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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.09.12]

今年も様々な国からバレエダンサーが集って、様々なスタイルのバレエを踊った、バレエ・アステラス公演

「バレエ・アステラス 2016〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜」
新国立劇場バレエ研修所

海外のバレエ団で活躍する日本人若手ダンサーを応援する、という趣旨で毎年多くのダンサーが里帰りする夏季に開催されているバレエ・アステラスは、今年、7回目を迎えた。実際、海外のカンパニーで踊っている日本人ダンサーは多い。おそらく日本人が所属するカンパニーの数は、ロシア人と競っても世界1ではないか、そう感じるくらいどの地域でも日本人ダンサーは踊っている。

tokyo1609d_0280.jpg 『葉は色褪せて』 パ・ド・ドゥ
撮影:瀬戸秀美(すべて)

バレエ・アステラス 2016は、牧阿佐美振付、シャルル・グノー音楽の『ワルツ』が幕開きだった。オペラ『シバの女王』のバレエシーンを新国立劇場バレエ研修所の研修生たち(第12・13期研修生・予科生)が踊った。
オープニングに続いて、ブルノンヴィル・スタイルの継承を一つの目標としている井上バレエ団の阿部真央と源小織が、デュッセルドルフ歌劇場・デュイスブルク歌劇場バレエ団ソリストの中ノ目智章とともに、オーギュスト・ブルノヴィルの『コンセルヴァトワール』のパ・ド・トロワを踊った。これは現在も踊られるているダンシング・スクールのシーン。音楽はH.S.パウリ。ブルノンヴィルはかつて自身が学んだヴェストリス時代のパリ・オペラ座バレエ学校のクラスを偲び振付けた、と解説されていた。
続いてプティパ振付、ドリゴ音楽の『タリスマン』パ・ド・ドゥを、クレムリン・バレエのプリンシパル・ペア、小池沙織とモトゥゾフ・イェゴールが踊った。小池はペルミ・バレエ学校を卒業後ロシアで踊り、クレムリン・バレエに外国人で初めてソリストとして入団し、14年にプリンシパルに昇格した。永遠の命を守る護符(タリスマン)よりも地上の愛を得た喜びを表す踊りだ。
NBAバレエ団のソリスト、岡田亜弓とプリンシパルの大森康正は、チューダー振付、ドヴォルザーク音楽の『葉は色褪せて』パ・ド・ドゥ。晩夏のかつては幸せにあふれていた場所。思い出を胸に秘め、ドヴォルザークの情感溢れる曲で踊る。時の流れの中に自然の情景と感情の起伏が様々な想いを描いていく。チューダーの晩年の傑作。

tokyo1609d_0387.jpg 『白鳥の湖』黒鳥のパ・ド・ドゥ

リアム・スカーレット振付、プーランク曲の『アスフォデルの花畑』よりは、ポーランド国立歌劇場バレエ団の海老原由佳とダヴィッド・チェンツェミエッ ク。プリンシパルのペアである。海老原はノルウェー国立劇場バレエなどで踊った後、ポーランド国立歌劇場バレエに入団、13年にプリンシパルに昇格した。スカーレットらしい抒情性をたたえた振付だが、コンテンポラリーな感覚の美しさを表す動きで構成されている。
第一部の最後は、新国立劇場バレエ団のソリスト同士、木村優里と渡邊峻郁が『白鳥の湖』黒鳥のパ・ド・ドゥを踊った。木村優里は新国立劇場バレエ研修所出身で15年に入団した若手のホープ。5月には『ドン・キホーテ』のキトリを踊って会場を沸かせた。臆することなく大胆に大きく動きをピタリと止めて見事に決める。ラインも大きくくっきりと描いて、しっかりと見せる。表情も明快だか、情緒に流されるところがない。観客の共感も得られているので、これからが多いに楽しみなダンサーである。渡邊峻郁は、モナコのベゾブラゾワに師事したのちカデル・ベラルビがディレクターを務めるキャピトル・バレエ団でソリスト。16年に新国立劇場バレエ団にソリストとして入団した。

tokyo1609d_01.jpg 『ワルツ』 tokyo1609d_0787.jpg 『コンセルヴァトワール』
tokyo1609d_0864.jpg 『タリスマン』 tokyo1609d_0990.jpg 『アスフォデルの花畑』より 

