ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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皆様、こんにちは。私は所用のため、3週間近く一時帰国していました。ニューヨークに戻ってくると、まだまだ肌寒い日が続いています。夜は毛皮のコートやダウンジャケットが必要なくらいです。

四人のスターが共演した「キングス オブ ザ ダンス」

 2月23日から26日まで、シティーセンターにて、「キングス オブ ザ ダンス」という夢のような公演が開催されました。私はこの公演が観たくて、待ちわびていて、楽しみにしていました。ABTからアンヘル・コレーラと、イーサン・スティーフィル、英国ロイヤル・バレエからヨハン・コボー、ボリショイ・バレエからニコライ・ツィスカリーゼという面々の、世界のプリンシパル・ダンサーたちが共演しました。すごいですね! 他の公演に比べて、チケットも高額でしたが、それでも会場は超満員でした。私は初日に鑑賞しましたが、他のABTのプリンシパルたちも勢ぞろいかというくらい、大勢が会場に観に来ていました。

今回の上演作品は、普段クラシックバレエを見慣れている人なら、いつもと違う雰囲気の、変わった作品を観ることが出来て、新鮮な楽しみ方が出来たと思います。でも、あまりバレエを見たことがなかった人がいきなりこの公演を観ると、分かりにくかったかと思います。普段とは違う、新しいこと、変わったことをしてみたいという意図が感じられた公演でした。私は、とても楽しんで、満足しました。

 2回の休憩をはさんで3つの作品が上演されました。
1つ目は、『フォー・4』。クリストファー・ウィールドン振付で、ニューヨーク初演です。まさに、この4人のために振付けされた作品です。曲は、シューベルトの、「死と乙女」。
最初は、舞台のスクリーンに、4人のリハーサルやインタビュー風景の映像が映し出されました。映像の中の4人が踊りの最初のポジションになったところで映像が終わり、スクリーンが上がり、映像から抜け出たように同じポジションの4人が舞台に現れました。映像を使って、クラシック・バレエに現代風な要素を加えてみたのでしょうね。
 振付は素晴らしかったです。クラシックがベースになっていますが、コンテンポラリーの要素も入った、新しい感じの作品です。4人の長所と持ち味を上手く生かして、ハーモニーになるように構成されていました。同じ振付を踊るシーンでも、4人のそれぞれの違った個性が際立っていました。さすが4人とも、世界的なプリンシパル・ダンサーなので、もともとの持って生まれた肉体と表現力、ポテンシャルが他と違うため、迫力と見応えがありました。踊り方にもとても余裕があります。その4人が舞台いっぱいに、大きくジャンプしたり、しなやかに回ったりしていて、4人だけが踊っているとは思えないような大きなテンションと迫力でした。


『フォー・4』

『フォー・4』
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 2作目の『ザ・レッスン』は、フレミング・フリント振付の、1963年作品です。なんと、舞台装飾、衣装、ライトデザインまで、フレミング・フリントによります。フランス文学者のウージェーヌ・イヨネスコの、同名の劇をもとにしたものです。音楽は、ジョルジュ・ドルリュー。
変質者のバレエ教師(男性)役はアンヘル、生徒役はガドラン・ボイェセン、ピアニスト(女性)はデアドル・チャップマンです。アンヘルの変質者役は、今回の公演の一番の見どころでした! すごく役にはまった演技をしていました。

 舞台セットは、ピアノが一台置かれた薄汚れたレッスン場で、レッスン場の入り口から階段を登ると玄関になっている造りです。レッスン場は地下室にあるという設定ですね。レッスンを受けに来た女の子が呼び鈴を鳴らすところから始まります。暗く硬くて、無表情なピアノ教師が、慌ててその辺に散らばった楽譜やイスを片付けて、ドアを開けました。
そこに、おどおどしたバレエ教師役アンヘルが、隣の部屋からドアをあけて入ってくるのですが、ドアに引っ込んだり、また頭を出して引っ込めたりを繰り返し、女の子をまるで獲物を見るように覗いて、壁を伝って入ってきました。アンヘルは、出てきた瞬間に、すでに変質者になりきった演技をしていて、普段の王子様役の雰囲気とは全く違っていたので、私は本当に驚きました。

