オペラ座ダンサー・インタビュー:マリオン・バルボー
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ワールドレポート/パリ
大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA
Marion Barbeau マリオン・バルボー(プルミエール・ダンスーズ)
2018年末にプルミエール・ダンスーズにあがったマリオン・バルボー。昨年9月のオープニング・ガラではダミアン・ジャレの『Brise-lames』、次いで開幕作品だったアレクサンドル・エクマンの『Play』があり、トリプル・ビルの「アシュトン/エイアル/ニジンスキー」ではシャロン・エイアルの創作『Faunes』に参加した。そして目下、2月20日までクリスタル・パイトの『Body and Soul』が続き、3月15日から始まる公演「ホフェッシュ・シェクター」で『In your rooms』に配役が発表されて・・・。シーズン2021〜22が開幕してから休みなく舞台に立ち活躍する彼女は、パリ・オペラ座のコンテンポラリー作品に今や不可欠な存在といえる。
2008年に入団した彼女は、2013年にコリフェ、2016年にスジェに昇級。その年にはジェルマン・ルーヴェと共にAROP ダンス賞を受賞している。スジェ昇級時のインタビューでは、『ロメオとジュリエット』『ジゼル』をいつか踊れたらと語っていたマリオン。『ラ・バヤデール』のガムザッティ、『オネーギン』のオルガといった良い配役をクラシック作品で得ていたが、ここのところはコンテンポラリー作品続きである。3月30日にフランスで封切られるセドリック・クラピッシュ監督の『En Corps』では怪我をきっかけにクラシックからコンテンポラリーへと向かい自分を再構築するダンサーの役を演じた。
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
映画『En corps』セドリック・クラピッシュ監督(日本公開未定)、オフィシャルポスター
Q:コンテンポラリー作品が続いています。芸術監督の希望でしょうか。あなたの希望でしょうか。
A:コンテンポラリー作品がオペラ座で踊られる場合、まず最初にオーディションがあります。それに受かればコレオグラファーと仕事をすることになり、それによって次の別のオーディションの際に新たなコレオグラファーを前にのびのびとできるという効果を生んで・・・オーディション慣れする、という連鎖があるのです。以前、オーレリー(・デュポン芸術監督)により多くのコレオグラファーと出会いたいという意思を伝えたことも確かにあります。カンパニー内に私のように好奇心あふれ、招待する振付家と仕事をしたがるダンサーの小さなグループができることに彼女は満足していると思います。
Q:2020年 新型コロナ感染防止のためのフランスにおける外出制限期間以降、カンパニー内がクラシック組とコンテ組の2つにはっきりと分かれているという印象を受けます。
A:そうですね。それ以前よりより明快になったと言えるかもしれません。自宅時間が長かったので、その間にダンサーたちにおいて自分が本当にしたいことがはっきりと見えたからでしょう。私の場合でいえば、その間に''GAGA(オハッド・ナハリンの身体メソッド)''をしたり、自分をこうした身体言語へとプッシュしたいという思いが強くなりました。
「オネーギン」Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:クラシック・バレエを踊り慣れていた身体はコンテンポラリー作品にどう反応しましたか。
A:身体はいわば彫像用の粘土のようなものです。一緒に仕事をした振付家の仕事は、その後でダンスのフィロゾフィーが異なる別の振付家と仕事をしても消し去られず、プラスされてゆくんですね。それが面白い。私が自分の体の柔軟性に気づき、もっとより先へと進めるのだと気づいたのは、かなり後のことで、とりわけGAGAを知ってからのことです。クラシック作品でも柔軟性は大切ですが、とても枠にはめられています。でもGAGAではあらゆる方向に向かわせることができます。『Faunes』で仕事をしたシャロン・エイアルからも体の極限へとプッシュされ、それによって私の体にはまだ可能性の源があるのだという発見がありました。
Q:筋肉のつき方が変わったのではないでしょうか。
A:コンテンポラリーを踊るようになって、体が頑丈になったと感じています。筋肉は必要性からとりわけ太ももにつきますね。でも身体の核が強靭であれば、クラシック作品でも何を踊るにしても、むきになって筋肉をつける必要はないんです。腹筋ではなく、体のセンターです。ここがしっかりしていれば何でも踊れます。いずれにしても、私は生まれつき"バレリーナ"体型なので、ヘアはショートカットにしたとはいえ、筋肉がどうついても"バレリーナ"に見えるんですけどね(笑)。
「The Art of Not Looking Back」(前左) Photo Agathe Poupeney/ Opéra National de Paris
