「私は、今、NYCBのレパートリー・ディレクターであり、SABやBAEでも教えていてとても忙しいです」ゴンサロ・ガルシア=インタビュー

ワールドレポート/ニューヨーク

インタビュー:ブルーシャ西村

ゴンサロ・ガルシア Gonzalo Garcia(NYCB Repertory Director, SAB Faculty)

スペイン、サラゴサ生まれ。1995年にローザンヌ国際バレエコンクールで史上最年少の15歳で金賞受賞。その後サンフランシスコ・バレエ・スクールで学び、1998年3月にサンフランシスコ・バレエに入団、2000年にソリストに、2002年にはプリンシパルに昇級。2007年10月にニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)へプリンシパルとして移籍。2022年2月にプリンシパルを引退後、NYCBのレパートリー・ディレクターに就任。数年前からSAB(School of American Ballet)教員、BAE(Ballet Academy East)教員も兼任している。

-----今年2月にニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)のプリンシパルとしてのさよなら公演後、引き続きNYCBに残って仕事をしていらっしゃいますね。どんな内容の仕事をなさっていますか。

ゴンサロ・ガルシア:現在はNYCBのレパートリー・ディレクターです。これはバレエ・マスターのことです。NYCBのダンサーたちの指導をしています。また、3年前からSABの教師も務めています。今はちょうどNYCBのニューヨーク公演のシーズン中のため、1週間に7日間毎日仕事をしていてとても多忙です。
また、7〜8年前からバレエ・アカデミー・イースト(BAE)の講師も務めていて、日曜日に教えています。
(BAE:元NYCBプリンシパルのダーラ・フーバー(Darla Hoover)が芸術監督を務めているバレエ・スクール)

-----働きすぎですね。あなたの身体のためには、週に1日はお休みするほうが良いのではないでしょうか。

image.png

© Erin Baiano

ガルシア:はい、今は朝から晩まで1週間に1日も休みが無いので、このまま全部続けるのは良くないなと思っています。休んでリラックスする暇が全く無いので、スケジュールを入れすぎです。今後は、よく考えて仕事をカットして量を減らすつもりです。
実は、私はいつもよくあちこちから「お願いします」と仕事を頼まれるので、その皆さんの期待に応えようとして、出来る限りの仕事を引き受けてきました。
普段私が教えるクラスの予定が入っている時は、だいたい、朝のクラスは10時半か10時15分からですが、私はダンサーたちよりも早めに9時か9時半には教室に入ってウォーミングアップをし、クラスで教える準備をしています。クラスは正午までか11時45分まで教えています。その後、正午から夜7時までクラスのスケジュールが詰まっていて、朝から晩まで休みなしに1日中長時間連続で、教え続けています。ですから私の1日はとても長いです。そのようにスケジュールが詰まった長い1日が、毎日続いています。
私は主に、バレエ・マスターとしてNYCBのダンサーを教えていて、夜7時まで働いています。公演中は月曜日は休みの日ですが、私は月曜日は朝からSABで教えていて、夜6時半から8時まで別のバレエ・アカデミー・イーストでも1クラスを教えているので、1週間に1日も完全な休みの日が無いのです。
仕事が終わって帰宅した後も、毎日夜遅くまで、いつも翌日のクラスで教える内容を考えて全て組み立てて準備しています。

-----ニューヨークでは他の劇場はもう問題なくても、NYCBは最後まで長い間、劇場にはワクチン接種証明がなければ入れない状況が続いていましたが、スクールや劇場など現場の状況はいかがですか。

ガルシア:ニューヨーク市では今年3月から劇場でのワクチン接種証明の提示義務は解除されましたが、NYCBの劇場(David H. Koch Theater)は最も厳しい管理をしていて、まだワクチン接種証明を提示しなければ中に入れない状況が続いています。それはNYCBの我々も同様で、劇場やスタジオなどどこへ行くにもマスクを着けなければならないですし、練習やリハーサルだけでなく本番の時も出る直前までマスクを着けていて、外してはならない状態です。
SABでは9月下旬からマスク義務は解除されたので、皆マスクを外していて、生徒は少しほっとした表情になりました。
マスク着用とワクチン接種証明の義務以外にも、NYCBでは私たちは全員、必ず毎週火曜日にCovid-19のPCR検査をしなければならないのです。なぜかというと、ダンサーたちにCovid-19の感染が広まったら舞台本番の代役が足りなくなるので問題になりますから、Covid-19に対する管理が厳重になっています。
通常でもダンサーの代役はなかなかいないものなので、いつも不足気味です。例えば今日も一人の男性ダンサーの体調が悪く、おそらく彼は明日の公演に出演できなくなりそうなのです。そのため、私は明日の彼の代役を他の男性ダンサーに頼まなければなりません。でも明日その代役に用意できる男性ダンサーは、たった1人だけです。

