オペラ座ダンサー・インタビュー:マリオン・バルボー

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Marion Barbeau マリオン・バルボー(2016年1月1日よりスジェ)

11月3日に行われた昇級コンクールの結果、スジェのポストを一位で得たマリオン。バスチーユでの年末公演『ラ・バヤデール』ではグラン・パ、プルミエ・オンブルに加え、ガムザッティも踊る。
マリオン・バルボーは2008年に入団して以来、配役に恵まれていたとは言い難い。しかし、今シーズン開幕公演でバンジャマン・ミルピエ芸術監督による創作『Clear, Loud, Bright, Forward』に配役され、観客は彼女の優美さとみずみずしさに溢れるダンスを発見する機会を得た。小さな顔と長い手脚、均整のとれた身体と愛らしい顔立ち。期待される若いダンサーの一人であるマリオンの、来年の活躍が楽しみだ。

Q:昇級決定、おめでとうございます。コンクール前、「今回はひょっとすると上がるかもしれない !」と思いましたか。

A:はい。今年のコンクールはいつもと違う感じがありました。今シーズンの始めに、バンジャマン・ミルピエのクリエーションに参加し、その仕事のおかげで自信がもてるようになり、また彼との関係もそれ以前とは異なったこともあって・・・。


Q:ではコンクールの課題曲、自由曲ともに自信をもって踊れましたか。

A:今回は空席数も前シーズンより多くて、上がれるチャンスがいつもより大きい。とはいっても、コンクールというのは難しいことにはかわりないので、そうありたいと努力はしましたけど・・・。

Q:自由曲のロゼラ・ハイタワー版『眠れる森の美女』というのは、なかなか珍しい選択でしたね。

A:これ、偶然、オペラ座のビデオ・アーカイブでみつけたんですよ。ヌレエフがオペラ座に来て自分のヴァージョンを創る前は、このハイタワーの『眠れる森の美女』がオペラ座で踊られていました。

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photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

最初のヴァリアシオンはほぼヌレエフ版と同じなんだけど、2つめのヴァリアシオンは衣装もモスリンのドレスで全然別ものなのよ。私が見たビデオのオーロラ姫はクロード・ド・ヴィルピヨン。コンクール前には、彼女と同じ世代のフローランス・クレールがお手本をみせてくれ、実際の指導はローラン・ノヴィスとデルフィーヌ・ムッサンがしてくれました。

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コンクール photos Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:今シーズン開幕時、ミルピエ監督の創作『Clear, Loud Bright Forward』では大活躍でしたね。彼の作品は過去にも踊っていますか。

A:いいえ、全然 !! だから、予定表で自分がこの作品に配役されているのを見たとき、ビックリしてしまったの。それまで彼とは仕事をしたこともないし、ほとんどコンタクトがなかったから。彼が監督に就任した後、自分にはやる気があるということを言いたくて、一度だけ彼のオフィスに行ったことがあるくらい。本当にこれは驚きだったわ。後で思ったのだけど、私がコール・ド・バレエで踊った『白鳥の湖』とか、シーズンを通して彼は見ていてくれたのだと・・。

Q:リハーサルはどのように進みましたか。

A:彼の振付は私の体にはとても快適なものって、すぐに感じられたの。それで私からも提案してみたいという気になって・・・。こうして彼との間に多くのやりとりが生まれたんです。その結果、信頼関係が生まれ、自由が感じられました。自分でもどんどんと進歩してゆくのが感じられました。

Q:全公演、毎回同じ16名のダンサーが踊る1配役のみ。万が一に備え、代役は用意されていたのですか。

A:合計14公演を踊りました。代役については、もし誰かが怪我をしたら、すでに配役されているダンサーが降板ダンサーのパートを踊るという・・・繰り上がり方式のようなことになっていました。

Q:それでゲネプロだけで降板したジェニファー・ヴィゾッキのパートをイダ・ヴィキンコスキーが踊り、イダがもともと踊ることになってたパートをロクサーヌ・ストジャノヴァ踊ることになったのですね。

A:そうです。複雑な状況だったので、ちょっと不安でしたね。私は幸い全公演をまっとうできたけど、例えば、もし私が踊れなくなったらローレーヌ・レヴィが私のパートを踊り、ローレーヌのパートを配役されている他の誰かが踊るということになっていました。ローレーヌは怪我で創作に参加できなくなったオニール 八菜の代りに配役されたんですよ。

