ウクライナの森を舞台にした『森の詩』など代表作の見どころを並べた「スペシャル・セレクション2026」

ワールドレポート/大阪・名古屋

すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna

ウクライナ国立バレエ「スペシャル・セレクション2026」

『森の詩』第2幕より V.ヴロンスキー:振付ほか

いまだ戦禍のなかのキーウから寺田宜弘率いるウクライナ国立バレエが来日──ウクライナの森を舞台にした『森の詩』など代表作の見どころを並べた「スペシャル・セレクション2026」が開催された。

今も戦禍のなかにあるウクライナ、この国を代表するバレエ団が今年も来日した。現在の芸術監督が京都出身の日本人、寺田宜弘であることをご存じの方も多いだろう。7月23日に豊橋で幕を開け、2つのプログラムで全国17公演が行われる。2日目、24日にNHK大阪ホールで行われた公演を観た。
まず幕開けは『ゴパック』。一面のひまわりをバックに、ヴォロディミール・クツーゾフ、ダニール・シルキン、ヴォロディミール・タライコ、オレクシィ・ネステロフといった若手男性ダンサーたちがウクライナ舞踊の大技を次々と披露していく。暗い社会状況を忘れさせるように底抜けに明るく生き生きとした踊り。そして、男性の踊りが注目されることが多い演目だが、花をたくさんつけた女性ダンサーたちも登場してとても可愛らしく民族舞踊を披露してくれた。
続いては『ラ・シルフィード』第2幕よりパ・ド・ドゥ、アレクサンドラ・パンチェンコのウエストと胸元についたピンクのリボンがこのバレエ団らしく可愛らしい。自然に変化する表情に説得力があるのも良い。ダニール・パスチュークが若手らしいフレッシュな魅力を持ってアレグロのパを美しく見せてくれたのも良かった。
続いてのアンナ・イェリセーヴァとエフゲニー・ログヴィネンコによる『サタネラ』のグラン・パ・ド・ゥは芝居心がたっぷりだった。

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『ゴパック』
ヴォロディミール・クツーゾフ、ダニール・シルキン、ヴォロディミール・タライコ、オレクシィ・ネステロフ、ほか
撮影:古都栄二(テス大阪)

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『ラ・シルフィード』第2幕よりパ・ド・ドゥ
アレクサンドラ・パンチェンコ、ダニール・パスチューク
撮影:古都栄二(テス大阪)

そして、第1部の最後がウクライナの森を舞台にした作品『森の詩』第2幕より。私はこの作品の存在を有吉京子さんの漫画「SWAN」で初めて知った。1977年、当時、キエフ・バレエと呼ばれた現在のウクライナ国立バレエの来日公演でこの作品を観た有吉さんが深い感銘を受けて、漫画のなかに描いた。とても清らかな魅力のこの場面をイローナ・クラフチェンコとニキータ・スハルコフ中心に観せてくれた。コール・ド・バレエがスタイルの揃った美しいダンサーばかりだったのも印象に残った。ウクライナは美人の多い国と言われるが、なかでも美しい人達がバレエでさらに磨かれているような、良い若手たちが育っていることを実感した。

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『森の詩』第2幕より イローナ・クラフチェンコ、ニキータ・スハルコフ 撮影:古都栄二(テス大阪)

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『海賊』第2幕よりグラン・パ・ド・トロワ
メドーラ:エリーナ・ビドゥナ、
コンラッド:ヴォロディミール・クツーゾフ、アリ:ダニール・シルキン
撮影:古都栄二(テス大阪)

第2部は、『海賊』第2幕よりグラン・パ・ド・トロワで幕開け。アリのダニール・シルキンの力強く野性的な魅力、メドーラのエリーナ・ビドゥナの軽やかで鮮やかな踊り、コンラッドのヴォロディミール・クツーゾフの真面目さが滲み出る踊りを楽しんだ。『タリスマンのグラン・パ・ド・ドゥ』は、カテリーナ・ミクルーハとダニール・パスチューク。ミクルーハは、どうしてこんなに愛らしいのだろう、いつまでも観ていたくなる、パスチュークもこれからどんどん伸びそうな予感がする。

『瀕死の白鳥』はアナスタシア・シェフチェンコ。この社会状況のなかで、さまざまな人の悲哀を背負っているかのような白鳥、終始、ゾクゾクしながら観た。長身で、時に強さを感じさせる彼女から、どうしようもない無力感も伝わってきた。

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『タリスマンのグラン・パ・ド・ドゥ』
カテリーナ・ミクルーハ、ダニール・パスチューク
撮影:古都栄二(テス大阪)

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『瀕死の白鳥』
アナスタシア・シェフチェンコ
撮影:古都栄二(テス大阪)

そして、ラストは『ラ・バヤデール』第2幕より。ガムザッティ&ソロルは、イローナ・クラフチェンコ&ニキータ・スハルコフ。黄金の銅像はオレクシィ・シュヴィドキーで、さすがのバレエテクニックを披露。ただ、実際の全幕の時のように群舞等がいないなかなので、もう少し、振付をアレンジしても良かったかと感じる部分もあった。太鼓の踊りが、踊っているダンサーが一番楽しいのではないかと思える盛り上がりだったこと、パ・ダクシオンがやはり美しい若手たち、とさまざまな踊りの中で、マヌーの踊り(壺の踊り)はカテリーナ・デフチャローヴァが子役2人ともに。

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『ラ・バヤデール』第2幕より
マヌーの踊り(壺の踊り):カテリーナ・デフチャローヴァ、久冨蕗乃、堀田美桜
撮影:古都栄二(テス大阪)

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『ラ・バヤデール』第2幕より
ガムザッティ:イローナ・クラフチェンコ、ソロル:ニキータ・スハルコフ
撮影:古都栄二(テス大阪)

ウクライナ国立バレエ「子役プロジェクト」ということで、全国それぞれの会場の近隣でバレエを頑張っているジュニアが出演する機会が作られている。この大阪公演で踊ったのは芸術監督である寺田宜弘の両親が立ち上げた寺田バレエ・アートスクールで学ぶ、高校1年生の久冨蕗乃と中学3年生の堀田美桜。実は彼女たち二人は、昨年(2025年)のウクライナ国立バレエ公演でもこの役を踊っており2回目。昨年、彼女たちをこの役にと決めて指導したのは、寺田の母である高尾美智子だった。その後、2025年11月に高尾が他界、今回、その想いを胸に挑んだ。二人とも週に5レッスン、6レッスンしているということで、バレエに対してとても真剣。久冨は「この踊りはストーリー性があって、可愛いところもあって好き」、堀田は、いつも先生に「楽しく踊るのが一番大事」と言われていると言い、「踊っていて、とても楽しかった」と話す。
ウクライナでプロとして活躍していたがこの戦禍で帰国した川崎あかりが、今回、2人の指導を担った。「舞台が大きいので、どう大きく動くか」、また、「プロとの舞台で大きな作品の一部、物語が伝わるように」と考えて指導したということ。
本番では、少し緊張も見えたが、練習の成果が出たようだ。
寺田バレエ・アートスクールは、8月18日(火)にロームシアター京都サウスホールで、ニキータ・スハルコフ、カテリーナ・ミクルーハ、ヴォロディミール・クツーゾフの友情出演を得て、高尾美智子追悼公演を開催する予定だそうだ。「平和になったら、ウクライナに行きたい」と口を揃える久冨と堀田、1日も早くその日が訪れることを期待したい。
(2026年7月24日 NHK大阪ホール)

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ウクライナ国立バレエ「スペシャル・コレクション」フィナーレ 撮影:古都栄二(テス大阪)

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