Q:コンテンポラリー作品へのモチベーションは何でしょうか。
A:仕事において自由裁量があることです。それはホフェッシュ(・シェクター)と『The Art of Not Looking Back』(2018年5月)で初めて一緒に仕事をした時の新発見でした。一人で体をウォームアップし、いかに体の緊張をとくかなどの仕事をして。コンテンポラリーの振付家はスタジオで鏡を使いません。形よりも感覚の仕事なんですね。身体に耳を貸す仕事なんです。動きの感覚を研ぎ澄まし、身体的にジャストなものを自分で見出す必要があるのです。それに私は身体の極限、奇妙や異様といったことに関心があって・・・。クラシック作品は美しさを追求するけれど、コンテンポラリーで醜さや奇妙なことも許されます。これは特に2019年に踊ったマルコ・ゲッケの『Dogs Sleep』での仕事にいえまね。顔を歪めたりと、彼から異様さを求められました。
Q:コレオグラファーとの出会いを求めるきっかけとなったコンテンポラリー作品がありますか。
A:まずは、『イオランタ / くるみ割り人形』(2016年)が挙げられます。これは演技のパートもかなり大きな作品でした。他のクラシック・バレエ作品でもパントマイムとかあるけれど、この作品はずっとヒューマンでナチュラル。とりわけこの作品を振付けた3名の一人であるシェルカウイがクリエートしたデュオでは、パートナーと体の重心の仕事やバランスの見つけ方などを学び・・・これが最初のきっかけですね。その次がホフェッシュの作品で、その後オハッド(・ナハリン)が続いて・・・こうして私はコンテンポラリー作品へと向かったのです。
「イオランタ/くるみ割り人形」ステファン・ビュリオンと
photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Pari
「Faunes 」
Photo Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
Q:複数の創作に参加しています。最新作は男女合計8名のダンサーによるシャロン・エイアルの『Faunes(牧神たち』(2021年12月)ですね。
A:はい。これは私の人生を変えた作品です。彼女の作品を実際に見たのは1度ですけど、今はインターネットなどでいろいろ見ることができ、私は彼女の仕事に取り憑かれていました。彼女のフィロソフィーはとても強く、私の心に触れるものがあります。この創作ではフェミニティを表現する方法について私には新発見がありました。それに作品中、踊る私たちの性別が曖昧というのも気に入りました。創作時間はけっこうあったけれど、ロンドンでの仕事もあってシャロンとはあいにくと長時間の仕事はできず。アシスタントのレベッカ・ヒティングと多く稽古をし、彼女はGAGAのクラスレッスンもしてくれました。
「Faunes 」
Photo Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
Q:10分程度の短い作品中、ダンサーは常にドゥミ・ポワントで踊る振付でした。
A:そうなんです。彼女はクラシック・ダンスへのリスペクトがあって、私たちオペラ座のダンサーたちの持つ知識をクリエーションに活用し、ひねって。私たちがこれまでの人生をすごしてきたことをベースに、体を変形させる振付でした。身体的にはそれまで至れなかった極限を発見することもできました。
Q:コレオグラファーの中にはクラシック作品で培かわれたオペラ座ダンサーの身体能力に惹きつけられる人もいるのですね。
A:そうです。とりわけシャロンは人間が好きなので、受けた教育が何であれ、そこにあるベースや素材を使って創作するのを好むのです。クラシックとコンテンポラリーを両立させることができるんです。今でも覚えているのは、創作の最初に彼女が言ったことです。「コンテンポラリー・ダンスはしません。でも、クラシック・ダンスでもありません」と。彼女のスタイルを踊るということですね。『Faunes』はクラシックのコードを使った、とてもハイブリッドな作品。大好きです。ずっとドゥミ・ポワントなので足裏の指の付け根とふくらはぎを働かせ続けて・・・これは私たちがそれまでしてきたクラシックでの仕事があってこそです。体のセンターを強く働かせるのもクラシック・バレエと同じです。
Q:今後仕事ができたらと願うコレオグラファーはいますか。
A:はい、マリナ・マスカレルの作品をぜひ踊ってみたいと思っています。それからボリス・シャルマッツもぜひ一緒に仕事をしたい。彼の作品、どれもとても好きなんです。
Q:シーズン2019/20では4月にアラン・ルシアン・オイエンの新作が予定されていました。彼の作品はどうですか。
A:彼も仕事をしたいコレオグラファーの一人なんです。この新作については2020年2〜3月に準備をしていたのだけど、あいにくと公演予定が3月半ばから6月まで続いた外出制限期間中だったので中止となってしまいました。私にとって彼との仕事でも、自由裁量という点で「あっ」という発見がありましたね。詩、歌・・・私たちダンサーが用意して、提案して・・・彼の仕事の仕方はピナ・バウシュのそれに近いのではないかと感じました。セリフも多くあって演劇のよう。この作品、来シーズンのプログラムに入るのではないでしょうか。
