ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.10.11]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
最近、バレエ映画のことを少し調べていて気が付いた。1970年代、80年代のバレエ映画の主役はバレエダンサーのスーパースターだった。ミハイル・バリシニコフの『愛と喝采の日々』、ジョルジュ・ドン『愛と哀しみのボレロ』あるいはルドルフ・ヌレエフの「ヌレエフ I AM A DANCER」、マイヤ・プリセツカヤの『カルメン』・・・・。ところが近年になると『リトル・ダンサー』『センターステージ』『ステップ・アップ(Step Up)』『小さな村の小さなダンサー』『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』『バレエボーイズ』といった無名のダンサーたちを主役に据えたバレエ映画がヒットしている。もちろん、『オーレリ・デュポン 輝ける一瞬に』『ロパートキナ 孤高の白鳥』といったスパースターを取り上げた映画も公開されているが、あまりヒットしたという話も聞かない。
20世紀に続出したバレエダンサーのスパースターたちは、一つのカンパニーの枠に収まりきらなかった。自身でプロデュースしたり、自分を生かすカンパニーを積極的に求めて活動していた。近年はダンサーの大きな移動の話もあまり聞かない。ほとんどのダンサーがカンパニーの枠の中で満足しているようだ。改めて20世紀は、バレエダンサーのスパースターの時代だったのだ、と認識させられた。

美しい音楽と心地よいリズムを刻むダンス、吉田都と堀内元によるBallet for the Futureが開催された

吉田都×堀内元 Ballet for the Future 2016
『Vivaldi Double Cello Concerto』堀内元:振付、『Bloom』ブライアン・イーノス:振付、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』ジョージ・バランシン:振付、『More Morra』堀内元:振付、『Romantique』堀内元:振付

昨年8月の東京、金沢公演に続いて今年も「Ballet for the Future 2016」が開催された。金沢は昨年と同様に本多の森ホールだったが、東京は東京文化会館に舞台を移して行われた。今回は吉田都、堀内元に加えて新国立劇場バレエ団から米沢唯、奥村康祐、寺田亜沙子、さらにロサンゼルス・バレエのゲストプリンシパルの清水健太、ワシントン・バレエから木村綾乃、堀内元が芸術監督を務めるセントルイス・バレエから森ティファニーらを招いた。「優れたバレエ芸術を次世代へ」というコンセプトによる公演に相応しいダンサー構成である。

tokyo1610a00.jpg 『Romantique』撮影:瀬戸秀美(すべて)

『Vivaldi Double Cello Concerto』で開幕した。ボディに赤をあしらった4人と同様に濃い紫を配した4人がクラシック・チュチュを着け、白い衣装の男性4人の計12人のダンサーが、様々に組み合わせを作りながら踊る。ヨーヨー・マの演奏によるヴィヴァルディの曲の微かなバロックの香りと、クラシック・チュチュを着けたダンサーのスタッカートな動きが見事にマッチして魅力的。静かに情感が昂まってくる、清潔感のあるダンスだった。
『Bloom』は、ヒューストン・バレエの芸術監督ベン・スティーブンソンの下で振付を始めたブライアン・イーノスが、2014年にセントルイス・バレエのために振付けたダンス。音楽はクリストファー・ウィールドンの『不思議の国のアリス』などの曲も手がけているジョビー・タルボットで、シンプルな構成だが、時にちょっと可愛い音も聴かせる変化に富んだ曲だ。8人の女性は黒い衣装、6人の男性はサスペンダー付きのパンツで踊るが、メインパートの森ティファニーと上村崇人だけがスカートと肩にそれぞれ赤いアクセントを付けている。様々な変化の中で、この二人の出会いが踊られた。音楽の独特の音の間合いと動きの間合いが、微妙に重なったり離れたりして不思議な雰囲気を醸していた。

tokyo1610a01.jpg 『Bloom』 撮影:瀬戸秀美 tokyo1610a02.jpg 『Bloom』 撮影:瀬戸秀美
tokyo1610a03.jpg 『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』撮影:瀬戸秀美

バランシン振付、チャイコフスキー音楽による『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』は、米沢唯と奥村康祐が見事に踊った。音楽性を一から捉えなおしたようにも見え、身体から溢れでるリズムで、音楽をさらに引き立てるかのようなスピード感で一気に踊りきった。過剰な情感が現れる余地のない、バランシンが望んだと思われる洗練された踊りだった。
『More Morra』は、セントルイス・バレエの常任音楽家ジョー・モッラの曲に堀内元が振付けた。堀内がモッラの曲を使うのは3回目になるという。パーカッションを巧みに使って、独特の軽快なリズムを刻む。黒い衣装の男性ダンサーと女性ダンサーが次々と登場して、それぞれペアを組み、ペアによる集合ダンスとなる。中心は寺田亜沙子と清水健太のペア。スポットライトを浴びてソロヴァリエーションも挿入される。さらに兵士の進軍を思わせるテンポの良いリズミカルな踊りが展開するが、時折、照明弾が落とされたかのように明るいフラッシュな光りが輝き、爆発音が轟く。ダンスの流れるようなリズミカルな展開に、別次元の光りと音響がランダムに重ねられ今日的な断絶感が感じられたダンスだった。

tokyo1610a04.jpg 『More Morra』撮影:瀬戸秀美 tokyo1610a05.jpg 『More Morra』撮影:瀬戸秀美

休憩の後、『Romantique』が始まった。これはクロード・ボリングの曲を使って、ある男性が一人の女性へ寄せる想いを表したダンス。堀内元が振付けた。クロード・ボリングは南フランス出身のジャズピアニスト、作曲家、バンドリーダー。バロックからクラシック、ジャズなどが、次々展開していく。まず堀内元がショートパンツに黒いソックス姿で現れ、ややあって白いドレスの吉田都が上手奥に登場。この二人の間に現れたり消えたりする様々な感情を、男性と女性ダンサーによって表している。吉田都の身体が優雅な表情を表し、堀内元の敏捷な動きがバランスよく共振する。音楽とダンスが変幻しつつ融合し、心地よいスピード感が生まれる爽快な舞台だった。
(2016年8月31日 東京文化会館)

tokyo1610a08.jpg 『Romantique』撮影:瀬戸秀美 tokyo1610a09.jpg 吉田都、堀内元 撮影:瀬戸秀美