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「Clear, Loud, Bright, Forward」photo Ann Ray

Q:衣装はオランダ出身のイリス・ヴェン・ヘルペンに任されました。シルバーの未来的な衣装は観客には美しく映りましたが、ダンサーにとっては踊りやすい衣装でしたか。

A:・・・なかなか大変でした(笑)。彼女は素晴らしいファッション・デザイナーですよね。でも、私たちと違って、ファッションショーではモデルたちは服を来て歩くだけだけ。今回のコスチュームはとても刳りの深いデザインだったので、女性ダンサーたちは常に胸元とか気にしてなくてはならなくって・・・。パートナーにポルテされると、ウエストまわりとか布がどうしても動くので余計気になってしまって・・・。タイツと衣装を縫い合わせて、足先までのつなぎのようにするというオペラ座のクチュール部門が魔法使いみたいに素晴らしいアイディアを出してくれました。それからはずっと踊りやすくなったの。このコスチューム、照明にはとても映えるシルバー素材なので、会場から見るとさぞ美しかっただろうって想像できます。 

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「Clear, Loud, Bright, Forward」photo Ann Ray

Q:オペラ座のサイトで見られる3eme Scèneで、アニメーターのグレン・キーンのフィルムに出演していますね。彼に選ばれたのですか 。
https://www.operadeparis.fr/3e-scene/nephtali

A:ミルピエ監督のアシスタントの説明によると、そのようですね。でも、彼と会ったこともなくって・・・。これは素晴らしい経験でしたね。彼が最初にどんな雰囲気が欲しいのかを説明してくれました。三拍子というのが彼のアイディアなんです。彼は希望のステップを自らしてみせてくれ、そこから私が彼の希望に沿うようなステップを考えて・・・というようにして、上手く進みました。

Q:このアニメーション・フィルムの中で踊る妖精ネフタリはあなたなのですね。

A:はい。驚きですよ、このアニメーションの中でネフタリは私がした通りのステップをそのまま踊ります。それも、私と同じ踊り方!それにパーソナリティも・・・だから、とても私には感動的なフィルムなんです。

Q:3eme scèneでは現在20作品以上を見ることができます。この他にも出演している作品がありますか。

A:エキストラというか、レベッカ・ゾロトフスキーの「06/09/2015」ではオーディションに落ちてしまうその他大勢の一人なんです。そして、つい最近、"Clear, Loud Bright Forward360° という、ミルピエの創作の最初の部分のフィルムがサイトにアップされました。
https://www.operadeparis.fr/3e-scene/clear-loud-bright-forward-360

Q:これは360度とあるように別のアングルから舞台をとらえたフィルムですが、この作品を実際に見ることが出来なかった人だけでなく、実際に見た人にとっても興味深いフィルムといえそうですね。

A:そうなの! まるで舞台を見てるような気になれるから。舞台の中央にカメラを置いて360度撮影したものなので、けっこう驚かされますよね。遊びがある映像といえるかしら。私、この作品は音楽も大好き。人によっては、この音楽はちょっと・・・という感じだっただけど。音楽の調子が途中で変化があって、これが踊っていて快適だったの。音楽を聞いているだけで、振付の意図が伝わってきて、私たちが表現したいことを可能にしてくれたのよ。

Q:振付は踊るのに複雑な部分がありましたか。

A:もちろん ! とりわけパ・ド・ドゥの部分。特に男性たちが大変だったと思う。回を重ねるうちに進歩があったけど、女性をホールドするのがかなり複雑な振付だったから。

Q:複数の男性に高々と持ち上げられ、女王然とするシーンはどんな感じでしたか

A:ああ、これ最高だったわ。5人だったかしら。たくさんの男性の上に君臨するのって(笑)。それにこの作品は照明が素晴らしくって、背景に巨大な影が映し出されるの。これによってさらに気持ちが高揚。まさに壮観ね! こういうことって、滅多にあることじゃないわ。

Q:コンテンポラリー作品に配役されることが多いですか。

A:いえ。私、一般的にいうバレリーナのタイプに属するのでクラシック作品にもけっこう配役されてますよ。コンテンポラリーについていえば、プレルジョカージュの『シッダールタ』、マクレガーの『感覚の解剖学』の創作にコール・ド・バレエとしてだけど参加しています。それからちょっとタイプは異なるけど、リガルの『サリュ』・・これ変わった作品だったけど、楽しめました。人間的にも良い経験ができたし。

