ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2013.12.10]

舞踊も文化的背景も異なったギエム&カーンの差異を生かした濃密なステージ

Sylvie Guillem & Akram Khan シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン
“Sacred Monsters” Artistic Direction & Choreography by Akram Khan
『聖なる怪物たち』アクラム・カーン:芸術監督・振付

舞踊のジャンルも文化的背景も異なる二人が、その差異を活かして濃密なステージを展開し、鮮烈な印象を残した『聖なる怪物たち』が、4年振りに再演された。中央を斜めに切り取ったような白い壁が背後に置かれただけのシンプルな舞台で、それぞれが歩んできた道を、台詞を交えて振り返るような形で進行した。ちなみに、ギエムはフランス人で、クラシック・バレエで評価を確立したが、コンテンポラリーまで幅広くこなしている。カーンはイギリス人だが、バングラデシュ出身の両親の下でイスラム教徒として育てられ、コンテンポラリー・ダンスのほかに、カタックというインドの古典舞踊も学んでいる。

カーンとギエムが腕や体に巻いた鎖を受け渡し、はずすという暗示的な導入部に続き、カーンがギエムとバレエの関わりについて語るうちに、ギエムがソロを踊った。鋭く上げた足先をくねらせ、高く上げた脚を下ろしながら後ろに回すなど、バレエとは異なる難しそうな振りをこなし、優れた身体能力を発揮した。このソロは台湾のクラウド・ゲイト舞踊団の林懐民の振付。バレエの枠に縛られずに自ら道を切り開くというギエムの意志表示なのだろう。
一方、カーンは、後退した髪でクリシュナ神の役を踊れるか悩んだ話をして笑いを誘いながら、高速で旋回し続け、床を激しく打って足首に巻いた鈴を鳴らすなど、カタックの妙技を披露した。この部分はインド出身のガウリ・シャルマ・トリパティの振付だ。カーンのクリシュナにまつわる話は続き、ギエムと向き合い、手をつないだまま腕を波のように揺らせたが、クリシュナが弧を描く動きで表わされることを受けての振りだろう。けれどダンスでの一番の見せ場は、照明が落とされた舞台で、ギエムがカーンの腰に脚をからめたまま上体を水平に保ち、シヴァ神が女神を抱いたような構図で、横に伸ばした腕を二人が滑らかに動かした場面だろう。静けさを湛えた神秘性の漂うデュオで、ギエムの体幹の筋力のすごさにも驚かされた。

最後は、汗で濡れた床をギエムが「アブナイ」と言って、一緒にタオルで拭いた後、二人が明るい音楽にのせて縄跳びするように跳ね、戯れるように無邪気に踊っているうちに暗転し、75分のステージは終わった。この作品では語りや対話も重要な位置を占めており、含蓄のある言葉も聞けたが、迷った時にどう考えてのり越えたかなどのエピソードは親しみを感じさせ、それぞれの素顔がのぞけたようで面白かった。全く異質の二人のコラボレーションは、それぞれの個性をより輝かせると同時に、補完しあって新たな境地を探るのを楽しんでいるようにも見えた。ダンサーたちのそばで歌ったヴォーカリストや器楽奏者たちが奏でた音楽は、異国の情緒を漂わせて心地よく響いた。なお、“聖なる怪物”とは、19世紀のフランスで、サラ・ベルナールのような演劇界の大スターに対して使われ始めたニックネームだそうだ。
(2013年11月28日 ゆうぽうとホール)

tokyo1312c_0049.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1312c_0209.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa