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パリ・オペラ座の新プラットフォーム<ロぺラ・シェ・ソワ>がスタート、ヌレエフ版『ラ・バヤデール』を有料配信。そして観客公演再開は延期された

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

Démarrage de « L'Opéra chez soi » : Rudolf Noureev « La Bayadère » & le report de la réouverture des salles de spectacle

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© Opéra national de Paris

パリ・オペラ座は昨年冬の年金改革反対スト、次いで新型コロナウイルスの蔓延によって舞台公演がなかなか行えない状況が続き、財政面でも苦境に立っている。こうした中でアレクサンダー・ネーフ総監督はプラットフォーム L'Opéra chez soi(ロぺラ・シェ・ソワ)を創設し、オペラ座公演の観劇に新しいスタイルを導入しようとしている。12月8日からhttps://chezsoi.operadeparis.frでアクセスが可能になり、パリ・オペラ座のオペラ、バレエ、コンサートがオンタイムやリプレイで有料(一部は無料)で、世界のどの国にいても楽しむことができる。
バレエではすでに『白鳥の湖』(ヌレエフ振付)、『マーラー第3交響曲』(ノイマイヤー振付)、『マノン』(マクミラン振付)、『ドン・キホーテ』(ヌレエフ振付)など9演目がリストアップされている。

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© Opéra national de Paris

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© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

今回の年末公演『ラ・バヤデール』のリハーサルには、通常の4週間の倍に当たる8週間が必要だった。その理由は、ソリスト以外はマスクを着用して練習せざるを得なかったためだ。メートル・ド・バレエのリオネル・ドゥラノエによると、「マスクのせいで、吸い込める酸素が減ってしまいます。それに、自分が吐く息に含まれている二酸化炭素を吸収してしまうために、心拍が増えてしまうのです」練習を始めた当初はダンサーたちの眼球が飛び出て、息切れして休まないではいられなかった。曲を短く切って30秒、次いで1分、やがて2分続けて踊ることができるようになった。通常なら30分の休憩をはさんで2時間半の練習を二回の合計5時間行うところを、今回はダンサーの疲労と衛生面を考慮して、休憩なしの一回だけだった。
ソーシャル・ディスタンスをリハーサル中も確保するために、ガルニエ宮のリハーサル室(スチュディオ)の床には色テープで間隔が明示され、踊っている時に一人当たり4平方メートルから8平方メートルの空間が確保された。いっせい練習でも同時に踊るのは20名に限定され、それ以外のダンサーはサイドで待機した。練習が終了したら部屋の前方から退場し、それから待機者が中央に進み出ることで相互の接触を避けた。

本番の会場となったバスチーユ・オペラでは上手、下手ともに、舞台のすぐ横は「息を付くためのゾーン」となり、踊り終わったダンサーはマスクを外して呼吸ができるようにした。このゾーンの次は「レキュペレーション・ゾーン」で、ここでダンサーは再度マスクを着用した。舞台裏には「作業ゾーン」が設定されて、各人が決まった場所に私物を置いた。
縫製は予約制でダンサーが一人づつ、他のダンサーとは合わないようにし、メーキャップや頭髪のカットもブラシや刷毛が三組用意され、順次消毒された。
群舞の定員が変更されたこともいつもとは違っていた。ヌレエフ財団の承諾を得た上で、オウムの踊りと扇の踊りは12人ではなく、8人のダンサーによって踊られ、ダンサー同士の距離が保たれた。
32人の影に対して16人の代役が用意されたのは、「万が一、一人の影が感染したら、本人と周囲にいた4人を隔離しなければならない」(メートル・ド・バレエのクロチルド・ヴァイエ)からだ。罹患者がいないかどうかは毎週月曜日に衛生試験所がガルニエ宮に出張して検査し、4時間後には結果が伝えられた。(以上、11月20日付「フィガロ紙」アリアーヌ・バヴリエ記者の記事による)

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© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

フランス全土で10月30日零時から始まったロックダウンは12月14日に終了した。しかし、10月末で時点で予告されていた12月15日からの劇場再開は、11月中旬までは漸減していた新型コロナの新規患者数が、12月に入ってから再度増加したため見送られた。
この結果として、12月15日から1月2日まで予定されていた『ラ・バヤデール』公演はすべて中止され、12月13日14時半からの無観客公演のみが、前述したプラットフォームL'Opéra chez soi(ロぺラ・シェ・ソワ)の有料ストリーミングで配信された。

今回は、実況で中継された1公演のみとなったため、なるべく多くのソリストを参加させるために、幕ごとに主役三人の配役が代わる特異なものとなった。
第1幕はベテランのドロテ・ジルベールのニキヤと若手のジェルマン・ルーヴェ(初役)のソロルに加え、レオノール・ボーラックが初めてガムザッティを踊る、という配役だった。ドロテ・ジルベールがいつもながら安定した演技を見せた一方、レオノール・ボーラックが初役ながらガムザッティの嫉妬心をまざまざと見せつけた。