Q:今は『ラ・バヤデール』の公演中ですね。すでにグラン・パ、プルミエ・オンブルを踊り、いよいよ14日にガムザッティを初役で踊るのですね。

A:はい。この作品を踊るのは、入団して以来今回が5度目なんです。過去4回はコール・ド・バレエでいつも同じことを踊っていたのが、やっと・・今回初めて役があります。

Q:目下準備中のガザザッティは、どんな女性ですか。

A:複雑な女性だとイメージしています。たとえプリンセスで、たとえ王からとても甘やかされ、欲しいものはすべて手にいれて育ったにしても、ね。その輝かしい運命ゆえに素晴らしい男性ソロルと結婚・・でも、これ、うまくゆきませんね。ニキアを死に至らせるくらいなんだから、どこか狂気を秘めてる部分がある。といっても、ただ悪意のある女性というだけではなくてセンシブルな面を持っています。脆いところもあるのだけど、その高い立場ゆえに出来る限りそういった面を見せないようにしているだけ、という女性。私の公演日のニキアはリュドミラ(・パリエロ)の予定だったけど、彼女がまだ復帰できないのでドロテ(・ジルベール)が踊ります。

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「ラ・バヤデール」(左)photo Little Shao/ Opéra national de Paris

Q:ダンスを始めたきっかけを話してください。

A:家族ゆえじゃないのは確かね。だって、両親や親戚にダンスをしてた人は誰もいないのだから。私はすごくアクティブでいつも動き回っているような子供だったので、ダンスをやってみたいって思ったのじゃないかしら。

Q:どこでバレエを始めましたか。

A:パリの近くの街に住んでいて、そこのバレエ学校で習い始めました。6歳の時です。昔ながらの教え方だったので、とても厳しかったけれど素晴らしい教師に恵まれたの。その後、1年間、パリ18区のアベスのコンセルヴァトワールで学び、11歳でオペラ座のバレエ学校に入ったの。6エムディヴィジョンから始めて、順調に上がってゆき、合計6年間いました。

Q:学校の最終年の公演では主役を踊りましたね。

A:はい。この『祭りの夜』は好きな作品です。ピエール・アルチュール・ラヴォーがパートナーで、その後バレエ学校のツアーでワシントンでも彼と一緒に踊ったのよ。するべきことはたくさんあったけど、とりわけヴァリアシオンのイタリアン・フェッテが大好き。

Q:卒業した2008年に入団し、2013年からコリフェでした。その間にオペラ座を辞めようとか、考えましたか。

A:いえ、キツかったのは確かだけど、その時には・・。でも、前シーズン(2014〜2015)中、そういった考えがちらっと頭をよぎったことがあるの。バンジャマン(・ミルピエ監督)が就任した後、すぐに、あ、彼は私に興味がないようだわ ! って感じたので。私はそれほど忍耐強いほうじゃないのね。で、私は踊りたいのに、こうして時間を無駄にすごすのは残念だわって思ったの。例えばレオノール(・ボーラック)とかジュリエット(・イレール)といった同世代のダンサーたちには興味深い仕事が与えられているというのに、なぜ、私には???・・・と思って。

Q:フラストレーションですか 。

A:そう、少しばかり・・・。もちろん仕事が何もなかったというわけではないのだけど、もっともっと踊りたい!と思ったので。

Q:他のカンパニーに移ろうとか考えましたか。

A:いえ、そこまで具体的なところまでは至りませんでした。1〜2年どうなるか様子をみて、それ次第では・・という感じでしたね。

Q:2016年1月1日からスジェですね。サラリーが上がる他、どんな変化があるのですか。

A:サラリーのことは忘れてたわ! 変化についていえば、今のオペラ座では以前ほどピラミッドのランクは意味がなくなっているので・・・。

Q:昇級は心理的にどんな作用をもたらしましたか。

A:ホッとしました。のしかかっていた重みから解放されたという気がしたわ。だって、私は上がる準備ができているって長いあいだ感じていたので。

Q:これまでに一番舞台を楽しめたのは、やはりミルピエの創作『Clear, Loud, Bright , Forward』でしょうか。

A:はい。でも、それ以前にもちょっとした役を踊っていて・・例えば『オネーギン』のオルガとか。こうした演じる役というのも、素晴らしい経験だったわ。この時が、オペラ座が『オネーギン』を上演できる権利のおそらく最後の公演だったはず。でも傑作なのだから、また上演する機会がきっと戻ってくると思います。

