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原 桐子 text by Hara Tohko 
[2014.04.10]

華麗でエネルギー溢れるフルステーとエトワールの風格漂うエイマンの完璧なパートナーシップ

BALLET DE L'OPERA NATIONAL DE PARIS パリ・オペラ座バレエ団
Rudolf Noureev "Don Quichtte" Chorégraphie et mise en scène d’après Marius Petipa
『ドン・キホーテ』ルドルフ・ヌレエフ:振付・演出、マリウス・プティパ:原振付

パリ・オペラ座バレエ団の日本公演、最初の演目は『ドン・キホーテ』、最終日を見た。
ミゲル・デ・セルバンテスの小説に基づくものでプロローグ付き全3幕、音楽はルートヴィク・ミンクス。ジョン・ランチベリーが編曲している。
振付はマリウス・プティパ版をベースにしたルドルフ・ヌレエフによるものでパリ・オペラ座初演は1981年3月6日、このバレエ団での上演は実に200回を超えるという。
主役のキトリはパリ・オペラ座バレエ団のスジェだが、現在、休職してサンフランシスコ・バレエ団のプリンシパルを務めるマチルド・フルステー。バジリオはパリ・オペラ座エトワールのマチアス・エイマン。

tokyo1404c01.jpg フルステー、エイマン
photo : Kiyonori Hasegawa

プロローグはドン・キホーテの書斎。そこへドン・キホーテがどこかで居眠りでもしていたのだろうか、運ばれてやってくる。小間使いや3人の女性が出てきて暖炉に本などを放り込んで燃やしてしまうところや、旅にでかけようとするときにサンチョ・パンサが見送ろうとしてドン・キホーテに連れて行かれる、そうしたマイムがミンクスの陽気な音楽にのりコミカルで楽しい。
華奢なスタイルなのにとてもエネルギーあふれるフルステー。黒髪に赤の髪飾りが映え、おきゃんな街娘キトリそのものだ。ジュテは高さがありアティテュードもきれいなラインを描く。力みがなくてナチュラル、かつコケティッシュな魅力があり、他の女性にちょっかいをだそうとするバジリオをたしなめる仕草も可愛らしい。2幕のドルシネアはもう少しだけしっとりと、姫らしい表情で踊ってほしいとも思ったが、全体に踊る喜びがストレートに伝わってきて好感がもてた。
結婚式のヴァリエーションではグラン・フェッテの前半、ほとんどダブルで軽々とこなし、バランスキープも長く余裕があり音楽とぴったり合っていた。
エイマンも今やもう揺るぎないエトワールの風格がただようダンサーとなった。堂々として自信たっぷり踊り、バジリオが文句なくはまる。キャスト変更などであまりたくさんのリハーサルはなかったはずだが、それをまったく感じさせないフルステーとのパートナーシップ、ポジション、あらゆるムーブメントが正確で伸びやかで力強い。間違いなく、ヌレエフの華麗なステップを堪能できるダンサーの一人だ。
また演技にも茶目っ気があり、ジプシーに変装したにも関わらず、追いかけてきたキトリの求婚者ガマーシュの前で付け髭をわざと取るところなどは微笑ましい若さを表していた。

エスパーダはヴァンサン・シャイエ、街の踊り子にはサブリナ・マレム、スペイン風味はやや薄いが、パリ・オペラ座らしいエレガントな二人。ドリアードの女王にはエトワールになったばかりのアマンディーヌ・アルビッソン。着地の音が少し気にならなくもないが女王らしく威厳もあったし、さらに磨きをかけてほしい。
音の取り方がユニークで目をひいたのはクラシック・チュチュ姿のキューピッドを踊ったミリアム・カミオンカ。テクニックで魅せるタイプもいいがプロポーションが抜群ではなくとも彼女の様なダンサーが醸し出す空気、幻影の場面でその可憐さは目を引いた。
このヌレエフ版は一見地味に映ることもあるが、ジプシーの野営地など三角形を描いて進むものやアシンメトリーな群舞のフォーメーション、男性ダンサーたちの足さばきは細いステップの連続で見応えがある。
舞台装置や衣装も色合いがいわゆるいかにもスペイン風ではなく、渋めの凝った色合いのもので素敵で洗練されている。『ドン・キホーテ』は日本でも多くのバレエ団が上演している演目で観られる機会が多いのだが、かえって新鮮に楽しむことができた。
蛇足だが、公演前からミリアム・ウルド=ブラーム、リュドミラ・パリエロが怪我で降板、ジョシュア・オファルトもスケジュールの変更で降板が相次ぎ、主役ダンサーが入れ替わるというアクシデント。15日夜の公演ではバジリオを踊っていたカール・パケットが怪我で1幕の途中で降板、2幕からはヴァンサン・シャイエが急遽、代役を踊りアクシデントを乗り切り健闘した。怪我をしたダンサーたちの1日も早い回復を祈る。
(2014年3月16日 東京文化会館)