小池京介が王子を踊って主役デビューを果たした牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団

『くるみ割り人形』三谷恭三:演出・改訂振付(プティパ、イワノフ版による)

牧阿佐美バレヱ団が、青山季可(金平糖の精)/清瀧千晴(王子)/西山珠里(雪の女王)、阿部裕恵/水井駿介/三宅里奈、上中穂香/小池京介/高橋万由梨というトリプルキャストを組んで三谷恭三版『くるみ割り人形』を12月16日、17日に3公演上演した。去る2021年12月に開催されたこの『くるみ割り人形』公演は、牧阿佐美が逝去した後にカンパニーが主催した最初の公演だった。牧阿佐美の日本のバレエへの献身に共感し、追悼の心を胸におさめた多くのバレエ・ファンが、会場のメルパルクホールに集まり客席が超満員に膨れ上がり熱気の満ちた公演だったことを思い起こす。
今回の公演では、「プロを目指すダンサーのための」少数精鋭のマスタークラスとしてバレエ教育を行う、<牧阿佐美バレエ塾>の出身者が主役を務めるキャストが組まれた。牧阿佐美のバレエ教育への理念によって育てられたダンサーたちが、巣立っていく舞台となったのである。
私はバレエ塾出身の小池京介(王子)がデビューし、上中穂香(金米糖の精・牧阿佐美バレエ塾卒業)と高橋万由梨(雪の女王・牧阿佐美バレエ塾卒業)が主役を踊った、12月17日15時30分からの舞台を観ることができた。クララは今福麗聖、ドロッセルマイヤーは菊地研。
作品の内容はDance Cube2022年1月11日更新のワールド・レポートに記しているので、ここでは詳しくは述べないが、チャイコフスキーの音楽の楽想を尊重したイワノフ版の系譜に連なる振付だ。2幕では8人の可愛らしいパティシエが登場することで知られている。

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小池京介 撮影:鹿摩隆司

小池京介は牧阿佐美バレエ塾をスカラシップ生として卒業。2019年にはスリーピング・ビューティー全日本バレエコンクール ダンスール・ノーブル賞受賞している。昨年7月の『三銃士』でアラミスを踊る予定だったが怪我のため出演できなかった。
小池京介の王子はおとなしく優しげな雰囲気を漂わして全幕の舞台を踊った。ケレンのない穏やかな踊り方で、舞台姿を優雅に見せようと工夫していたことが感じられた。均整のとれた見事なプロポーションが王子の役柄にも良く映えていた。物語バレエを主演するダンサーは、当然のことながら、すべてキレキレに踊れば良い、というものではない。物語をわかりやすく伝え、全体で観客に心にどのようなインパクトを与えるか、が大切。小池京介は緊張しつつも落ち着いて『くるみ割り人形』の王子の心の輪郭をかなりはっきりと表していた。金平糖の精を明快な表現で表した上中穂香とのグラン・パ・ド・ドゥもややたどたどしい部分も見られなくはなかったが、爽やかな印象も残すものだった。
プロポーションが良いというのは、ダンサーにとって大いに有利だが、当然ながらそれだけでは表現は作れない。自身でその利点を良く理解し、指先にいたるまで細やかにコントロールし、そこに役柄の心を表して表現を作らなければならない。名ダンサーとして舞踊史上に名を残す、ミハイル・バリシニコフは特段に身体のプロポーションが美しかったわけではない。活躍した時代の時代性はそれぞれ異なるが、ルドルフ・ヌレエフやヴァスラフ・ニジンスキーだって、特別に身体そのものが美しかったわけではないだろう。しかし、その身体から発せられた魂は光り輝き、同時代の観客の心を揺さぶったのである。
デヴィッド・ウォーカーの美術は、プロローグからドイツの家庭のクリスマスの雰囲気をうまく醸していた。指揮=デヴィッド・ガルフォース、管弦楽=東京オーケストラMIRAI。
(2023年12月17日15時30分 文京シビックホール 大ホール)

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高橋万由梨 撮影:鹿摩隆司

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上中穂香、小池京介 撮影:鹿摩隆司

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