演じていらっしゃるのですね。

キャサリン この作品が創られたのはパンデミック前です。彼の全幕物での主演は初めてでした。彼の振付の『くるみ割り人形』で演じた子ども時代のクララの役では、踊りのシーンは多くなく、ほとんどが演技の場面でした。でも『Of Love and Rage』では、彼とともに完全に新しい物語を作り上げなければなりませんでした。4週間しか制作期間がない中で、ああでもない、こうでもないといろいろ話し合いながら一つの作品に仕上げていきました。私は時々大きく踊りすぎることがあるのですが、彼にとってはもっと抑え気味でいいとか、そのような調整も行われました。創作の現場は相当ストレスフルな状況でしたが、この初演を無事にやり遂げたことをとても誇らしく思います。彼の作品にはたくさん出ましたが、ダンサーとしての今の私を形成したという点において、彼の存在は決定的な役割を果たしたと思います。

―― 2014年にABT来日公演で研修生として日本に滞在されていたそうですね。

キャサリン 研修生だったのでメイン・キャストのカバーに入っていました。日本では確か『くるみ割り人形』などを上演したと記憶しています。

―― 本番の舞台には立っていらっしゃいましたか。

キャサリン ニューヨークのMETシーズンには出演しましたが、来日ツアーでは公演数が少なかったこともあり、出演しなかったと思います。

―― 当時の日本での思い出はありますか。

キャサリン 大阪でカンパニーが『くるみ割り人形』を上演したのを覚えています。新幹線で移動しましたが、その車両はABTメンバーで貸し切りになっていたので、面白かったです。それからディズニーランドにも行きました。まだ若い頃で観光のやり方がわかっていなかったので、そこなら知っているからと友達と出かけましたが、楽しかったです。もう9年も前ですね。外出したときに、どこでも自販機を見つけたのも興味深いことでした。

―― パンデミックは3年におよびましたが、あなたはトレーニング動画を投稿したり、地方で野外公演するなどエネルギッシュに活動されていましたね。

キャサリン パンデミックは多くの時間が失われたという人が多いですが、私も同感です。この期間はダンスへの渇望をより強く感じました。研修生やコール・ド・バレエの頃は、カンパニーで踊れるだけでただ幸せでした。当時はいただいた仕事について何でも満足していました。でももっと大きな役を演じ、自分の足跡を残したいと思います。パンデミックの間はそれらはずっと遠い未来のことのように感じられました。充分に踊れない時期を乗り越えたからこそ、そういった欲が生まれたのです。ありがたいことに今はいろんな役をいただいています。

―― 現在はアメリカの各地を巡業していらっしゃいますね。地方とニューヨークとではお客様の反応が違いますか。

キャサリン ええ、アメリカ中部ではお客様の反応はとても礼儀正しいですが、バレエに詳しい若い方々が会場にいらっしゃるときは、熱狂的な反応が見られることもあります。カリフォルニアにはよくツアーに行きますが、私達は大歓迎されて嬉しい限りです。ニューヨークにはバレエのことに詳しい熱心なバレエ・ファンがいるので、どのような反応をいただけるかドキドキすることもあります。でも、そこがニューヨークの醍醐味で、よい反応をいただければ本当に報われたと感じます。
これまで最も大きかった反応は、パンデミック中にABTのバスとトラックで出かけたツアーです。『ドン・キホーテ』と『白鳥の湖』のどちらかをいろんな場所で披露していました。ネブラスカの会場で6000人もの方々が観覧されたのです。まるでロック・コンサートみたいでした。「観客の皆さんはこれからバレエが上演されることをご存知なのだろうか」とその時は思いました。本当に信じられなくて。目の前にいる6000名のお客様は皆「何か見られるなら何でもいい」と、とても興奮した様子でした。彼らはこれから上演される演目を知ろうが知るまいがそんなことはどうでもよく、生の舞台が見られるというだけで幸せだったのです。

―― 2022年9月にABTの芸術監督ケヴィン・マッケンジーは在任中にあなたをプリンシパル・ダンサーに任命しましたね。

キャサリン ケヴィンは私がJKOに入学したときからABTに入団してからもずっとABTのディレクターでした。彼の任命によってプリンシパル・ダンサーに昇進することができ、本当に嬉しかったです。彼の引退時は感傷的になりました。彼はずっと私のビッグ・ボスで、私自身はケヴィン時代の"ベビー"だったのですから。彼は『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』のような大作バレエをたくさん教えてくださいました。彼の退任時には『ロミオとジュリエット』を指導していただき、『ジゼル』も少し教えていただきました。『ジゼル』は現監督のスーザン・ジャフィに引き続き多くをご指導いただいています。彼女は知識と経験が豊富なので、素晴らしい指導者になると思います。

―― ABTとNYCBの違いはどんな点にありますか。あなたはニューヨークで育ったので、この二つのカンパニーのことをよくご存知ですね。

キャサリン ABTでは『ドン・キホーテ』や『ロミオとジュリエット』などをメインとするストーリー・バレエを上演しますが、NYCBではそのジャンルの作品はあまり多くなく、レパートリーの多くはバランシン作品でネオ・クラシックの作品も多いです。NYCBのダンサーはそういった作品を踊るのが実に上手いです。もう一つの大きな違いは、ABTはツアーを行うカンパニーですが、NYCBはツアーが少なく、シーズンのほとんどはデビッド・コーク・シアターで行われます。NYCBがニューヨークで公演をしている間、私達はどこへでもツアーに出かけます。

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『ドン・キホーテ』

―― あなたは将来ABTを背負って立つ未来のスター・ダンサーのお一人と目されていますが、このバレエ団代表として8月の日本の舞台に立つことにあたっての抱負をお聞かせください。

キャサリン 『ドン・キホーテ』をお目にかけることができて、とても嬉しいです。私自身は他のバレエのヒロインよりもキトリに似ていると思いますので、私自身に近いパーソナリティーをお見せすることになるかと思います(笑)。それからアントニー・チューダー振付の『葉は色あせて』も踊ります。この作品はABTにおける歴史的なレパートリーです。この作品を踊るのは初めてですが、動きを通して音楽が自分の中から湧き出てくることにワクワクしています。私達の舞台を見に来ていただけるのを楽しみにしています。

―― 東京で楽しみにしていることは何ですか。

キャサリン 本物の文化をできるだけたくさん体験したいです。パンデミックの間ずっとアメリカにいたので、とにかく国外へ行ってみたいと思っていました。アメリカとは異なる日本の食べ物や景色を堪能するのをとても楽しみにしています。

―― キャサリンさんの日本での初舞台を拝見するのを楽しみにしております。本日はありがとうございました。

「The Artists - バレエの輝き - 」

会 期:2023年8月11〜13日
会 場:文京シビックホール 大ホール
公式サイト:https://www.theartists.jp/
出演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ、マヤラ・マグリ、マシュー・ボール、金子扶生、ウィリアム・ブレイスウェル、五十嵐大地(英国ロイヤル・バレエ)/タイラー・ペック、ローマン・メヒア(ニューヨーク・シティ・バレエ)/キャサリン・ハーリン、アラン・ベル、山田ことみ(アメリカン・バレエ・シアター)
演奏:蛭崎あゆみ、滑川真希、松尾久美(ピアノ)/山田薫(ヴァイオリン)

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