第二部は、新井誉久とアナイス・ブエノが『ロミオとジュリエット』バルコニーのパ・ド・ドゥを踊って始まった。ともにジョフリー・バレエ団のリーディングダンサーである。ブエノはメキシコ出身、YAGPで、スカラシップを得てクランコ・バレエスクールに進み、シュツットガルト・バレエやボストン・バレエで踊っている。振付は、オランダ国立バレエ団のレジデント・コレオグラファー、K.パストー。マクミラン版のような初々しく恥じらうジュリエットではなく、明るく元気の良い青春真っ盛りの女性。中世のヴェローナではなく、今日もどこかのキャンパスで手を振っていてもおかしくない印象だった。しかし、しっかりと青春の誓いを結ぶかのような愛を表現していた。新井はノーザン・バレエ、タルサ・バレエを経てジョフリー・バレエに入団した。振付の趣旨を踏まえて、ロミオの若々しさを表す動きが良かった。
続いて『海賊』第一幕の奴隷のパ・ド・ドゥをベラルーシ国立ボリシヨンイ劇場の浦邊玖莉夢とプリンシパルの待山貴俊が踊った。一目で海賊と分かるロシア的な衣装が印象的で、ランディゲム役の脚の部分が真っ赤のパンツは強烈だった。グルナーラを踊った浦邊はベラルーシ国立バレエ学校から同国のボリショイ・バレエ団い入団した。新シーズンからはソリストに昇格することが決まっているそうだ。クロアチア国立劇場第1ソリストの鈴木里衣香は、アウグスブルグ・バレエ団ソリストのタマシュ・ダライと『アンナ・カレーニナ』よりを踊った。振付はベジャールのルードラ出身で、クロアチア、スロベニア、ベルリンなどを中心に活動しているフリーの振付家、L. ムイチ。音楽はチャイコフスキー。貴族の人妻で一児の母、アンナ・カレーニナに恋した男が、別れに耐えかねて自殺するシーンが踊られた。鈴木はワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業後、イスラエル・バレエ団を経てクロアチア国立劇場に入った。

tokyo1609d_0472.jpg 『ロミオとジュリエット』 tokyo1609d_0603.jpg 『ジゼル』

サンフランシスコ・バレエ団のソリスト、石原古都とプリンシパルのヴァイトア・ルイズは『ジゼル』第2幕のパ・ド・ドゥを踊った。振付はヘルギ・トマソンだった。石原はサンフランシスコ・バレエスクールから研修生として入団し、14年にソリストに昇格した。ポーソホフ振付の『RAKU』で初めての主役を踊った。ルイズはブラジル出身、バーミンガム・ロイヤル・バレエなどを経てサンフランシスコ・バレエに入団している。
最後はワシントン・バレエの宮崎たま子とアンディーレ・ンドルフの『海賊』第2幕のパ・ド・ドゥ。宮崎はYAGP1位、ジャクソン国際バレエコンクール銀賞など輝かしい経歴を持つ。13年にワシントン・バレに入団し、日本バレエ協会のゲストそしても招かれている。ンドルフは南アフリカのヨハネスブルク出身、南アフリカダンストラストがプロデュースした『アフリカのスパルタカス』で主役を務めた。
フィナーレは、グラズノフ作曲の「バレエの情景」にのって全員が再び登場し、喝采を浴びた。
今回というか近年の傾向だが、今までバレエ団としては比較的馴染みの薄かったクロアチアやベラルーシ、ポーランドなど国々からの参加もあって、演目にも日本ではあまり見かけない振付家の名前も見られ非常に興味深かった。バレエの文化も様々な国や地域と交流を深めていくと、また新しい局面も見えてくるかもしれない。そうした傾向が一番よく現れるのは、このバレエ・アステラス公演かもしれない。
(2016年7月31日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1609d_0513.jpg 『海賊』 奴隷のパ・ド・ドゥ tokyo1609d_0566.jpg 『アンナ・カレーニナ』より tokyo1609d_0658.jpg 『海賊』第2幕
撮影:瀬戸秀美(すべて)