-----そういうわけだったのですね。NYCBの劇場は、やっと本日(10月3日)からワクチン接種証明の提示義務は解除されたようです。先ほど確認しました。

ガルシア:本当ですか! 今日からやっと解除になったのですね。それはよかったです。長かったです。

----NYCBのバレエ・マスターとして、あなたはどんなお仕事をなさっていますか。

ガルシア:例えば、カンパニーのダンサーにバレエ・クラスを教えています。そしてバレエ・クラスの後はほぼいつも、公演のリハーサルも指導しています。例えば、今シーズンは、『ライモンダ』、ジェローム・ロビンズ振付の『ピアノ・ピーセス』チャイコフスキーのバレエ作品や、新作のカイル・アブラハムの作品でアシスタント・ディレクターを務めて16名のダンサーを指導しました。
また、ジャスティン・ペック振付の『エブリウェア・ウィ・ゴー』で、私は3名のアシスタント・ディレクターで、30名以上のダンサーによる大きな作品を指導しました。
このように私は現在、NYCBの公演の多くの作品に関わって指導しており、多くの仕事がありとても忙しいのです。特に新作はリハーサルに長時間関わっていて、1作につき1日3時間から5時間くらいのリハーサルが週何日も続きます。新作のリハーサルは、振付家も来てそこで作り上げていくからです。それ以外に、新作の合間に他の上演作品のリハーサルもあるので、公演までの数ヶ月間はとても多忙です。

-----今後はどのような仕事をなさっていきたいですか。指導者の他に、例えば芸術監督や振付家にも興味はありますか。

ガルシア:はい、将来は芸術監督をやりたいです。私は振付家ではないのです。私はダンサーであり、指導者でもあり、人々に良いトレーニングを与えることや教えることが得意です。振付家とダンサー、指導者は、まったく別物です。
私はクラシック・バレエの芸術監督として舞台を作り上げていきたいと思っていますが、その役割にはこれらのすべて(振付・指導)の要素があり、より舞台全体をコントロールすることが出来ます。クラシックの舞台では型が決まっていることが多いので芸術監督は自分の好きなように出来るわけではないですが、型に制約された中でも部分的にクリエイティブなことも出来るものだと思います。でも今は芸術監督になる機会が巡ってくるには、タイミング的に少し難しい時期だと思います。

-----時間が経てばそのタイミングがやってくるかもしれませんね。芸術監督は1人なので、前任者が引退するなどしてポジションが空けばチャンスがありますが、なかなか空かないものですよね。

ガルシア:はい、もしそのポジションがあれば、やってみたいと思います。
でもバレエ界は全体的に世代交代の時期ようです。現在の多くの芸術監督は新しい方に交代したばかりなので、これから長い間、この体制まま続いていくでしょう。ですから、私のような次の世代の者がいつかクラシックの芸術監督をやってみたいと思っていても、かなり長い年月を待たなければ、なかなか交代のタイミングは巡ってこないです。
その長い年月の間にコツコツと地道に経験を積み続けていくことが出来る、という意味では良かったと思います。これから、私は長い間さらに経験を積み上げて、もしチャンスとタイミングと幸運が巡ってくれば、芸術監督をやりたいと思います。これは幸運によります。
バレエ界はとても限定されている狭い世界なので、芸術監督のチャンスの情報をチェックするほうが良いのですが、私はそういう情報を全くチェックしておらず、ただ淡々と目の前にある仕事をし続けています。