Q:次の時はタチアナ役を踊りたいと願いますか。

A:はい。こうしたドラマチックな役は踊ってみたいって思うものですよね。物語を踊り、愛ゆえに涙を流し、といった。

Q:いつか踊ってみたいと夢見ている作品は何ですか。

A:たくさんあるわ。モスクワのガラで『ジゼル』を踊る機会があったのだけど、これ、しっかりと稽古を積んでいつかオペラ座で踊ってみたいですね。狂気のシーン、それに第二幕もたくさん学ぶことがあるし。今シーズンのプログラムに入ってるけど、オペラ座にはジゼルを踊れる女性ダンサーがたくさんいるので・・・。もう1つは、これも今シーズンに公演があるけど、『ロメオとジュリエット』よ。もちろんジュリエット役に配役されたらって、期待したいわ。期待は誰でもがしてよいのだから。

Q:最近オペラ座のダンサーに、外部のプロジェクトからの出演依頼が増えているようです。あなたは何をしましたか。

A:写真家のピエール・エリー・ドゥ・ピブラックの撮影、それからアーチストJR のプロジェクトに参加しています。JR の時は10年前に郊外の若者たちが暴動を起こした現場での撮影も体験できたし、それに、フィルム撮影というのがどのように行われるのかを知るチャンスにもなったの。この間は、フィルハーモニーのウィークエンド・コンサートで、ファビアン・レヴィヨンと踊ったのよ。『白鳥の湖』のパ・ド・ドゥ、そして『白鳥の死』。バドルゥ・オーケストラという古くからのオーケストラのコンサートでのことです。長さはともかく、幅がたった2メートルしか踊る場所がなかったにしても、これは素晴らしい経験でしたね。まずフィルハーモニーという会場、そして、踊るすぐ後ろで演奏されるオーケストラの音が、私たちの体にバイブレーションを送ってきて・・・。また、こうした機会があるといいなって、期待しています。例の事件の後だったので踊る予定だったロシアからのダンサー二人が来られなくなり、パリの私たちが踊ることになったようです。

Q:ファビアン・レヴィヨンとはよく踊るのですか。

A:はい、もう何度もガラで一緒に踊っているの。『ロメオとジュリエット』が私たちのオハコよ!(笑)。私が次に参加するのは来年1月にドバイで開催されるローラン・ノヴィスのガラ。ここでは、『パキータ』のパ・ド・トロワをジェルマン(・ルーヴェ)とアリス(・カトネ)と踊ります。それからローラン・ノヴィスのクリエーションをフローラン・メラックと二人で。彼は3年くらい前から毎年ガラ公演を開催しています。2015年1月の時は、私がよく参加しているブリューノ・ブーシェのガラがインドであったので、そちらに行きました。

Q:オペラ座での仕事が山ほどある上に、ガラの稽古があるのは大変ではないですか。

A:そうね。私、以前はガラの提案が来るたびに『ウイ ! ウイ ! ウイ ! ウイ ! 』って返事していたのだけど、今はオペラ座でやるべきことが増えたので、それに集中したいと思っていて・・・。オペラ座の仕事の妨げになるようなことはしたくないの。 

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「Clear, Loud, Bright, Forward」リハーサル(中央)photo Ann Ray/ Opéra national de Paris

<<6つのショート・ショート>>

1 . プティ・ペール:ブリューノ・ブーシェ(今は関係が異ったけど、それでも彼は私の面倒をよくみてくれる)。

2 . 舞台に出る前にすること:薬局で売ってる疲れ脚用のスプレーをかける(イザベル・シャラヴォラがしていたのを真似て。これをしないと、よく踊れないという気がする)

3 . ダンサー以外に考えられる仕事:デコレーター、あるいはモード誌のジャーナリスト。小さい時はバンド・デシネの描き手になりたかった。

4 . 時間があるときにすること:ウクレレを弾いて、歌う(バカンス気分が味わえ、リラックスできる)。買い物。映画、展覧会。家族に会う。

5 . 好きな匂い:アスファルトに降りおちる雨の匂い。嵐の後の匂い。森に降る雨の匂い。香水はプラダの「アンフュジョン ドゥ フルールドランジェ」を愛用。

6 . 理想のバカンス先:ブラジル(ボサノバなどブラジルの音楽が好き)。ニューオリンズ(ジャズゆえに)。

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