ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From New York <ニューヨーク>: 最新の記事

From New York <ニューヨーク>: 月別アーカイブ

針山 真実 text by MAMI HARIYAMA 
[2014.01.10]

ユーモラスで楽しく、ラトマンスキーのテイストを満喫したABT『くるみ割り人形』

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
”The Nutcracker ” Choreography by Alexei Ratmansky
『くるみ割り人形』アレクセイ・ラトマンスキー:振付

アメリカン・バレエ・シアターの『くるみ割り人形』のシーンは、クララの家のキッチンから始まる。パーティの食事の準備をしている真っ只中に、子ネズミが現れキッチンで暴れてコックやメイドたちは大パニック。
この子ネズミが後々にも観客を楽しませてくれる重要なキャラクターなのだ。
この日の子ネズミも俊敏な動きで演技もとてもコミカル、普段から悪戯好きな少年ではないかと思ってしまうほど。

全米で上演される『くるみ割り人形』のほとんどが、第1幕のパーティシーンは子供たちを起用する。大人のみ、プロのみで上演するの『くるみ割り人形』は見たことがない。
アメリカン・バレエ・シアターの『くるみ割り人形』のほとんどの子役はアメリカン・バレエ・シアター付属のバレエ学校、ジャクリーン・ケネディ・オナシススクール(JKO)から選ばれている。
それなので第1幕では、クラッシック・バレエを見ているというよりも演劇を見ているような感じがするのだが、子供たちの演技はしっかりしていて大胆な演技、感情表現もはっきりしていて「アメリカだなぁ」と思わせられる。これまでのクラッシック・バレエには無い動きも見られ、子供たちは大広間で踊り、遊び、喜んだり怒ったり悪戯をしたり、とても賑やかなパーティだ。振付家のアレクセイ・ラトマンスキーのユーモアセンスが見られるところで、観客の子供も大人も笑いながら楽しんで見ている。

そしてネズミとおもちゃの兵隊の戦いが終わり、くるみ割り人形が王子に替わり、成長したクララとのパ・ド・ドゥを踊る。王子はプリンシパル・ダンサーのジェームス・ホワイトサイド、クララもプリンシパルのシオラマ・レイエスだった。
アレクセイ振付の『くるみ割り人形』の主役のパ・ド・ドゥは、どれも難しすぎて、振付けられた当初は踊り切ったペアがいなかったと言われたほどだった。実は私も、昨年見た時は何度もハラハラさせられたのだが、今日はとても満足した。
プリンシパルに昇格したジェームズは、ここのところ絶好調で踊りを楽しんでいるのが見てわかる。とても難しいリフトや技、王子に思い切って飛び乗るリフトも余裕すら見られた。主役の二人はとても伸び伸びと身体を使い、互いに幸せそうで、このシーンはチャイコフスキーの素晴らしい音楽によく合っていて感動的だった。
第1幕の最後の雪のシーン。私は初めて2階から鑑賞したのだが、雪のダンサー24人の動きは上から見る方が面白いかもしれない。フォーメーションの変化、四方八方から雪が舞い音楽が激しくなるところでは吹雪、クララとくるみ割り人形を囲むシーンなど、天井から落ちてくる雪の効果もこのシーンを盛り上げてくれる。この雪のシーンは見所だ。

ny1401b02.jpg Photo:by Gene Schiavone
ny1401b03.jpg Photo:by Gene Schiavone.

第2幕。金平糖の精の国で各国の踊りがはじまる。
スペインの女性たちは赤いタイツに黒いポイントシューズがカッコいい、ただスカートのボリュームが大きいのでせっかく激しく踊っているのに足が見えにくいのがもったいないと感じた。
アラビアの踊りは、ストーリーのある演出で女性4人が男性1人を奪い合うのだが、最後には女性4人ともが愛想を尽かして、男性1人を残して去っていくので観客は大笑い。
中国の踊りはご存知のようにあっという間で1分も無いが、速い動きと技が多くて印象に残る。ロシアの踊りは、ほんとうにロシアのどこかの路上で、お酒に酔って楽しんでいる陽気なロシア人たちのようだった。
そしてラトマンキー版には ”くるみ割り人形" の姉妹たちが5人が登場する。この5人が一般的に「ロココ」、または「フランス人形の踊り」と言われる音楽に合わせて踊る。中心で加治屋百合子が踊った。この踊りは正統派クラッシック・バレエだった。
「花のワルツ」にも振付家のアレクセイのテイストがたっぷり。踊りを知るものとしては、雪のワルツもそうだが、この花のワルツの振付もかなりダンサーの体力を消耗するものだと分かる。「花のワルツ」には16人の女性ダンサーと男性4匹が蜂になって登場し、お花たちと踊る。
コール・ドには日本人の小川華歩と12月に入団したばかりの相原舞出演していた。2人ともすぐに見つけることが出来、同じ日本人として親戚のような気持ちで嬉しく見てしまった。
2月にはこの『くるみ割り人形』の日本公演も予定されている。
ユーモラスでコミカル、演劇とミュージカルとそしてハイレベルなバレエを同時に見ているような、アレクセイのテイストがたっぷりの『くるみ割り人形』が日本でどのように感じられるのかとても楽しみだ。
(2013年12月20日 BAM Howard Giliman Opera House)

ny1401b01.jpg Photo:by Gene Schiavone.