Apollo-Garcia-c45181-101-NCrop.jpg

「アポロ」© Paul Kolnik

-----あなたは優れたバレエ教師ですが、ダンサーにどのように教えていらっしゃいますか。また、どんなことを心がけていらっしゃいますか。

ガルシア:NYCBのプロのダンサーに教える時と、学生に教える時とは違うやり方をしています。
カンパニーのダンサーには、さらに明確に、厳しく指導しています。でも、私がクラスに向けるエネルギーと心構えについては、プロに対しても学生に対してもいつも同じです。
カンパニーに教える時は、まずダンサーの肉体をウォーミングアップさせて、リハーサルを始める前に彼らのコンディションを準備しければならないです。そして、彼らのやる気を押し出さなければならないのです。なぜなら、カンパニーのダンサーは1日がとても長いですし、公演がある日はなおさら1日中スケジュールが詰まっているので、彼らが持っているエネルギーの状態が違うからです。そのため、彼らに一定の自由を与えなければならないのです。
学生に教える時は、とても正確に教えています。例えば、学生があまりよく出来ない時は、音楽を止めて、何度もやってもらって、何度も説明してその場で繰り返しやってもらいます。彼らにちゃんと理解してもらうことと、彼らの身体の中の奥深くへ染み込ませるためです。彼らの身体の奥のポケットへ、たくさんのこと、たくさんの知識と素材を詰め込んでいかなければなりません。
一方、カンパニーのダンサーは、大抵すでにそれらの知識と素材を持っているので、より確実にそれを思い出してもらうこと、テクニックを確認しておくこと、いくつかの練習をさらに強化することと、良いエネルギーのクラスを作るように最大限の努力をしています。良いエネルギーのクラスにすることはとても大事です。なぜなら、彼らの1日は大抵長いスケジュールなので、私の朝のクラスで彼らの1日をスタートするにあたって、彼らをプッシュしてやる気を出させること、ポジティブな気持ちにさせること、気持ちをものすごく高く上げさせることが重要だからです。みんな毎朝、疲れている状態で私のクラスにやってくるからです。

-----カンパニーのダンサー達はそのような状態であなたのクラスにやってくるのですか。

ガルシア:はい、皆、朝は疲れた状態でやってきます。私には顔を見た瞬間に、その様子が分かります。
彼らは前日に公演があれば終わるのは夜遅くです。その週は毎日スケジュールが詰まってとても長い1週間で、前の晩によく眠れなかったとか、様々な理由で疲れた様子でクラスにやって来ます。毎回、そんな彼らの顔を見ると、朝のクラスが終わった後はその日1日の良いスタートを切れるように、彼らの気持ちとエネルギーを高く上げるようにと、心がけてクラスを教えています。
今朝は、スキ(Suki Schorer:元NYCBのプリンシパルで、現在もSABの教員)が私のクラスを見学して、「あなたのクラスはとても良かったです。生徒たちと良くコミュニケーションが取れていましたね」と感想を私へ送ってくれました。スキは私の大先輩で、偉大なバレエ・マスターで、私は大好きで尊敬しています。彼女はなんと81歳で今も健在で、肉体を節制して美しい体型を保たれていて、クラスで教える時はレオタードとミニスカート姿で、贅肉の無い細い身体の美しい細い足で、驚きの美しさを保っています。スキは私の憧れで、「私が将来歳をとっておじいさんになったら、あなたみたいになりたいです!」といつもいつも彼女に言っています(笑)。
スキは今まで、とてもたくさんのことを教えてくださいました。彼女は昔、若い頃、ジョージ・バランシンが生きていた時代のNYCBのオリジナル・メンバーのダンサーで、プリンシパルを引退後、バランシンがスキをSABの教員として選んだのです。スキはバランシンの時代を知っている貴重な人物です。今も私たちは彼女と接することが出来る幸運に感謝しています。私たちがスキのような方からたくさんの貴重な事を教えていただけることは、大変ありがたいことです。けれどもスキは高齢ですし、私も含めて誰でも、人生というものは今日は元気でも明日はどうなるか分からないものですから、スキのような偉大な方から教えていただけることは何事もとても真剣に聞いいます。これは私にとってとても大切なことです。