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ドロテ・ジルベール、ジェエルマン・ルーヴェ
© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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ジェエルマン・ルーヴェ
© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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ヴァレンティーヌ・コラサンテ
© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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アマンディーヌ・アルビッソン
© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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ユゴー・マルシャン
© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

20分の休憩後の第2幕はガムザッティ(ヴァランティーヌ・コラサンテ)とソロル(ユゴー・マルシャン)の婚約式の饗宴でプルミエール・ダンスールのポール・マルクがブロンズ・アイドルとして登場し、優れたテクニックと持ち前の品のある踊りを披瀝した。アマンディーヌ・アルビッソンも感情のこもった踊りと優雅さで毒蛇に噛まれるニキヤを演じ、ユゴー・マルシャンも勇士ソロルらしい存在感を示していた。脇役ではマリーヌ・ガニオ(マヌー)やフランチェスコ・ムーラ(托鉢僧=ファキール)が健闘していた。

再度の20分休憩で第3幕となったが、32人の影たちが後方から一人づつ登場する見せ場ではカメラによる映像の限界が感じられた。広い闇にダンサーの白い姿一つ、また一つと浮き上がっていく場面の妙はやはり客席に座って見なければ体感できないのだろう。
しかし、マチアス・エイマンが舞台に現れた途端、画面で見ていても舞台の空気が一変した。しなやかで重さを感じさせず、繊細そのもののミリアム・ウールド=ブラームと息のぴったり合って至福の瞬間だった。セ・ウン・パクの実になめらかな第1のヴァリエーション、オニール八菜の抜群のテクニックが際立った第3のヴァリエーションも忘れがたい。

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セ・ウン・パク © Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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マチアス・エイマン © Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

公演が終わると、アレクサンダー・ネーフ総監督がオーレリー・デュポン舞踊監督を伴って登壇し、第2幕でブロンズ・アイドルを踊った弱冠23歳のポール・マルクがエトワールに任命された。2018年1月5日にヴァランティーヌ・コラサンテが昇級して以来初めてのエトワール誕生となった。無観客公演でのエトワール任命は史上初であろう。この公演はライブでの中継から24時間で1万人を超える人々が観劇した。有料ストリーミングとして大きな成功を収めたことは誰にも否定できないだろう。

南西フランスにあるアキテーヌ県のダックスに生を受けたポール・マルクは3歳で姉が通っていたレッスンを見て「ダンスに一目惚れ」した。4歳からレッスンを受け、家でも学校でも一日中踊り、夏は大西洋岸の保養地ビアリッツで講習会に参加した。パリ・オペラ座バレエ学校を経て、2014年にコール・ド・バレエの一員となった。その後、順調に昇級し、2017年12月には『ドン・キホーテ』のバジル、翌年には『オネーギン』(ジョン・クランコ振付)のレンスキー、『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』(『リーズの結婚』フレデリック・アシュトン振付)のコーラス、2019年には『白鳥の湖』(ヌレエフ振付)のジークフリートと大役を任せられてきた。
昇進後、ポール・マルクは「まだこれからも進歩しないといけません。アダージョでの耐久力を向上させるとともに、自分のダンスを登場人物にぴったり重ね合わせたいです。『椿姫』や『若者と死』はぜひ踊りたいですけれど、うまく踊れるでしょうか。役柄を演じるために、より美しく、より的確に踊れるように研鑽を積んでいこうと思います。」と語っている。才能があるだけでなく、謙虚で意欲あふれる新星への期待は大きい。

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photo Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

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photo Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

『ラ・バヤデール』(12月13日)
音楽:ルドヴィック・ミンスク
翻案・振付:ルドルフ・ヌレエフ
原振付:マリウス・プティパ
筋:マリウス・プティパ&セルゲイ・クーデコフ
装置:エジオ・フリジェリオ
衣装:フランカ・スカルチアピイーノ
フィリップ・フイ指揮 パリ・オペラ管弦楽団

配役
<第1幕>
ニキヤ:ドロテ・ジルベール
ソロル:ジェルマン・ルーヴェ
ガムザッティ:レオノール・ボーラック
<第2幕>
ニキヤ:アマンディーヌ・アルビッソン
ソロル:ユゴー・マルシャン
ガムザッティ:ヴァランティーヌ・コラサンテ
<第3幕>
ニキヤ:ミリアム・ウールド=ブラーム
ソロル:マチアス・エイマン
黄金の偶像:ポール・マルク
奴隷:オードリック・ブザール
マヌー:マリーヌ・ガニオ
ル・ファキール:フランチェスコ・ムーラ
グラン・ブラマーヌ:ヴァンサン・シャイエ
インド人女性ソリスト:セリア・ドルー
インド人男性ソリスト:アクセル・マリアノ
第1ヴァリエーション:セ・ウン・パク
第2ヴァリエーション:シルヴィア・サン=マルタン
第3ヴァリエーション:オニール 八菜

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