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三崎 恵里 text by Eri Misaki 
[2016.09.12]

サーク・ド・ソレイユによるブロードウエイ・ミュージカル『愛人 Paramour』の美しいアクロバット

Cirque de Soleil “Paramour” on Broadway
ブロードウエイミュージカル、サーク・ド・ソレイユ『愛人』

カナダのサーカスカンパニー、サーク・ド・ソレイユは全く動物を使わないサーカスとしてデビュー、人間の動きの可能性の限界を追及する一つの芸術体として、また娯楽目的の興業として世界的に成功した。サーカスと言えば、昔から物語ではなく、技術を見せる興業であった。しかし、サーク・ド・ソレイユの場合は製作が進むにつれ、ストーリー仕立てになる傾向を強め、遂にニューヨークのブロードウエイ・ショーとしての製作を発表した。今回はサーク・ド・ソレイユの新しい試み、ミュージカル『愛人(Paramour)』をご紹介する。

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Paramourとは情婦、情夫、愛人という意味。この物語の中にはその全ての意味が含まれている。つまり、三角関係を扱った作品だ。
場所はロサンゼルス。A.J.ゴールデン(Jeremy Kushnier)はハリウッド映画監督。新しい映画『愛人』の主役を捜していた。あるクラブでデビューしたばかりの歌手インディゴ・ジェームス(Ruby Lewis)を見て閃いたA.Jは、彼女と彼女のためにピアノを弾いていた作曲家のジョーイ・グリーン(Ryan Vona)を採用する。インディゴは、どんどんハリウッド映画に出演し、あっという間に売れっ子女優に。ジョーイも製作に欠かせない作曲家になる。しかし、インディゴとジョーイは実は恋仲だった。それを嫉妬したA.J.は、自分を選ぶか、ジョーイを選ぶか、インディゴに迫る。愛を取るか、名声を取るか悩んだ末、インディゴはAJを選ぶ。しかし、結局は後悔してジョーイに愛を告白する。一方でAJは舞台の公演ツアーの記者会見でインディゴとの結婚を発表してしまう。インディゴとジョーイは公演先のニューヨークで駆け落ちを図る。激しい追跡劇の末、A.J.は摩天楼のビルの屋上に追い詰めた二人の間を割くのは無理と判断し、ディレクターとして、二人の仲を認めるので、ショーに帰ってくるよう説得する。喜びに包まれたのもつかの間、インディゴは足を滑らせてビルの谷間に転落する。

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開幕の音楽がスタートすると、正面天井と前方観客席両サイドに取り付けられたスクリーンにオーケストラピットの様子が映写され、舞台の幕の前では黒のタキシードを着た男性たちがタップダンスを踊る。幕が上がると、男女のダンサーが正面に設置された、金色の大階段を下りてくる。ダンサーたちは歌いながら踊り、同じ衣裳で混じっているアクロバット・アーティストたちの体がどんどん空中を飛ぶ。サーカスならではのオープニングだ。しかし、ブロードウエイ独特の風味となっている。(製作ディレクター:Jean-Fran?ois Bouchard, Philippe Decoufle)
この製作では映像もふんだんに取り入れられている。自己紹介をするAJ の周りを鳥の影絵が後ろのスクリーンに現れ、AJの影の手に停まったり、歌う俳優たちの顔をライブカメラで撮影し、それが劇場内のスクリーンに大写しにされるなどの演出が、ショー全体を通じて施されている。(映像デザイナー:Oliver Simora, Christophe Waksmann)
また、アクロバット、コントーション(柔軟技)、ロシアンバー、こま技、ジャグリング、大リング、トランポリンとサーカスのメニューはくまなく組み込まれている。歌とダンスとサーカス芸が非常に自然かつ巧みに組み合わされ、見ていて違和感を感じさせない。(振付: Daphine Mauger)

ディレクターのA.J.を演じたジェレミー・クッシュナーはブロードウエイ、オフ・ブロードウエイ、テレビで活躍するベテラン俳優。歌もうまく、今回は老け役を演じ、立派な押し出しで舞台を引っ張った。
インディゴを演じたルビー・ルイスは美しい容姿に、力強い歌唱力で華がある。今回がブロードウエイ・デビューだ。
ジョーイ・グリーンを演じたライアン・ヴォナはピアノとギターが弾け、歌えて踊れる、役柄とはいえ多才なダンサー。ルックスも良く、インディゴ役のルイスと良い組み合わせで、ラブシーンもロマンチックに演じた。

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第一幕では、このショーの特徴を強調するかのようにサーカス芸が目を引いたが、ストーリーの展開がもう一つ。サーカスのクラウンにあたるキャラクター(ピエロには扮していない)が面白おかしく場を持たせようとした場面が観客を笑わせたものの、むしろショーの流れをトーンダウンした感があった。ドラマは第二幕で大きく展開するが、限られた時間の中でストーリーを進めなければならないためか、劇的なストーリーの変化があまりにも安易に展開して、ブロードウエイの演劇ファンを納得させる深みに欠けたと言わなければならない。
一方で、このショーの一番の売り物のサーカス芸での印象的な場面はたくさんあった。
アンドリュー・アンサートンとケビン・アンサートンの双子の兄弟(Andrew & Kevin Atherton)による、綱を使った空中演技は片手だけで劇場の天井から降りる綱につかまり、スパイダーマンよろしく観客の頭上を自在に飛び、時には2階席近くまで飛んだり、二人がぶつかるのではないかとハラハラするほど近くを交差するが、しっかり計算されている。引き締まった二つの肉体が美しい形を維持しながら、空中リフトなど時には非常に危険な技も交えて、まさに重力と遠心力と筋力とバランスの美学だ。

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インディゴとジョーイの仲を知ったA.J.の嫉妬が爆発、カンパニーメンバーにリハーサル無しでシーソーの演技をさせる場面では、高さ3メートルほどの櫓の上から二人の男性がシーソーの片方に飛び降り、その勢いでシーソーの反対側に立ったアクターの体が見事に天井近くまで跳んで美しいウルトラCを描く。一人がクッションの方に跳ばずに逆に跳んで、観客をどきりとさせるが、そのまま何食わぬ顔で櫓の上に飛び乗る。この場面を演じるアーティストの多くは体操出身だ。

A.J.、インディゴ、ジョーイの三角関係をマーティン・シャラー(Martin Charrat)、サミュエル・チャールトン(Samuel Charlton)、ミリアム・デレイチェ(Myriam Deraiche)のトリオがコントーションとアクロバットで見せる場面は非常に美しい。チャールトンは空中ブランコにさかさまにぶら下がり、地位の高いA.J.を表現、シャレーは地上で、地位の無いジョーイの立場を示し、その二人の男性に上下からサポートされながら空中で演技するデレイチェが、二人の男性の間で悩むインディゴの立場を象徴的に表現した。デレイチェはバレリーナにも匹敵する美しい姿態で、ショーの中でも最も印象に残る場面となった。

ミュージカル『愛人』は、ブロードウエイショーとして見るか、サーカスとして見るかで評価は分かれる思われるが、共通して言えるのは、無条件で楽しめること。嬉しいことに、このショーはブロードウエイ・ショーとして長期公演となっているので、テントでの公演の様に、決まった期間に遠くの会場まで出向く必要もない。また、海外へ輸出するのにも劇場さえあればいいので、手軽と言えるだろう。今後も同様の公演が内容を向上させながら行われることと思われる。
(2016年8月18日夜 Lyric Theatre)

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