ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.06.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
去る4月30日、オペラ、バレエのプロデューサーで日本舞台芸術振興会/東京バレエ団代表を務められた佐々木忠次氏が逝去された。そして、この12日には「佐々木忠次・お別れの会」が行われる。
バレエ界だけでもアンソニー・ダウエル、オーレリー・デュポン、シルヴィ・ギエム、ウラジーミル・マラーホフ、ジル・ロマンなどを始めとする世界的なアーティストたちから陸続と追悼メッセージが寄せられている。今さら私が書くこともないのだが、この場を借りて少しだけ個人的思い出を書かせていただく。
私はダンスマガジンを創刊した頃から、取材の折りなどにお話をさせていただく機会があったが、そんな時には舞踊界の豊富な経験を持つ先達として、しばしば貴重なアドヴァイスをいただいた。特に印象に残っているのは、佐々木氏が製作に力を尽くしたモーリス・ベジャール振付の『ザ・カブキ』のパリ・オペラ座初演(1986年)の時のこと。開幕の時刻がやや遅れて心配したが、無事開幕。観客の喝采を浴びて、閉幕した直後の未だ興奮冷めやらぬ舞台上で、佐々木忠次氏はフランス舞踊大学から「ディアギレフ賞」という氏にふさわしい名前の賞を授与された。その時の自身の舞踊活動の成功の喜びを少し抑えるようなまた噛み締めるような表情が、今でも脳裡に浮かんでくる。その場に立ち会えた私も、関係はないのに、いささか誇り高い気持ちになったものである。
もし、佐々木氏の活動がなければ、私たちバレエファンは、世界バレエフェスティバルが3年に1度開催され、モーリス・ベジャールの大作が次々と上演されたり、オペラ座を初めとする世界を代表するオペラハウスのカンパニーが定期的に来日するという、極めて優れたバレエの環境に居ることはできなかったかもしれない。そしてまたミハイル・バリシニコフ、ジョルジュ・ドン、シルヴィ・ギエム、パトリック・デュポン、マニュエル・ルグリといった希有のダンサーたちの特別な時期と出会う機会も持てなかったかもしれないのだ。
始まったばかりと思われた21世紀もはや15年を過ぎた。20世紀を代表したダンサーたちは、指導者として能力を発揮し始めているが、同時に、世界の舞踊界も変わりつつある。今後もそうした中で、日本に優れたバレエに接することができる環境が維持発展されていくことを願いたい。

小野、福岡のたおやかさと力感漲る踊り、木村、中家の伸びやかな踊りが際立った『ドン・キホーテ』

新国立劇場バレエ団
『ドン・キホーテ』マリスス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー:振付、アレクセイ・ファジェーチェフ:改訂振付

新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』が、3組のキャスト(米沢唯/井澤駿、小野絢子/福岡雄大、木村優里/中家正博)で上演された。新国立劇場バレエの『ドン・キホーテ』は、プティパ、ゴルスキーの振付に、ボリショイ・バレエ団でプリンシパルとして踊ったアレクセイ・ファジェーチェフが改訂を加えたヴァージョンを1999年に初演し、レパートリーとしている。
演出・振付は、2幕1場の居酒屋のシーンは、比較的スローな踊りで構成し、スペイン舞踊の特色を際立たせ、カスタネットが効果的に使われて印象を深めている。そしてこのシーンでは、呼び物のひとつである「バジルの狂言自殺」が成功。2幕2場の夜のジプシーたちのシーンと3場の森のシーンでは、キトリもバジルは出番はなし。この部分をドン・キホーテだけの逸話としているところが特徴だろう。このヴァージョンは、ジプシーの野営地のシーンでジプシーの踊りがないので、森の夢のシーンとのコントラストがもう一つ際立たない。また、几帳面に段取りをたどるようなところがみられ、物語の流れが素晴らしい、とまでは見られなかった。

tokyo1606a_1317.jpg 小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

私が観たキャストは小野絢子のキトリ、福岡雄大のバジル。森のシーンでは、小野絢子のドゥルシネア姫、木村優里の森の女王、広瀬碧のキューピッドがコール・ドとも一体となって、バランス良く踊り雰囲気を高めた。
しかし、やはり心に残ったのは、小野絢子と福岡雄大のプリンシパル・コンビの充実ぶりだろう。小野は持ち前のたおやかさに加えて、自身から全体のリズムを発信するかのようにテンポ良く踊り、舞台を引き締めた。また、福岡の充実ぶりも見事。もともと力強いダンサーだったが、あふれるようなエネルギーを巧みにコントロールして鮮やかな力感として舞台に漲らせることに成功している。終盤のグラン・パ・ド・ドゥは圧巻だった。今、まさに頂点を迎えようとするダンサー同士の美しさが、観客の喝采を呼んでいた。

tokyo1606a_0793.jpg 小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

そして木村優里のキトリ、中家正博のバジルも観ることができた。木村のキトリは、出色の踊りだったと思う。あまり細部には拘泥せず、身体の覚え込んだままを素直に伸び伸びと踊って、キトリの元気の良さと明け透けな魅力、そして若さの素晴らしさを見事に舞台に現した。近年観たキトリの中でも最も気持ちの良い踊りだった。この天賦の才能がキトリ役だからだ、と言われないように伸びやかに成長してほしい。中家正博のバジルも良かった。木村とのパートナーシップもスピードが合っていて良かったと思う。だだ少し暗い印象を与えてしまうところがあるので、もっともっと笑顔を積極的に現して欲しい、と願う。カーテンコールでもあまり笑顔がみられなかったし。
カスタネットの踊りを踊った堀口純が、スペイン女性らしい哀調を帯びた雰囲気のある表現をみせて踊り感心した。
(2016年5月4日、7日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1606a_1474.jpg 木村優里、中家正博 撮影/瀬戸秀美 tokyo1606a_1642.jpg 木村優里、中家正博 撮影/瀬戸秀美