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ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2013.06.10]

イリーナ・ドヴォロヴェンコがABTファイナル公演でタチヤーナを踊った

AMERICAN BALLET THEATRE(ABT) アメリカン・バレエ・シアター
“Onegin” by Johon Cranko 『オネーギン』ジョン・クランコ振付

5月13日から7月6日まで、メトロポリタン・オペラ・ハウスではABT(アメリカン・バレエ・シアター)の公演期間です。
5月18日土曜日夜の公演、『オネーギン』を最後に、プリンシパルのイリーナ・ドヴォロヴェンコ( Irina Dvorvenko )が引退しました。最後は、タチヤーナ役を演じ、パ・ド・ドゥのシーンが多く見ごたえがありました。
私はこの10年以上にわたり、何度もABTでイリーナが出演する公演を観続けたので、この日がABTでは最後かと思うととても寂しかったです。キエフ・バレエでプリンシパルだったイリーナは、1996年にABTに移籍し、2000年からプリンシパルを務めています。
イリーナはとても華やかで美しい女性で、演技力もテクニックも素晴らしいです。ニューヨークで別のバレエ団(ニューヨーク・シティ・バレエなど)の公演を観劇した時に、観客席にイリーナが座っていたことが何度もありましたが、間近で観るとさらに美しくて、妖精のようでした。

ny1306b01.jpg Photo: Marty Sohl

『オネーギン』の振付はJ.クランコ、音楽はP.チャイコフスキーです。19世紀ロシアが舞台の3幕構成のストーリーです。
相手のオネーギン役は、プリンシパルのコリー・スターンズ、オリガ(タチヤーナの妹)役はジェンマ・ボンド、レンスキー(オリガの婚約者)役はブレイン・ホーフェンでした。
第一幕は、ラーリン夫人の庭のシーン。ラーリン夫人には未婚の令嬢2人がいて、タチヤーナの誕生日パーティーが近いので、乳母とそのドレスの準備に追われています。まず、近所の少女たちが到着して増えていき、次々に踊りの輪に加わり、9名で踊りました。タチヤーナ(イリーナ)は後ろでイスに座って読書をしています。
オネーギン(スターンズ)とレンスキーが到着して、オネーギンはタチヤーナに話しかけどこかへ連れて行きました。
そして、オリガとレンスキーのパ・ド・ドゥ。静かでロマンティックな踊りでした。周りには少女たちなどが大勢座って見ていました。
みんなが去ると、オネーギンとタチヤーナが再びあらわれ、タチヤーナは本を置いて、パ・ド・ドゥを踊りました。最初の男性ソロは静かで、それを見たタチヤーナは心が惹かれている様子で、2人はとてもロマンティックな踊りをしました。
そして、フォークダンスのシーンです。先ほどの少女たち8名や近所の他の男性たち8名が出てきて、それぞれが8名ずつの輪になって、簡単なステップのフォークダンスを踊りました。やがて全員が手をつないで楽しそうに踊り、先ほど登場して踊っていたオリガとレンスキーも加わって、中央で踊りました。
場面が変わり、タチヤーナの寝室のシーンです。このシーンはとても幻想的で美しく、一番印象に残りました。ベビードールのネグリジェの衣装が、イリーナにとてもよく似合っていて可憐でした。
夜、寝室でタチヤーナは一人、オネーギンへの恋心が高まって眠れず、ベッドから起きだしました。大きなストールを羽織って小テーブルで何か手紙を書いています。
タチヤーナは立ち上がり、寝室奥の大きな鏡の前に行き、自分自身を見つめていると、その鏡の中の自分にオネーギンが側に寄り添ってきた幻想を見て、その鏡の中の2人の姿を触ろうとして鏡面を両手で大きくなでまわしました。3回くらいそれを繰り返し、とうとう鏡の中のオネーギンの幻が寝室へ出てきて、タチヤーナとパ・ド・ドゥを踊りました。出会った時のロマンティックな踊りとは違い、とても情熱的な踊りでした。リフトも多く使い、上で180度開脚していました。そしてタチヤーナは床に倒れ、オネーギンの幻は鏡の中へ帰っていきました。タチヤーナはそのまま床に倒れて眠ってしまいました。このオネーギンの幻はタチヤーナの夢の中での出来事だったようです。やがて朝になり、タチヤーナは目覚めました。

