ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.10.11]

濃厚なゴシック・ロマンの世界で展開する、マシュー・ボーンによるチャイコフスキーの『眠れる森の美女』

ニュー・アドヴェンチャーズ
『眠れる森の美女』マシュー・ボーン;演出・振付

アダム・クーパーが主演した『白鳥の湖』の世界的な大ヒットで、一躍、ダンス界の寵児となったマシュー・ボーン。その後も『くるみ割り人形』『愛と幻想のシルフィード』『シンデレラ』『マイ・フェア・レディ』『シザー・ハンズ』『ドリアン・グレイの肖像』などを作り、日本でも多くの作品が上演されている。マシュー・ボーンはそうした数々の功績により、2001年には英国王室よりOBEを、今年はナイトの称号を叙勲されている。
そして今回は、マシュー・ボーンの2012年の作品『眠れる森の美女』が、新装なったシアター オーブで上演された。この『眠れる森の美女』の完成により、チャイコフスキーの3大バレエをすべてマシュー・ボーンの世界へと改変したことになる。

tokyo1610c_01.jpg Photo by Johan Persson

『白鳥の湖』では、イギリス王室を、『くるみ割り人形』では孤児院を舞台にしたが、『眠れる森の美女』はゴシックロマンの世界に物語を転移し、刺激的なダンス作品に仕上げている。
ストーリー展開には少し手を加え、子宝に恵まれなかった王と王妃は闇の妖精カラボスの力を借りて、オーロラ姫を得るが、あまり感謝しなかったので深い怒りを買う、というオープニング(1890年、ビクトリア朝後期)だ。そしてオーロラ姫が、通過儀礼をへて成人となり(1911年、エドワード朝)、恋をして結婚するまで(2011年、現代)、を3つの時代背景を設定して描いている。登場人物のキャラクターもオーロラ姫の出自は不明で、山野を駆け巡る60年代に活躍したヤンキー娘のよう、恋人は王子ではなく狩猟番のレオ。闇の妖精、カラボスはオーロラ姫が目覚める100年後には既に生きておらず、息子のカラドックが母の怨みを晴らそうとする。リラの精は妖精王のライラック伯爵として物語の要所に登場し、時にはヴァンパィアとなって、レオに噛みつき永遠の生命を付与する。
3つの時代ごとに衣装と動きも作られていて、いつもマシュー・ボーンと組んでいる美術・衣装担当のレズ・ブラザーストーンは、3作分の仕事をしたことになった。動きもそれぞれの時代に合わせて、イサドラ・ダンカンの自由なダンスとか、カッスル夫妻などの当時のアメリカのダンスなどを意識したものにした、という。しかし、全体にはマシュー・ボーン独特のスピード感のある大仰な動きのインパクトが強く、あまり際立った印象はなかった。
また、ローズアダージオには、若い男性が愛が実ることを願って薔薇の蕾を好きな女性に贈る、という意味が籠められているそうだ。演出の中でこの薔薇の蕾を象徴的に使っていたが、これはゴシック・ロマンの世界とマッチして効果的だった。
オーロラ姫は溌剌とした元気いっぱいの明るい姫で、レオとは、ブロードウェイの青春ミュージカルのように活発に踊った。全体にゴシック調のおどろおどろしげな雰囲気の中では、若い恋人たちの活力が魅力的に輝いた。こうしたかつて花開いた活き活きとしたエネルギーを、今日の作品の中で見事に蘇らせる力は、マシュー・ボーンの最も得意とするところであり、貴重な才能である。

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Photos by Johan Persson

日本公演の初日にオーロラ姫を踊ったのはバーミンガム・ロイヤル・バレエ・スクール出身のアシュリー・ショー。狩猟番・レオはドミニク・ノース、妖精の王・ライラック伯爵はクリストファー・マーニー、闇の妖精・カラボス/カラドックはアダム・マスケル。Dance Cubeで「私の踊りある記」を連載している友谷真実さんが、オーロラ姫の乳母・マドックス役で出演。落ち着いて好演していた。また、ランベール・スクール出身の日本人ダンサー、鎌田真梨も他日公演でオーロラ姫を踊っている。
(2016年9月14日 東急シアターオーブ)

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tokyo1610c_15.jpg Matthew Bourne's SLEEPING BEAUTY.  Photos by Johan Persson