東京バレエ団による『白鳥の湖』『ロミオとジュリエット』全幕公演と《Pas de Trois-バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲》

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

東京バレエ団が、ゴールデンウイーク恒例のイベント〈上野の森バレエホリディ2024〉でブルメイステル版『白鳥の湖』を上演し、続けて5月末から6月にかけてクランコ版『ロミオとジュリエット』の再演に臨む。今年8月の創立60周年に向けて、全幕物の大作に相次いで取り組んでいる東京バレエ団のパワーはさすが。それぞれの公演の紹介の前に、バレエ団のダンサーの栄誉ある賞の受賞が相次いでいるので、それを先に記しておきたい。

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2023年「ジゼル」 © Koujiro Yoshikawa

プリンシパル昇進後の躍進が目覚ましい秋山瑛が、令和5年度の芸術選奨舞踊部門で文部科学大臣新人賞を受賞した。古典から近・現代にわたるバレエ団のレパートリーを次々に踊り、正確な技術と鋭敏な感性で観客の心を捉えてきたことや、『ジゼル』や『眠れる森の美女』での成果に加え、金森穣の新作『かぐや姫』では「自ら創造に関わりつつ表現を紡ぐ新たな領域に挑み、主人公の孤独と神秘性をしなやかな動きで可視化」したとして、「輝きを増す表現は更なる飛躍を期待させる」と評された。秋山は、『白鳥の湖』で第1幕のパ・ド・カトルと第3幕のナポリのソリストを踊り、『ロミオとジュリエット』ではジュリエットを務める。

トップ・プリンシパルの柄本弾は、第36回服部智恵子賞(日本バレエ協会制定)を受賞した。年間に於いて、最も顕著な活躍をみせた舞踊家に授与される賞である。授賞理由は、コロナ禍のなか、首都圏のみならず全国各地、さらにオーストラリアなど海外にも活躍の場を広げている東京バレエ団のプリンシパルダンサーとして、「古典、ベジャールなどの現代作品、さらに金森穣の新作『かぐや姫』など、ほとんどすべての作品に主演し、的確な理解力と高い安定感で作品を支え、バレエ団の活動に貢献した」というもの。柄本は、『白鳥の湖』でジークフリート王子を、『ロミオとジュリエット』でロミオを踊る。

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2022年「ロミオとジュリエット」© Shoko Matsuhashi

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2023年〈上野水香オン・ステージ〉より「ボレロ」© Shoko Matsuhashi

また、ゲスト・プリンシパルとして活躍の場を広げている上野水香は、第72回舞踊芸術賞(東京新聞制定)を受賞した。同賞は「各舞踊部門において、近年最も顕著な功績を挙げている舞踊家、あるいは技術いよいよ円熟の境地に達した舞踊家」に贈られる。受賞理由は、「古典から現代作品までを踊りこなして観客に強くアピール、国際的にも高く評価されてわが国のバレリーナのイメージを変えた」というもの。彼女は既に2022年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、2023年秋に紫綬褒章を受章している。上野は〈上野の森バレエホリデイ2024〉で《Pas de Trois》という特別企画に出演する。

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© Kiyonori Hasegawa

さて、〈上野の森バレエホリデイ2024〉。芸術の殿堂、上野の東京文化会館を会場に、バレエ公演のほか、ゲネプロの見学会や公開レッスン、バックステージツアー、トークイベント、ワークショップなど、多彩な催しを通してバレエと出会い、親しんでもらおうというイベントで、今年は4月26日から29日にかけて開催される。バレエ公演は、最初に書いたようにブルメイステル版『白鳥の湖』。悪魔ロットバルトがオデットを白鳥に変えるプロローグと、悪魔が滅び、ジークフリート王子とオデットが結ばれるエピローグ付きで、ドラマティックに繰り広げられる第3幕の舞踏会が最大の見どころになっている。公演は4回で、主役はトリプル・キャスト。既に評価を得ている沖香菜子と宮川新大のペアのほか、新進の榊優美枝とベテランの柄本弾のペア、中島映理子と生方隆之介のフレッシュ・ペアが主演する。東京バレエ団の群舞は高い評価を得ているだけに、白鳥たちの幻想的な群舞も楽しみたい。なお、この公演にちなんで、親子で楽しむGWファミリー公演として、〈はじめての「白鳥の湖」~楽しいお話と第3幕~〉が上演される。クラシック・バレエの代名詞ともいわれる『白鳥の湖』だが、バレエ初心者にとっては約3時間という上演時間は長すぎるかも知れない。そこで、ブルメイステル版『白鳥の湖』からドラマティックな演出が特徴の第3幕を中心に、お話付きで楽しんでもらおうという企画。上演時間は約1時間。こちらは2回公演で、主役は榊&柄本、中島&生方のダブル・キャスト。

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© Kiyonori Hasegawa

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© Yuji Namba

今年の〈上野の森バレエホリデイ〉で注目されるのは、《Pas de Trois-バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲》と題した小ホールでの特別公演。ゲスト・プリンシパルの上野水香と、フィギュアスケート元日本代表の町田樹と、東京バレエ団の元プリンシパルで特別団員の高岸直樹の三人による、映像も交えたスペシャル・パフォーマンスである。コロナ禍の2020年、配信で行われた〈上野の森バレエホリデイ〉の一環として実現した上野と町田による異色のクロストークは、大きな反響を呼んだ。これを発展させ、斬新な形で創り上げたのが今回の企画。「敬愛と献呈」をテーマに、作曲家や演奏家への敬愛、それに捧げる舞踊だという。全体は「生きる歓び」「フレデリク」「献呈」の3部構成で、シューマンやショパンなど主にロマン派の作曲家のピアノ曲が用いられる。三人の共演で始まり、町田の振付を上野と高岸がそれぞれ踊り、高岸の振付を町田が踊るほか、高岸と町田の共演もあるという。間に町田のフィギュアスケートの映像上映も入り、さらに地上と氷上の舞踊の交錯を試みるというから、どのような舞台になるか期待がふくらむ。

もう一つの全幕バレエ『ロミオとジュリエット』は、シェイクスピアの戯曲を基に、物語バレエの巨匠と謳われるジョン・クランコが振付けた傑作である。東京バレエ団による初演は2022年で、今回は好評に応えての再演。モンタギュー家とキャピュレット家の対立を背景に、若い男女の燃えあがる恋が描かれるが、舞踏会での出会い、バルコニーでの愛の確認、寝室での別れ、墓室での悲劇的な最期と、それぞれの場面のパ・ド・ドゥだけでも味わい深い。ロミオと友人のマキューシオたちとの快活なやりとりも楽しいが、市場での活気にみちた街の人々の様子や、敵対する両家の抗争、荘厳な舞踏会、カーニバルの民衆の賑わいなど、多彩で迫力ある群舞も見応え十分。台詞がなくても、動きや演技で会話のように語らせるのも、クランコ版の優れた特徴だろう。6回公演で、主役を務めるのは、沖香菜子&柄本弾をはじめ、秋山瑛&大塚卓、足立真里亜&池本祥真の3組。このうち、初役となるのは大塚だけである。再演により舞台がどう深化するか、期待したい。

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© Shoko Matsuhashi

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© Shoko Matsuhashi

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