-----あなたはとても素晴しいご経験を積んできたのですね。

ガルシア:はい、おっしゃるとおりです。私はとても素晴しい経験をずっと重ねてきました。でも、私は常に自分で探して選んで素晴しい経験をしてきたのです。
子供の頃から常に、最高の先生、最高のコーチ、最高のマスターを出来るだけ探して選んできました。なぜなら彼らは、技術面だけでなく人生についても教えてくださるからです。その道の技術も人生もすべてつながっているものだからです。最高に偉大なコーチ、偉大の中の偉大な方、真に偉大な超一流の方のみに限りますが、人生も含めて教えてくれる度量があり、そのような偉大な方は、技術や内容を教えてくださるだけでなく、人生についても導いてくださるものなのです。ですからプロとしてキャリアを積む中で無駄な時間を費やさなくなります。ですから、最高のコーチを探して選ぶことは、人生でとても重要です。
例えば、私の最初のバレエの先生はスペイン・サラゴサのマリーア・デ・アビラ(María de Ávila)で、その後はマリーアの娘さんのローラ・デ・アビラ(Lola De Avila)、サンフランシスコ・バレエ・スクールとカンパニーでキューバ出身のホルヘ・エスキベル(Jorge Esquivel)など素晴しい偉大なコーチから教わりました。彼はアリシア・アロンソ(Alicia Alonso)と共に踊っていたダンサーで、私は彼から男性ダンサーのテクニック、キューバン・テクニック(キューバに今でも保存されている古い伝統的なバレエ・テクニック)など、多くの重要なことを教えていただきました。
その後、NYCBに入ってからも、たくさんの偉大なコーチたちと共に働くことが出来、彼らからたくさんの重要なことを教わりました。ウィルヘルム・バーマン(Wilhelm Burmann)も重要なコーチで、彼は私に、「物事を別の視点からも見ること」について教えてくださいました。以前にも私は様々な重要なことを偉大なコーチから学んでいたのですが、彼が教えてくれた「別の視点から別の方法で見ること」はとても新鮮で勉強になり、その方法が大変気に入って大きな影響を受けました。彼はとても頑固でとても厳しい方で、四角四面で、典型的なドイツ人でしたが、同時に内側にとても大きな愛を持つ偉大な方でした。彼の厳しさに接する時、私は同時に大きな愛を感じていました。その厳しさは彼のダンサーに対する尊敬からきているのだなと知り、いつもその愛が伝わってきました。私は彼のすごく厳しい教え方が大好きでした。ですから彼が亡くなって(2020年3月永眠)寂しいです。
また、同じように最近数年前に亡くなったスーザン・ヘンドル(Susan Hendl)からも教わりました。
私は今まで人生で、いつもとても重要なマスターたち、多くの偉大なコーチたちから学びました。彼らはバレエを教えると同時に、「楽しむこと」も大事だといつも教えていました。「楽しんで踊りなさい」と教わりました。なぜなら、舞台へ出て行く時にはいつも「バレエを楽しむ」ということがとても大事だからです。舞台上でバレエを心から楽しんで踊っていると、他のことはすべて忘れて舞台に集中できます。

-----なるほど。でもあなたもすでに偉大なバレエのマスターの1人です。あなたは立派なバレエのマスターになっても、多くの方々から学び続けていらっしゃるのですね。

ガルシア:はい、私は今でもいつも学び続けています。私にとって、「常に生徒であり続けること」は大事なことです。人生で常に学び続けることをやめてはいけません。「常に生徒でありなさい!」いつも生徒のように好奇心を持ち続けていることがとても大切なのです。先生が先生になったらおしまいです。
例えば、私はクラスで教えるために、常にバレエについてリサーチをたくさんしていて、新しい情報も含めて学び続けています。足の使い方について教えなければならない時、ムーブメントについて教えなければならない時、男性ダンサーのテクニックについて教える時、ブルノンヴィル・メソッドを参考にする時など、様々です。ブルノンヴィルのテクニックの教授法は素晴しいので、特に男性ダンサーを教える時にとても参考になります。バレエについてリサーチをたくさんして学んでいると、自分がクラスで教える内容のインスピレーションがたくさん湧いてくるのです。私は教えるために自分で自分をプッシュして常に最大限の努力をし続けています。毎日朝から晩まで長い1日のスケジュールで教え続けていると、帰宅したら普通だと疲れているから夜はゆっくり休みたいかもしれません。でも私はいつもクラスで教えることで頭がいっぱいなので、夜も休まずに、翌日のクラスでは何を教えようか、その内容を組み立ててちゃんと全部準備することが大切なのです。私は自分のクラスで、最大限に自分が出来る限りのことを精一杯教えることが好きなのです。

-----いつもどんなふうに、翌日に教えるクラスの内容を準備していますか。

ガルシア:例えば、昨日、日曜日もカンパニーのクラスを教えてきました。その前日の晩も、クラスで教えた後、帰宅してから休まずに、翌朝にカンパニーで教えるクラスの内容のコンビネーションを考え始めました。考え始めてから、オンラインで動画などを様々にリサーチして、ああこのように教えよう、あれは良いアイデアだから加えよう、など、たくさんのインスピレーションが湧いてきて、教える内容を全部組み立てて準備しました。ありがたいことに、現代はインターネットが発達してオンラインで動画をたくさん探してすぐ観ることが出来る時代になったので、とても便利です。そのため、私はいつもオンラインでチェックしています。
オンラインでバレエの動画をチェックしながら、自分の過去のクラスで教えた様々な内容を思い出して使って、クラスの内容のコンビネーションを組み立てていきます。足を早く動かす練習をして、バーのレッスンをして、ブルノンヴィルも取り入れてやって、それから振付の練習を続けて、などとクラスで教える内容の順番を考えて組み立てます。こういうふうに、翌日の自分のクラスで教える内容を考えることも私は大好きなのです。
また、昨晩も帰宅してから、本日月曜日のSABのクラスで教える内容を準備していました。

