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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2016.11.10]

初演30周年を記念した『ザ・カブキ』メモリアル・ガラ、継承されていくベジャールの貴重な遺産

東京バレエ団
『ザ・カブキ』モーリス・ベジャール:演出・振付

東京バレエ団が、モーリス・ベジャールが振付けた『ザ・カブキ』の初演30周年記念公演を行った。今年4月に亡くなったバレエ団の創設者・佐々木忠次の追悼公演を兼ねるものでもあった。『ザ・カブキ』は、ベジャールが同バレエ団の委嘱を受け、『仮名手本忠臣蔵』を下敷きに、黛敏郎の音楽を用い、歌舞伎の手法や日本舞踊の所作を採り入れてバレエ化したもので、テーマは「忠誠心」。日本の伝統文化に造詣の深いベジャールならではの視点が随所にうかがえる。
1986年の初演以来、パリやロンドン、ウィーンなどを含め、既に世界15カ国27都市で上演されたそうで、これは『ザ・カブキ』が世界的な評価を受けているという普遍性を示すものでもあろう。「新国立劇場に初見参!」とチラシで謳っていたが、東京バレエ団はこれまで同会場を避けてきた経緯があるだけに、感慨を覚えもした。この記念公演、当初は3回の予定だったが、「『ザ・カブキ』と佐々木忠次」と題したトークショーを付けた公演を〈メモリアル・ガラ〉として追加した。そのガラ公演を観た。

tokyo1611s_5518.jpg Photo Kiyonori Hasegawa tokyo1611s_5686.jpg Photo Kiyonori Hasegawa
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〈メモリアル・ガラ〉では、冒頭、佐々木忠次の子供時代や演劇を専攻した学生時代などの写真、バレエ界やオペラ界の著名なアーティストとの交流を伝える写真が映し出された。トークに登場したのは、この作品のアドバイザーとして所作指導に当たった日本舞踊の花柳壽應、初代由良之助を演じた夏山周久、初代おかるを踊った藤堂真子で、オペラ演出家の田口道子が司会を務めた。田口は、佐々木忠次はバレエによる歌舞伎の名場面集を考えていたが、ベジャールのほうから「それなら『忠臣蔵』を」と提案され、『ザ・カブキ』の誕生に繋がったというエピソードを披露。花柳は、歌舞伎の一つ一つの型や日本舞踊の所作を教えるよう求められたそうで、ベジャールのそばで、つぶさにその創作ぶりを見ていただけに、「ベジャールは単に『忠臣蔵』を翻案するのではなく、自身の日本への思いをバレエ化したかったのでしょう」と述べた。夏山は「討ち入りと切腹のシーンでは何とも言えない感動を覚えます」と、踊っていても感極まる名場面であることを強調。藤堂は「手ぬぐいの扱い方が不自然だと笑われ、玉三郎の『娘道成寺』のビデオを何度も見て練習しました。ベジャールを通じて、日本の文化を知ることができました」など、それぞれに思い出を語った。

『ザ・カブキ』は、若者たちがたむろする喧噪にみちた現代の東京で始まる。リーダーの青年がタイムスリップして、『仮名手本忠臣蔵』の世界に迷い込むまでがプロローグ。以下、「兜改め」「おかる、勘平」「殿中松の間」「判官切腹」「城明け渡し」「山崎街道」「一力茶屋」「雪の別れ」「討ち入り」と、9場で構成。青年が四十七士のリーダー、由良之助に入れ替わるのは、主君の塩冶判官から仇を討てと遺言を託された時で、それまでは戸惑いながら各場面に立ち会う傍観者にすぎない。『仮名手本忠臣蔵』を知らないと分かりにくい部分もあるが、厳粛な判官の切腹の場、義士たちが一斉に連判状に血判を押すシーン、赤褌の義士たちが整然と登場するシーン、クライマックスの討ち入りと朝日を背にした切腹シーンなど、印象に残る場面に事欠かない。すり足や腰を落とした姿勢、白塗りの顔や独創的な着物の扱い方、バック全体を覆う「いろは四十七文字」の幕、遊女おかるを人形のように操り踊らせるといった黒子の活用などは、とりわけ海外で目を引いたに違いない。

tokyo1611s_6443.jpg Photo Kiyonori Hasegawa

主役の由良之助を演じたのは柄本弾。強靱なパワーと精神力が求められる難しい役だが、踊りこんでいるだけに自身を巧みにコントロールしていたようだ。「判官切腹」で由良之助に切り替わるあたりから徐々に存在感を増し、主君の無念さを思いやるような踊りに始まり、連判状や勘平の切腹の後での、仇討ちの決意を強めていくソロでは、猛々しく舞台を駆け巡り、宙を切るようにジャンプしと、場面毎にヴォルテージをあげていった。これで、酒色にふけってみせる演技や遊女おかるを思いやる気持ちなどがもっとしなやかに出せればと思う。顔世御前の上野水香も、この役を何度も演じている。「兜改め」では脚を高く上げ、身体をたおやかにしならせ、感情を表さずに優雅に舞ってみせた。純白の総タイツで由良之助に仇討ちを促すデュエットでは、怒りといらだちを爆発させるように脚を高く振り上げる様に凄みさえ感じた。それだけに、失望して去る姿が哀れで切なく映った。

刃傷の場では、師直の木村和夫と判官の岸本秀雄が日舞の所作を誇張した振りを巧みにこなし、師直の家臣・伴内の岡崎隼也はオーバーな演技で憎々しさを表出し、団長の飯田宗孝が定九郎役で健在ぶりを示し、おかるの川島麻実子は艶やかな踊りをみせるなど、脇役陣もそろっていた。所作にぎこちなさを残したダンサーもいたが、場数を踏めば馴染んでいくだろう。会場が中劇場だったので、「討ち入り」などでは舞台が手狭な感じもしたが、両サイドから走り入る四十七士が逆三角形に隊列を組む場面はいつも通り見事に決まり、本懐を遂げて切腹するまで一気に進んだ。ベジャールの意図した「忠誠心」が浮き彫りになる清々しいラストだった。『ザ・カブキ』はベジャールの貴重な遺産として、これからも上演され続けていくだろう。花柳は、形だけでなく、どう心を表現していくかを伝えることが大事だと語っていたが、特に若いダンサーには、“ベジャールの心”に触れ、作品の真髄を継承していって欲しいと思う。
(2016年10月13日 新国立劇場中劇場)

tokyo1611s_6679.jpg Photo Kiyonori Hasegawa