「ラ・シルフィード」
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
「Play」
Photo Ann Ray/ Opéra national de Paris
Q:オペラ座のサイトのL' Opéra chez soiでは2019年に収録されたアレクサンダー・エクマンの『Play』を有料レンタルできます。この作品を踊る喜びは何でしたか。
A:どういったらいいのか・・・今シーズンの公演でいえば、アレクサンダーが私にステージ上でのぶらぶら歩きをプラスしたんですね。ポワントのソロを毎晩即興で。これは心底楽しむことができました。私はポワントのテクニックが好きだし、たくさんのことができるような気がし・・・彼は私の自由にまかせてくれたんです。ちょっとおバカさんのように踊ってみたり、テクニック的により複雑にしてみたり、と毎回新しいことを試していました。
Q:この作品ではとても高いところから飛び降り、受け止めたダンサーたちに胴上げされてというシーンがあり、観客はハラハラさせられます。
A:私もです!(笑)。怖いですよ、これは。公演ごとにより高く飛ばされているような印象がありました。前進が必要なんですね。この作品の面白さは、新鮮さと突発性を維持すること。チャレンジです。アレクサンダーはダンサーたちを俳優のように指導することに長けています。彼は笑わせる作品を作ったのだけど、我々は観客を笑わせようとしてはいけないんです。状況が笑いを呼ぶんです。このユーモアの仕事は興味深いものでした。
Q:この『Play』も今公演中の『Body and Soul』も約40名近いダンサーが一緒に踊る作品です。こうした作品についてどう感じていますか。
A:確かにダンサーの数が少なくインティメートな作品を踊るほうがいいですね。でも、大勢のダンサーの一人として踊ることも嫌いじゃないんです。舞台の上で群衆の中、周りを多くのダンサーに囲まれてみんないっせいに同じ振付を踊るのはとても活気が溢れることで・・・。でも創作の過程やスタジオでの仕事について言えば、少ないほうが望ましい。より自分を進化させることができるし、コレオグラファーやアシスタントたちとのやりとりも深められるので。
「Body and Soul」Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris
Q:現在プルミエール・ダンスーズなので、次の段階はエトワールです。でも、任命はクラシック作品で行われることがほとんどです。
A:そうですね。これについてはここ数年自分に問いかけていることなんです。エトワールという階級にアクセルがある場に私はいるのだけど、今の私の欲とこれは適合しないことのように思うのです。エトワールはクラシック作品を主に踊り、時々『Body and Soul』のような作品にも配役されて・・・と。それは私が興味を持てることではありません。もし万が一エトワールになったにしても、そのタイトルを役立たせることができるかわかりません。例えば外部の映画のプロジェクトとか、いろいろと自由に活動できることが私には必要なので、オペラ座を代表するショーウインドー的な存在というのは今の私には合わないように感じます。ジェルマン(・ルーヴェ)は現実社会ととても繋がっていて、エトワールという肩書きを自分にとって大切な主張を守るために活用して素晴らしいですね。彼はもちろんクラシック作品を踊り、オペラ座での仕事を欠かすことはありません。でも今の私の欲はそこにはないのです。
Q:コンテンポラリー作品に強いダンサーのエトワール任命もあり得ると芸術監督が何かの機会に語っていたように記憶しています。
A:それは不可能なこと、矛盾することのように私には思えます。なぜってコンテンポラリー作品はほどんどの場合がグループの仕事ですから。例え『Faunes』のように8人だったにせよ、そこで私が30秒のソロを踊ったにしても、あくまでもグループの仕事。こうした作品にはヒエラルキーがないのです。クラシック作品をもう踊りたくないというのではありませんよ。クラシックには大きな愛情を常に持っていて、5年前に語ったように『ロメオとジュリエット』『ジゼル』といったバレエには興味を今でも持っています。でも、オペラ座ではシャロン・エイアルやマルコ・ゲッケなど同時に他のことがあって・・・私は好奇心が旺盛なので、クラシック作品を踊る機会を逃すことになっても、新しいコレオグラファーが来るたびに会いたい!仕事をしたい!と思うのです。コンテンポラリー作品を踊ることで、今、自分を存分に発揮できているんです。
「 Body and Soul 」シモン・ル・ボルニュと photo Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
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