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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2016.01.12]

舞台活動50周年記念ツアーで垣間見せたトワイラ・サープの幸せそうなダンス人生

Twyla Tharp「50th Anniversary Tour」
トワイラ・サープ 50周年アニバーサリー・ツアー
「50th Anniversary Tour」Twyla Tharp
「50周年アニバーサリー・ツアー」トワイラ・サープ:振付

11月17日から22日まで、トワイラ・サープ50周年記念ツアーのニューヨーク公演が、ジョイスシアター主催で、リンカーンセンターのデビッド・H・コック・シアターで開催されました。9月のダラス公演を皮切りに全米17箇所のツアーで、千秋楽は11月のニューヨーク公演で迎えました。
トワイラ・サープ・ダンス・カンパニーの出演ダンサーは13名です。休憩をはさんで、2つの新作が上演されました。
トワイラ・サープは、ニューヨークでも人気が高く、世界的に成功したアメリカ人振付家の1人です。世界の主要なバレエ団やダンスカンパニーも、サープの振付作品をレパートリーとして上演し続けてきました。私もサープの活動50周年記念公演を楽しみにしていました。

ny1601a_01.jpg トワイラ・サープ photo/Ruven Afanador

サープは1941年インディアナ州ポートランド生まれ。ダンサー、振付家、米国芸術科学アカデミー会員、米国哲学教会会員、米国文学芸術アカデミー名誉会員で、名実ともに米ダンス界頂点にいます。
ニューヨークのバーナード・カレッジ卒業後、ポール・テイラー・ダンス・カンパニーに入りダンサーとして1年間活動し、1965年トワイラ・サープ・ダンス・カンパニーを結成しました。振付した作品は160以上になります。12本のテレビ特集番組、6本のハリウッド映画作品、4つのフルレングスのバレエ作品、4つのブルードウェイ・ミュージカル作品、2つのフィギュア・スケート・ルーチンなどを振付けています。
トニー賞最優秀振付賞(2003年『ムーヴィン・アウト』)、エミー賞2回、2004年アメリカ国民芸術勲賞、2008年ジェローム・ロビンズ賞、2008年ケネディ・センター名誉賞など受賞歴も多数あります。

この公演には、ブロードウェイ・ミュージカル『ムーヴィン・アウト』でオリジナル・キャストとして活躍していた岡本理佳(神奈川出身)も出演しました。
1つ目の演目は『ファースト・ファンファーレ』。その後『プレリュード・アンド・フーゲ』(PRELUDES AND FUGUES)でした。
『ファースト・ファンファーレ』の音楽はジョン・ゾーン作曲で、プラクティカル・トランペット・ソサエティーの演奏によるものです。とても短いダンスで、カンパニー全員が出てきて、速いテンポで次々に飛び回り、入れ替わっていきました。このファンファーレは、初演作品を祝うためのものだそうです。本命の作品が始まる前のダンサー紹介のような、パーッと劇場全体のテンションを上げて客席からの注目を集めるような働きをしているようにも見えました。とにかく、この最初の始まりで、いきなり華やかなシーンでスピード感もあふれて、盛り上がりました。
すぐ続けて『プレリュード・アンド・フーゲ』が始まりました。音楽はヨハン・セバスチャン・バッハ。演奏はデヴィッド・コレヴァー(David Korevaar)とアンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt)によるものです。この録音のピアノ演奏は、プロの中でもすさまじく上手なピアニストで、練習を積んで上手くなるレベルではないと思われ、とても驚きました。音響設備が良いこともあると思いますが、滅多にこんなに上手なピアニストはいないでしょう。すべての音の鍵盤一つ一つに、隅々にまで指の重心がカチッと乗っていて、鳴らす音に均一に力がかかっているのです。なおかつ手首に力が入っていなくて、関節が柔らかく、あまりにもピアノ演奏が上手で、すごすぎました。こんな素晴らしいピアニストの演奏を選ぶなんて、ダンス公演といえども選曲に非常なこだわりが感じられて、サープの音楽の造詣の深さも垣間見ることができました。