-----あなたは、そのように毎回、クラスで教える内容を考えて変えて、全部準備しているのですか。

ガルシア:はい、毎回クラスの内容を変えていく努力をしています。
もちろん、基本的なクラスの内容は同じこともしますし、バレエの基本の型は同じなのですが、その同じ型の範囲内でいつも毎回変えて違う内容を教えるように努力しています。カンパニーのクラスでは、彼らはすでにバレエが出来ていてよく知っているから、なおさら毎回、クラスの内容を変えるようにしています。時々、以前やったクラスと同じ内容を、期間をあけて再びやることもあります。でもカンパニーのプロのダンサーはバレエについてよく知っているし、彼らは私のこともよく知っているから気心も知れているし、彼らも私が好きなので、私は特に毎回教える内容を変えることが大事だと思っています。もし私が彼らに毎日同じような内容を教えると、彼らはきっと飽きてきて退屈になることでしょう。カンパニーのダンサーの練習では、特に彼らの頭の中から訓練して能力を引き出していかなければなりません。

-----プロのカンパニーのダンサーには、毎日のクラスで毎回教える内容を変えることは大事なのですね。

ガルシア:はい、プロフェッショナルのダンサーに対しては、彼らが飽きないように毎回変えて教えることは大事です。でも、スクールの特に若い学生に対しては同じ内容を繰り返し教えることは大切なので、それで良いのです。若い学生は、まだまだバレエの様々なことを身に付けるのに長く時間がかかるからです。中級クラスの学生には、何日も続けて同じバー・レッスンの内容を教えることはとても良いやり方で、3日目には彼らはもう完璧に出来るようになっているので、教えた結果が出ます。

-----なるほど。プロのダンサーに対してと若い学生に対しては、教え方を全く変えていらっしゃるのですね。あなたは、生徒全員の状態を1人1人よく観察してチェックなさっているのですね。

ガルシア:はい、そのように務めています。私は、スクールの学生は男性のみを指導しています。中級クラスと上級クラスの男子学生です。

-----生徒はあなたを先生として好きですか。

ガルシア:はい、そうだと思います。私はいつも生徒1人1人をよく見ていて、それぞれの特質に合わせて違う指導をするように心がけています。
私は外部からやって来た者ですから、アメリカのSABで育ってきていないので、NYCBに入団した後、私はSABの様々な先生のクラスをたくさん受けました。NYCBのダンサーのほとんどの皆さんがSABで学んだ内容を私も知ることが大事だと考えまして、それを吸収してギャップを埋めるために、実際に私もそのクラスをたくさん受けて努力しました。
でも、私が外部からやってきたことは良かった面もあります。ヨーロッパ出身ですから私はヨーロッパ式のトレーニングを受けて育って、その後アメリカへ来てからアメリカ式トレーニングとキューバ式トレーニングも受けたので、様々な種類のバレエ・トレーニングを受けて吸収して混ざっています。これらのトレーニング法は、大きな違いがあるのです。私がこのように様々なトレーニング法を学んで身に付けてきたことを、生徒にクラスで教える時に違ったトレーニング方法をたくさん引き出して教えることが出来るので、教師の仕事に大変役立っています。

-----同じクラシック・バレエなのに、バレエの教授法は、世界の国や地域によってそんなに大きく違うものなのですか。

ガルシア:はい、大きな違いがあります。世界のそれぞれの地域ごとにトレーニング法の特色があるのです。それぞれのトレーニング法は、ダンサーのルック、つまりダンサーの見せ方、表現の仕方にすごく違いがあります。
アメリカのSABで私が教える時には、もちろんアメリカ式も尊重していますが、ヨーロッパ式やキューバ式のトレーニングも授業に取り入れてより良い内容にする努力をしなければならないです。

