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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.02.10]

名男性ダンサーだったチャブキアーニの華麗な踊りを復活した『ローレンシア』

ミハイロフスキー劇場バレエ(〜旧レニングラード国立バレエ〜)
『ローレンシア』ワフタング・チャブキアーニ:振付

『ローレンシア』は、旧ソ連時代の優れた男性ダンサーとして知られるワフタング・チャブキアーニが振付、1939年キーロフ劇場(現マリインスキー劇場)で初演された。音楽はA.クレインが作曲し、ナタリア・ドゥジンスカヤとチャブキアーニ自身が主演している。その後何回か改訂され、ボリショイ劇場で上演された時にもチャブキアーニが手を加えている。

tokyo1602b_1086.jpg 「ローレンシア」イリーナ・ペレン 
撮影/瀬戸秀美(すべて)

ミハイロフスキー劇場バレエ(〜旧レニングラード国立バレエ〜)の『ローレンシア』は、チャブキアーニの振付を首席バレエ・マスターのミハイル・メッセレルが、チャブキアーニ生誕100年を機に復刻演出している。
ミハイル・メッセレルはモスクワの著名な芸術家の家系の出身で、叔父のアサフはボリショイ・バレエでプリンシパルとして踊り振付家でもあった。母はスラミフィもボリショイ・バレエで踊り、日本の谷桃子バレエ団に『バヤデルカ』などを振付けている。過日、冥界に入ったプリマ・バレリーナだったマイヤ・プリセツカは従姉だった。プリセツカヤがボリショイ・バレエでこの『ローレンシア』を18番としていたのは有名だ。公演パンフレットにも掲載されていたミハイルの回想にもあるように、彼の母がチャブキアーニとともにボリショイ劇場で上演の準備をしていたことが記されている。
『ローレンシア』は、共産主義政権時代に反権力を貫いたプリセツカヤ、母と共に日本に亡命したミハイルの深い想いの込められた作品なのである。

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの戯曲『羊の泉』に基づく物語は、強圧的に村人たちの生活を抑えつける騎士団と村人たちの闘いを描いている。彼らに蹂躙された人々が主人公のローレンシアとフロンドーソの結婚式の当日、鍬や斧を武器に立ち上がり、騎士団を打ちのめす、というもの。
村人たちの生活と文化は、華やかに踊られる民族舞踊をクラシック・バレエ的に踊って表されている。舞台はスペインだが、チャブキアーニの故郷ジョージア(グルジア)風の踊りで色鮮やかに埋め尽くされる。独特の物語を語りかけるような踊りが、たいへん魅惑的だった。一方、騎士団に扮した人は演じるのみで、ひとつのステップさえ踊らなかったようにも見えた。
ローレンシアにはプリマバレリーナ、イリーナ・ペレンが、ローレンシアの恋人フロンドーソには、圧倒的な跳躍で知られるプリンシパルのイワン・ワシーリエフが扮している。
特にこの演目の名場面の第2幕の白い衣装のパ・ド・シスは、舞台を跳び出さんばかりの躍動感に溢れていて圧巻だった。この「白」は終幕で無残に汚されるのだが、それだけに美しく踊られた純白の印象が鮮やかだった。ワシーリエフの英国公演で命名された「ロケット・ダンス」も健在で、感激した観客に何度も何度もカーテンコールに呼び出され、彼もまた跳躍のサービスに努めていて微笑ましい交感の情景が出現した。旧ソ連の社会主義リアリズムの残滓が感じられなくもないバレエだったが、今日の目で観ると却ってすっきりとしてダンスのおもしろさが際立って感じられた。
(2016年1月5日 東京文化会館)

tokyo1602b_0808.jpg イワン・ワシーリエフ tokyo1602b_1180.jpg
tokyo1602b_1213.jpg tokyo1602b_1277.jpg
「ローレンシア」撮影/瀬戸秀美(すべて)