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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.01.13]

親しみ易い演目をフレンドリーな雰囲気で踊って"MIZUKA"がまばゆく輝いた公演

「Jewels from MIZUKA」「ジュエルズ フロム ミズカ」
『レ・トロワ・ジムノペディ』ローラン・プティ:振付、『ドン・キホーテ』第3幕よりマリウス・プティパ:振付ほか

東京バレエ団の人気のプリンシパル、上野水香が、第21回神奈川国際芸術フェスティバルと神奈川県民ホールの開館40周年記念行事の一環として、初めて自らバレエ公演をプロデュースした。題して〈Jewels from MIZUKA〉。
上野が神奈川県出身で、県民ホール年末恒例の〈ファンタスティック・ガラコンサート〉の常連にもなっていることから企画された。東京バレエ団のアーティスティク・アドヴァイザー、ウラジーミル・マラーホフをはじめ親しい仲間たちを迎え、ローラン・プティのバレエを継承するルイジ・ボニーノの参加も得て、古典名作のパ・ド・ドゥや新作、プティ作品もと、MIZUKAならではの多彩なプログラムが用意された。

tokyo1501c_0290.jpg 「シャブリエ・ダンス」撮影/長谷川清徳

オープニングは出演者紹介で、紗幕に映し出される枠の中に稽古着姿のダンサーたちが幕の後ろでポーズを取り、枠の上にそれぞれの名前が書かれるという洒落た演出だった。
前半で、上野は二つのプティ作品を踊った。プティの作品との出会いがバレエ人生の転機になったというだけに、こだわりがあったのだろう。『マ・パヴロワ』より“レ・トロワ・ジムノペディ”では柄本弾と組み、上野が肩車されての複雑な絡みなど精緻な会話を紡いでみせたが、柄本の動きは少々硬かったようだ。再び柄本と組んだ『シャブリエ・ダンス』では、上野は音楽に敏感に反応しながら、しなやかに脚を操って豊かな表現で印象付けた。柄本も瑞々しい演技で存在感を見せた。奈良春夏と木村和夫はしっとりとした味わいで、主役カップルに寄り添っていた。
沖香菜子と松野乃知は『パリの炎』を端正に踊ったが、今一つ華やかさが欲しいところ。『QLOCK』は、オープニングの演出も手掛けた元東京バレエ団の高橋竜太による新作(音楽:SINSKE「運命のドア」)。タイトルは造語で、疑問(Q)に閉じ込められた時計(Lock)の中でもがく人々のお話だそうだ。中央に置かれた時計の柄の傘の回りに数組のカップルが配されている。歩み入った男性が、本を読む女性に気付き、モジモジしながら近づこうとするのをきっかけにドラマが始まる。タイミングが合わない男女、自由に行動する男女など、それぞれのカップルを温かく見守るような高橋の視線が感じられた。
マラーホフは、予定されていた『イカロス』ではなく、マウロ・デ・キャンディア振付の『瀕死の白鳥』を踊った。白いパンツだけのマラーホフは、チェロが奏でる陶酔的な旋律にのせ、筋肉の動きも露わに身もだえ、限りある命の哀しさを訴えていた。前に観た時よりはかなさが真に迫ってきて、心に残った。

tokyo1501c_0542.jpg 「ドン・キホーテ」撮影/長谷川清徳

後半は古典が中心。『ジゼル』より第2幕のパ・ド・ドゥでは、渡辺理恵がしなやかな脚さばきをみせ、木村和夫も切れ味の鋭いジャンプをみせた。『白鳥の湖』よりアダージョは吉岡美佳とマラーホフ。踊り慣れている二人だけに、卒のないパフォーマンスだった。『ドン・キホーテ』第3幕よりは、キトリの上野とバジルの柄本を始め、パ・ド・トロワの乾友子と吉川留衣、梅澤紘貴など、賑やかな顔触れで上演された。上野が踊る古典作品はこれだけなので、バランスを長く保ち、鮮やかに回転技を披露するなど、存分に力量を発揮して座長としての存在感を示した。柄本もダイナミックな跳躍や回転で応えた。コーダのキトリとバジルの回転では、上野には河合まりあと川島麻実子が加わり、柄本には木村、梅澤、松野が加わり、揃って回転し続けて盛り上げた。
公演を締めくくったのは、ルイジ・ボニーノと上野によるプティの『チーク・トゥ・チーク』。上野とボニーノとの洒脱なやりとりには余裕が感じられ、ハイヒールで踊る上野の脚の美しさが、ここでも際立った。
上野にとって初のプロデュース公演だったが、親しみやすい演目を並べたこともあるのか、東京バレエ団のダンサーたちは団の公演の時とは違うフレンドリーな雰囲気を醸していた。もちろん一番輝いていたのはMIZUKAだった。
(2014年11月29日 神奈川県民ホール)

tokyo1501c_0569.jpg 「ドン・キホーテ」撮影/長谷川清徳 tokyo1501c_0613.jpg 「チーク・トゥ・チーク」撮影/長谷川清徳