第二幕は、とても劇的で波乱万丈です。タチヤーナの誕生日パーティーのシーンです。老若男女の様々なカップルたちが集まり、楽しく踊っていました。タチヤーナは一人でいて、そこにオネーギンが来て挨拶を交わし、少し踊りました。
大勢のカップルが踊った後に、タチヤーナはオネーギンに手紙を渡しましたが、すぐ目の前で破り捨てられてしまいました。
すぐに別の男性がタチヤーナのところに来て紹介されて、2人は会話し、踊りました。パ・ド・ドゥの最中もタチヤーナは上の空で、ずっとオネーギンのことが気になっていました。オリガとレンスキーもパ・ド・ドゥを踊り、やがてオネーギンは彼らと言い争いをして出て行ってしまいました。
そして夜の公演での、決闘のシーンです。森の中をレンスキーが嘆き悲しんで、トボトボと歩いていました。とても悲しそうに、嘆いて、地面に倒れて、踊りました。親友のオネーギンとの決闘を後悔している様子です。タチヤーナとオリガは頭巾をかぶってついて来ていて、レンスキーに決闘を中止させようと説得しています。
そこに決闘相手のオネーギンが出てきて、レンスキーと言い争い、怒って、拳銃でレンスキーを撃ち殺してしまいました。みんなが泣き、嘆き悲しんでいるところで幕が閉じました。

ny1306b02.jpg Photo: Marty Sohl

第三幕は、サンクトペテルブルクでのシーンです。親友のレンスキーを撃ち殺したオネーギンは落ち込んで、街から出て何年も外国を放浪していた様子ですが、再び故郷のサンクトペテルブルクに戻ってきました。すっかり白髪混じりになり、やつれ果てた姿です。グレーミンのパーティにオネーギンが参加すると、そこでグレーミンの結婚相手がタチヤーナであることを知ります。グレーミンとタチヤーナは夫婦らしく落ち着いた、ロマンティックなパ・ド・ドゥを踊りました。それを見つめていたオネーギンはとても落ち込んで悲しそうで、嫉妬心をかきむしられている様子でした。
やがて、寝室にタチヤーナが一人でいるところに、グレーミンが入ってきて、タチヤーナを抱きしめてキスをして、名残惜しそうに出かけました。
その後オネーギンが入ってきて、タチヤーナは嫌がるのを無理やり手をつかまれて、何度も逃げます。しつこく追い回されてつかまってしまい、逃げ切れず、パ・ド・ドゥを踊ろうとされますが、何度も何度も嫌がって拒否し続けました。オネーギンの誘いをとても嫌そうに逃げている様子を、2人はパ・ド・ドゥで表現していました。オネーギンはしつこく、嫌がるタチヤーナに無理やりキスしようとして激しく拒否されました。
この部分の振付も面白かったです。イリーナは一つの作品の中で様々な感情を使い分けて、全く違った表現のパ・ド・ドゥを踊って演じきりました。
タチヤーナはオネーギンから渡された手紙を目の前で破り捨て、断りました。グレーミン夫人として毅然とした強い態度でした。かつてオネーギンに手紙を渡して破られ泣いていた頃とは全く違って、毅然としていて、成長していました。オネーギンはあきらめて、タチヤーナの寝室から出て行きました。そこで幕が閉じました。
イリーナは、カーテンコールの後、舞台の幕が再び上がって、ABTのダンサーたちや関係者、かつてABTダンサーだった人々などから、次々にハグされて花束を受け取り続けました。
(2013年5月18日夜 メトロポリタン・オペラ・ハウス)