 アンヘルのメイクもドギツクて、ピッタリと真ん中で分けた髪をポマードでバキバキに塗り固めていて、髪を一筋だけ額にたらしていて、顔も青白く、目の周りもうすくクマが入っていました。表情もイッていて、狂った感じがよくでていました。時々、一筋だけ垂れた髪を、額から下に向かって手でなでるのですが、その手がいつもブルブルと震えていて、目も挙動不審でうつろで、身体も硬直しているので、変質的な感じが漂っていました。誘拐犯のような感じでした。最初は内気で弱々しい男性なのですが、レッスンが進むにつれて、次第に、獲物(女の子)を前にして、襲いたくて血が騒いでどうしようもなくて、それを必死で悟られないように抑えているあまり、ブルブル震えて硬直してしまう感じになってきました。きっと全身冷や汗をかいているかのように見えた、迫真の演技でした。アンヘルがやっているとは思えませんでした。アンヘルは演技も抜群に上手いのだなあと、改めて驚きました。

 だんだん、レッスンを受けている生徒の少女も気味悪がって逃げ出そうとしますが帰してもらえず、ピアニストがいなくなった隙に、バレエ教師に女の子は絞殺されてしまいました。
その後、死んでしまった女の子を目の前にして、教師は正気に戻り、元のおどおどした弱気な感じに戻って落ち込んでいました。そこにピアニストがまた戻ってきましたが、慣れた様子で、2人で死体を運んで別の部屋に出て行きました。いつも、今までもそこで絞殺が繰り返されていたような様子を想像できます。また、呼び鈴が鳴って別の少女がレッスンに来るところでこの作品は終わりました。今後もずっと、そこで殺人が行われていくだろう事を示唆しているのでしょう。


イーサン・スティーフィル

ニコライ・ツィスカリーゼ
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 最後は、4人それぞれの世界初演のソロ作品集です。とてもバラエティーに富んだ踊りでした。
『ウェイーブメーカー』は、イーサン・スティーフィルが踊りました。ニルス・クリステ振付、音楽はジョン・アダムスです。風を作る人という意味だと思いますが、その名の通り、渦巻いて風を起こしたり、流れるような風になったりしていました。コンテンポラリーっぽい振付でした。力強い踊りでした。

『牧神の午後』はティム・ラシュトン振付、ドビュッシーの音楽で、ヨハン・コボーが踊りました。この作品は、とても素晴らしかったです。『牧神の午後』は、ニューヨーク・シティ・バレエの作品を何度か観ましたが、それとは違った振付でした。スモークが一面にたくさんたかれた舞台に、一筋の光が降りていて、コボーはそこに手を入れたり引っ込めたりしたあと、身体ごと光に当たってみたりしていました。本人が、牧神になりきっている様子でした。表情や身体の筋肉の様子で何気ない動きを表現する要素が強かったです。面白い作品で、気に入りました。

『カルメン』は、ローラン・プティ振付、ビゼーの音楽で、ニコライ・ツィスカリーゼが踊りました。ツィスカリーゼは、一人3役をすべてこなしていて、女のカルメンも演じていました。誰もが知っている有名なこの音楽も楽しく、彼の演技と踊りもコミカルで可笑しく、コメディーのようで、会場は笑いの渦と化していました。私も大笑いさせていただきました。たった一人で、表情と踊りだけで会場の笑いを取るなんて、すごい演技力だと思いました。とても楽しい作品でした。

最後の『ウイ・ゴット・イット・グッド』は、スタントン・ウェルチ振付、デューク・エリントンの音楽で、アンヘル・コレーラが踊りました。普段のバレエと違って大技はありませんでしたが、軽快なジャズで、アンヘルは軽やかに飛んで回っていて、とても楽しそうでした。天真爛漫なアンヘルらしさが出ていました。さきほどの変質者役と同じ人物が踊っているようには思えないくらいの、ギャップでした。



ヨハン・コボー

アンヘル・コレーラ
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