-----もともとバレエはヨーロッパ発祥ですね。

ガルシア:はい、バレエの始まりはヨーロッパからです。でもその後、ジョージ・バランシンがアメリカへ引越してきたので、ニューヨークでバレエを一からやり始めてバレエの革命を起こしたのです。なぜならここには何もなかったからです。重厚なものは何も無かったのです。
私が思うには、アメリカは歴史が浅い若い国ですが、ヨーロッパはとても古い大陸ですから長い伝統があり、バレエ・スクールもロシア・フランス・イタリアなどにも伝統があるし、バレエ作品の創作の伝統の歴史がありました。でも、アメリカにあったものには、重厚さが全く無かったのです。これは日本人のあなたなら想像できるでしょう。
だからこそ、このアメリカの何も無かった状況の中で、バランシンはヨーロッパから持ち込んだ伝統のあるバレエを一から作り上げていったのです。彼はまずバレエ・スクールを作り、バレエ・カンパニーを作っていきました。例えると、彼の目の前にはまだ全く何も描かれていない真っ白なキャンバスがあった状態でした。反対にヨーロッパには、すでに長い年月をかけてぎっしりと絵が描かれてきたキャンバスがある状態で、その四角い枠のキャンバスの範囲内で描かれていて型にはまっています。

-----なるほど、分かりやすい例えで、理解しやすいです。確かにアメリカは若い国で歴史が浅いですから、特にニューヨークではいつも「サムシング・ニュー」ばかり求められます。

ガルシア:そうそう、ニューヨークでは「サムシング・ニュー」ばかり求められていますね。でも、私の考えでは、ただ単に新しいことというだけでなく少しは伝統も尊重して取り入れたものであるべきだと思います。新しいことを革新するだけでなく、偉大な知識も吸収していて持ち合わせていることが大事だと思います。伝統を尊重して感嘆していることが大切で、その「サムシング・ニュー」はどこの根っこから来ているのか、ということが重要です。
これは例えると人生と同じで、「変える」のではなく「改良する」ことが大切であり、過去の重要なことも大切にしていなければならないですし、「なぜ今それをやろうとしているのか」という理由には過去に今まで積み上げてきたものがふまえられていなければならないと思います。
何の重要な伝統的な知識が無いままでただ「変える」だけだと、良くないですし、そんなやり方のものはやがて消えていってしまい、淘汰されて残っていかないです。ただ「新しい」だけのものは、単に一時的なものにしかすぎません。新しいだけで全く何も基礎が無いものは、やがて消えていきます。やっているすべてのことには、基礎が出来ていなければならないです。
例えば建築と同じで、いくらモダンなデザインの建物でもしっかりした基礎を作った上に建てるものです。何百年も経っている古い建築物も新しい現代的なビルも同じように、基礎がしっかり作られていなければならないです。もし基礎がちゃんと出来ていないのにその上に見栄えが良いモダンなビルを建てても、風が吹いたらフーっと倒れて壊れて、消えていってしまいますよね。それと同じことなのです。
ですから、何事をやるにせよ、重要な伝統的な知識も持ち合わせていなければならないです。重要な知識は、長い歴史の中で淘汰されてきた過去のものの中から取り出します。私は、これは大事なことだと思います。
ニューヨークで求められる「サムシング・ニュー」はアートの世界でも、過去の歴史で積み重ねられて淘汰されて残ってきた偉大な知識を尊重するヨーロッパとは、優先順位が全く違いますよね。

-----あなたは古い大陸のヨーロッパから若い国のアメリカのニューヨークへ、ヨーロッパの伝統を学んで持って来たので、良かったのですね。

ガルシア:はい、そのとおり、良かった面もありますが、実は私はアメリカでは「ヨーロッパ人らしい」と言われ、ヨーロッパでは「アメリカ人的」と言われます。私のバレエの踊り方がアメリカ人から見たらヨーロッパっぽくて、反対にヨーロッパではアメリカ的表現なのだそうです。そのようなことをいつもよく言われてきました。それはきっと、私は学んで育ったのはヨーロッパですが、ヨーロッパでダンサーとして働いた経歴がないからだと思います。ヨーロッパで学んだ後、サンフランシスコ・バレエのスクールに入って学んでカンパニーに入り、その後、NYCBに入ったので、私のダンサーとしての経歴はアメリカだけだからです。
時々、パリ・オペラ座バレエ、ローマ、カナダ、など多くの国にゲストで呼ばれて、世界中の舞台で踊る機会がありましたが、いつも現地で私は「バレエの表現がアメリカ人的」と言われてきました。
そのくらい、アメリカとヨーロッパでは、バレエの表現の仕方に大きな違いがあります。
アメリカとヨーロッパでは、バレエのトレーニング法だけでなく、表現の仕方にも大きな違いがあります。バレエの表現の見せ方がすごく違います。
特にNYCBは独特な表現法なので、他のバレエ・カンパニーとは全く違う特徴があります。NYCBでは、バレエ・ベースですが近代の新しい振付家の作品を主に上演しますから、独自の内容がほとんどですし、現在も常に多くの新作を発表し続けています。新作をやり続けるためノン・ストップでスケジュールが長時間たくさん詰まっていて、彼らは休みが無いまま突っ走っています。NYCBは休む暇なく練習していていつもとても多忙なので、ヨーロッパのバレエ・カンパニーとは流れている時間が全く違います。流れている時間のリズムが全く違うのです。