ny1601a_218.jpg 「プレリュード・アンド・フーゲ」photo/Ruven Afanador

バッハのクラシック音楽が絶え間なく流れる、およそ1時間くらいの長い作品でした。ダンサーたちの衣装は、シンプルなものでした。振付はバレエ・ベースのコンテンポラリー・ダンスで、様々なダンスやモダン・バレエも融合させていて、リフトも多く使われていました。サープらしい独特な個性がある踊りで、速いテンポで、ソロを含む数名の少人数のダンサーが次々に登場してきて、すごいスピードで踊りながら走りぬけ、右へ左へと通り過ぎていくシーンが重ねられていきました。スピード感があふれる、軽快な感じの踊りです。
型にはまったような枠や制限が無く、自由な振付で、例えばかかとを軸にしてつま先を上に上げて浮かせたり、肩を上下に動かしたりしていました。ひざを曲げてかかとで回転したり、バレエとは逆方向に、軸足とは反対方向へ回転したりしているところが独特で、クラシック・バレエとはあえて違う動きを取り入れているようでした。アティチュードで回転するところも多かったです。バレエなら5番ポジションでシャンジマンするところを、その代わりに、1番ポジションでジャンプし続けるところも個性的でした。また、2番ポジションをさらに幅広くして足を配置したポーズのままで、ジャンプし続けたところもありました。ジャンプして上で回転してから着地することもいくつか出てきました。
全体的にバレエ・ベースで、振付は簡単ではなく、バレエの基礎はしっかりとしている鍛錬を積んだダンサーばかりの様子で、レベルは高かったです。クラシック・バレエよりもヒザに負担がかかる動きが多いため、鍛え上げているダンサーでなければ踊るのが難しいでしょう。
踊る時の姿勢はクラシック・バレエほどには背筋を伸ばさない動きが多いせいか、ダンサーたちはクラシック・バレエ専門の人々ほどには姿勢はまっすぐではなかったです。ひざやウエストに負担がかかるせいか、ウエスト部分が太くなっているダンサーが多く、これは普段の練習と踊りの積み重ねの結果だと思われますので、おそらく、普段のサープの振付が、クラシック・バレエよりもやや前傾姿勢のままで踊ることが多用されているからかもしれないなと感じました。
このような振付の特色、よく使われている動き、重心の動きや軸足を追って観察してみると、クラシック・バレエとは全く違う動き方と身体の使い方も多いことが分かり、サープの振付の独創性が際立ってよく理解できました。
ジャンプが多くて、すごいスピードでダンサーたちは踊りながら通り過ぎ続けていき、様々な違う振付の踊りが重ねられていくので、全体に立体的な構築をされた踊りで、ビュンビュンと音が聞こえてきそうなほどの迫力でした。こんなにスピード感と迫力がある踊りは、他では無いと思います。
駆け足したり、床に座ったり、ダンサー同士で演技をしているようなシーンもありました。
最後の一組が踊って消えると同時に幕が閉じて、劇的でした。その瞬間にすごい拍手が起こりました。74歳のサープが創作した新作は未だに新鮮でパワーに満ちていて、全く年齢的な才能の衰えを感じません。さすがだと思いました。これからも、まだまだ現役で素晴らしい振付をし続けていかれることでしょう。

ny1601a_138.jpg 「ヨウズィー」photo/Ruven Afanador

2つ目の演目は『セカンド・ファンファーレ』の後、『ヨウズィー』(YOWZIE)です。
『セカンド・ファンファーレ』の音楽はジョン・ゾーン作曲で、アメリカン・ブラス・クインテットの演奏によるものです。1つ目の演目の時と同じく、初演作品を祝うためにこのファンファーレが用意されたそうです。
すぐ続けて、『ヨウズィー』が始まりました。音楽はButler, Bernstein & The Hot 9(ジャズ・ピアニストのヘンリー・バトラーとトランペット奏者のスティーヴン・バーンスタインのジャズバンド)の演奏によるもので、様々な曲のメドレーです。この選曲は、ジャズの中心地ならではのニューヨークらしさが出ていました。
『ヨウズィー』は1つ目の演目とは作風が打って変わって、明るく楽しいブロードウェイ・ミュージカル風の作品でした。ミュージカル独特の、観客に楽しんでもらって見せるシアターダンスの要素が濃かったです。サープはブロードウェイ・ミュージカルでも振付してきたので、前衛的なダンス作品だけではなく、このような明るいシアターダンス風の作品も作るのですね。なるほど、50周年記念公演なので、サープ自身の振付のキャリアを振り返って凝縮したような、違うタイプの振付を用意して、バラエティーに富んだ公演にしたのでしょう。途中、男性ダンサーがセリフのようなラップのような歌を歌ったところもありました。全体に、ダンスだけではなく演技の要素が多かったです。
最後は全員でまた踊り、1列にわーっと横に並んで、ポーズを決めて止まり、幕が閉じました。カーテンコールでは、すごい拍手でした。
サープご本人も最後に出てきましたが、とても小柄な方でした。たくさんの生徒や関係者、ファンの方々に囲まれて客席も満員で、50周年のお祝い公演を迎えている姿を見ていると、サープはとても幸せそうで微笑ましかったです。素晴らしい良い人生だなと思い、感慨深く、とても記憶に残った公演でした。
(2015年11月22日夜 デビッド・H・コック・シアター)

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「ヨウズィー」photos/Ruven Afanador