英国ロイヤル・バレエ、マリインスキー・バレエのスターダンサーと日本のダンサーの競演が楽しみな「NHKバレエの饗宴 2024」

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

今年も間もなく「NHKバレエの饗宴 2024」が開催される。毎回、時めくダンサーたちと日本のバレエ・カンパニーを一堂に集めて華やかに展開するガラ・コンサートである。前回は2022年8月に行われ、多くの人気ダンサーたちが踊り、舞台も客席も盛況だった。
今回も英国ロイヤル・バレエのトップスター、金子扶生、ワディム・ムンタギロフ、マリインスキー・バレエのファースト・ソリストのペアの永久メイとフィリップ・スチョーピン、新国立劇場バレエ団からは、プリンシパルの米沢唯と昨年プリンシパルに昇進した速水渉悟、東京シティ・バレエ団からは男女各5名のダンサーが踊り、中村祥子、小㞍健太も出演する。

金子とムンタギロフが踊る『くるみ割り人形』からグラン・パ・ド・ドゥは、英国ロイヤル・バレエのピータ・ライト版で、原作のE.T.A.ホフマンの世界と少女クララの成長していく姿が優しく美しく描かれている。今年2月にはアナ・ローズ・オサリヴァンとマルセリーノ・サンべ主演の全幕映像が映画館で上映される。永久メイとスチョーピンは『眠りの森の美女』からグラン・パ・ド・ドゥを踊る。こちらはマリインスキー・シアターの定番で豪華華麗なコンスタンチン・セルゲイエフ版。また、米沢唯と速水渉悟が主演する新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』第3幕は、アレクセイ・ファジェーチェフ版。これはプティパの振付の原典を尊重するヴァージョンで、明快で分かりやすい物語展開になっている。
さらに東京シティ・バレエ団は、イリ・プペニチェク振付の『L'heure bleue(ルール・ブルー)』(音楽はバッハほか)を踊る。これは2016年に東京シティ・バレエ団が日本初演を果たしている。もともとイリ・ブベニチェクは、ジョン・ノイマイヤーのハンブルク・バレエ団で踊っていたことからか、独特の美しいヴィジュアルを作ることが上手い。この作品でも黒い大きなフレームやバロック調のデフォルメされた衣裳、赤い薔薇の花、サーベルなどを使って不思議感のある魅力的な雰囲気を作っている。ステップを多用して表現するシーンはあまり見かけないが、ダンサーの全身を大きく極端に動かしユーモラスで雄弁な表現によって彼独自の世界を展開する振付家である。
前回は平山素子振付の『牧神の午後への前奏曲』を踊った小㞍健太が、中村祥子(Kバレエ トウキョウ名誉プリンシパル)と彼自身が振付けた『幻灯』(改訂版)を踊る。この作品は2013年に4名の20代のダンサーが踊ったもので、「クラシックバレエとコンテンポラリーダンスの技術だけでなく身体感覚から得る表現の可能性を、ダンサーたちの共演という実践的な手法で影響を受け合いながら見出していくことを試みた」もの。今回は中村祥子と小尻健太という40代のダンサーによるデュエットに改訂している。中村祥子のポワントワークのパートも入っているという。音楽はマックス・リヒター。

演目構成としては日本人と外国人ダンサーの二組のペアが『くるみ割り人形』と『眠りの森の美女』という二曲のクラシック・バレエのグラン・パ・ド・ドゥを踊り、日本の二つのバレエ・カンパニーがクラシックとネオ・クラシック作品を踊る。そして日本人によるコンテンポラリー・ダンスを最前線のダンサーが、経験豊かなバレリーナと踊る、というなかなかバランスが良くとれたプログラムである。ダンサーも安定感のあるメンバーであり、若干、目新しさがなくもないが、順当な選出と言えるだろう。ただ、できれば東京以外のカンパニーにも目を向けて欲しい、とも思った。

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永久メイ
©YUMIKO INOUE

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ワディム・ムンタギロフ
©Daria Klimentova

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金子扶生
©Lara Cappelli

NHKバレエの饗宴 2024
https://www.nhk-p.co.jp/ballet/

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