----NYCBは他のカンパニーに比べて、いつもそんなに忙しいのですね。ニューヨークに比べて、ヨーロッパはもっとゆっくりした時間が流れているということですか。

ガルシア:はい、ヨーロッパは全体的にもっとゆっくりした時間が流れています。ヨーロッパは生きるために働いていて、ゆったりとして休みも多いですし、アメリカは特にニューヨークでは全体的に働くために生きていますから、いつも忙しくて休みなく働いています。日本はどうですか。

-----日本もアメリカ、ニューヨークのように働くために生きていて、忙しい時間が流れています。

ガルシア:日本もニューヨークみたいに働くために生きているのですか!では、日本も皆さん、いつも忙しく働いていらっしゃるのですね。ゆったりしたヨーロッパとは時間の流れ方が違うのですね。
でも日本もとても古い国なので、日本ではヨーロッパと同じように過去の歴史で淘汰されて残ってきた偉大な知識を尊重して大切にしていますね。日本はスペインよりももっととても古い国で2000年以上も歴史が続いているから、過去の偉大な知識がたくさん伝わっています。それだけでなく、日本は常に革新的で新しいものを生み出していくし、同時に過去の偉大な知識も大切にしているから、私はそういう日本が大好きでとても尊敬しています。
日本やヨーロッパのような古い国とは、アメリカは優先順位が全く違うのですよね。

-----あなたの好きなダンサーは誰ですか。日本のダンサーに参考になるので、お好きなおすすめを教えてください。

ガルシア:好きなダンサーはたくさんいます。特に芸術家らしいダンサーが好きです。昔の歴史的なバレエ・ダンサーでは特にロシア人が好きです。例えば、ナタリア・マカロワは、世界的な輝かしい経歴を残しています。ウリヤーナ・ロパートキナも、私はいつも大好きでよく観てきました。イギリス人も伝統的な知識を尊重してふまえているから、たくさん好きなダンサーがいます。アリーナ・コジョカルやタマラ・ロホも大好きでいつもよく観てきました。
アメリカ人で好きなダンサーも大勢います。エリザベス・ロスカビオ、ティナ・ルブラン、ウェンディ・ウェラン、キーラ・ニコルズ、スザンヌ・ファレルなどです。タイラー・ペック、ミーガン・フェアチャイルドなど、彼らとは共によく踊りました。
アナ・ラグーナも大好きです。スウェーデンのクルベリ・バレエ(Cullberg Ballet)でマッツ・エックと共に踊っていました。彼女はマッツ・エックの奥様です。シルヴィ・ギエム、イザベル・ゲラン、エリザベス・モランも大好きです。他にも好きなダンサー達がたくさんいます。

-----いつも世界中のたくさんのバレエの情報をチェックしているのですね。忙しい毎日なのに情報をチェックして研究なさっていて。

ガルシア:バレエが本当に大好きだからたくさん観ています。
私のようなダンサーにとって、現在バレエの世界で何が起こっているのかという情報を常に調べて知っておくことは、とても大事なことです。特に、世界のあちこちのどこでどんな改革が起こっているのかを知っておくことはとても重要です。
例えると、建物にはなぜ窓がついているのでしょうか。窓がついているのにも理由があります。窓がついていることによって、窓を開けると部屋の中に新しい空気が入ってきて空気を入れ替えることができるし、外の様子を見て太陽が照っている良い天気なのか雨なのか嵐なのか知ることができるし、すぐ前のストリートでは何が起こっているのか見えるし、少し離れたところに新しい建物が建ったことも分かるからですよね。窓がついているのに窓を閉じたままで開けなければ、外で何が起こっているのか見えないし分からないままになります。部屋に窓があるのなら、時々窓を開けて新しい空気に入れ替えたり、外で何が起こっているのか観なければ、窓を生かすことが出来ないですよね。それと同じことです。
「観る」ことはとても大事なことだと思います。人間も窓のようにオープンでいて、外の世界では今、何が起こっているのかを「観る」ことは大切です。

-----あなたが踊ってきた中でどのようなダンスが好きでしたか。

Rubies-Hyltin-Garcia-C29892-14.jpg

「ルビーズ」© Paul Kolnik

ガルシア:クラシック・バレエでは、マクミラン振付『マノン』が大好きです。『ジゼル』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』も好きです。物語が一番好きなのは『ジゼル』です。音楽が好きなのは、チャイコフスキーの『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』です。
好きな振付家はジェローム・ロビンズです。例えば、ショパンの音楽に振付した『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』『アザー・ダンシーズ』『ジェローム・ロビンズ・イン・ザ・ナイト』『オーパス19』が好きです。バランシンの振付では『アポロ』『ルビーズ』『ディベルティメント15』『4テンペラメンツの「メランコリー」『ヴィンナ・ワルツ』など、他にも大好きなものがすごくたくさんあります。
共に仕事をしたことがある振付家では、マーク・モリス、クリストファー・ウィールドン、ジャスティン・ペックが好きです。マーク・モリスとは、私は若い頃から何度も仕事をしてきました。初めてモリスの作品に出演したのは、私が18歳の時でした。その後、モリスの『シルヴィア』で私はアミンタ役を踊りました。これはクラシック・バレエがベースの振付で、モリスがアメリカへ初めてヨーロッパの『シルヴィア』を持ってきた方です。これは私が24か25歳頃で、私にとって特別な素晴しい経験となりました。若い時期にモリスと仕事をすることが出来、彼はとても知的で、興味深い経験をしました。マーク・モリスはダンス界で重要な人物の1人だと私は思います。

-----マーク・モリスは多くのダンサーから天才と呼ばれていて、ダンス界で重要な人物の1人だと思います。

ガルシア:はい、マーク・モリスはおそらく天才だと思います。でもモリスの良さは全員には分からないものですから、彼は万人受けはしないです。モリスを嫌いなダンサーもけっこういますよ。でも、私はモリスが大好きで尊敬しています。

-----なるほど、マーク・モリスは異端で、個性的すぎる風変わりな振付だからでしょうか。
モリスの良さが今はリアルタイムでは理解できないダンサーが多くても、だんだん時間が経てば残っていって理解できる方が増えるかもしれませんね。

ガルシア:そうなのです。マーク・モリスは万人受けしないので、すべての人々のためのものではありません。彼はすごく頭が良い人です。私は若い頃から仕事を通じてモリスと話す度に、いつも、「彼はなんて頭が良い方なのだろう」と感心することばかりで、学びが大きかったです。

-----マーク・モリスはイタリア系アメリカ人ですか。

ガルシア:モリスはアメリカ人です。とてもアメリカ人らしい典型的なアメリカ人です。

-----最後に、日本のダンス・ファンへ、何かメッセージをくださいますか。

IMG_3828.JPG

© courtesy of SAB

ガルシア:先ほども言いましたが、私は日本が大好きです。また日本へ行きたいです。もう長い間、日本に行っていないので、早く行ける機会があるといいなと願っています。日本の観客はバレエをとても尊重しているので、舞台の観方やセンスも素晴しいと思います。
日本は古い国で素晴しい文化があり、魅力的なところなのでこれからも度々行きたいと思っています。日本に行く機会を探して作りたいです。例えば、バレエのマスター・クラスを教えにいくとか。
日本の皆さんへ、大きなハグを送ります!

-----ありがとうございます。日本人のダンサーへマスター・クラスのワーク・ショップをあなたがしてくださるのなら、もちろん受講したい方は大勢いると思います。

ガルシア:日本で教えることに興味がありますので、やってみたいです。実は去年の夏、日本のコンペティションでマスター・クラスを教えることと審査員をするというオファーがあったのですが、私は行けなかったので友人が行きました。
今の私は多忙で休みなく働いている状況ですが、将来のことは未定で分からないものです。本当に早く日本に行きたいですし、実現したらいいなと思います。

-----興味深い内容をお話してくださいましてありがとうございます。今後も、あなたの人生の転機の節目などで、お話を聞かせていただけましたら嬉しいです。
(2022年10月3日 マンハッタンで)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る