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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.08.12]

音楽の構造とクラシック・バレエのパを巧みに共振させたウヴェ・ショルツの傑作

東京シティ・バレエ団「トリプル・ビル〜シンフォニック・バレエの世界〜」
『レ・シルフィード』金井利久‥再振付(フォーキンによる)『マイ・セルフ』『挽歌』石田種生‥振付、『ベートーヴェン交響曲第7番』ウヴェ・ショルツ:振付

東京シティ・バレエ団が創立45周年記念公演シリーIVとして、「トリプル・ビル〜シンフォニック・バレエの世界〜」を上演した。

tokyo1308e_01.jpg 『レ・シルフィード』 撮影/鹿摩隆司

第1部『レ・シルフィード』は、ショパンのピアノ曲にミハイル・フォーキンがバレエ・ブランへのオマージュとして振付けたもの。東京シティ・バレエ団の設立より踊り、現在は理事、バレエマスター、振付家、バレエ学校長を務める金井利久が再振付けした。詩人役は黄凱、プレリュードは若生加世子が踊った。

第2部はカンパニーの設立メンバーであり、早くから振付家としても多くの作品を発表してきた石田種生のオリジナル作品。ショパンの「前奏曲ホ短調」を使った『マイ・セルフ』とシベリウスの交響詩「トゥオネラの白鳥」による『挽歌』が上演された。『マイ・セルフ』はパ・ド・ドゥだが、ショパンのピアノに合わせて心境を描いた静謐なもの。土肥靖子と小林洋壱が踊った。『挽歌』は、真紅のスポットがフロアにあてられ、それに合わせた鼓動を思わせる音か次第に弱まって行く。そして黒い六人の女性ダンサーが様々なフォーメーションを形作る。それは命というものの儚さ、不可思議を表わしているかのようだ。「トゥネラの白鳥」が鎮魂の曲ででもあるかのように、深い悲しみをたたえた情感が静かに描かれ、やがて命の灯が途絶えた。

tokyo1308e_03.jpg 『マイ・セルフ』撮影/鹿摩隆司 tokyo1308e_04.jpg 『挽歌』撮影/鹿摩隆司
tokyo1308e_02.jpg 『レ・シルフィード』 撮影/鹿摩隆司 tokyo1308e_08.jpg 『ベートーヴェン交響曲第7番』撮影/鹿摩隆司
tokyo1308e_05.jpg 『ベートーヴェン交響曲第7番』撮影/鹿摩隆司

今回公演の呼び物は、ライプツィヒ・バレエ団の芸術監督として多くの作品を手掛けて称賛を浴び、2004年45歳で急逝したウヴェ・ショルツ振付の『ベートーヴェン 交響曲第7番』。
冒頭から巧みな動きの構成を見せ、ぐんぐんベートーヴェンの楽曲の荘厳な響きの世界に聴衆を引き込んでいく。音楽の構造と、クラシック・バレエのパによる動きの構成を有機的に共振させる術がじつに巧みだ。色彩的なイメージはアメリカの抽象主義的画家モーリス・ルイスの絵から援用していて、優れたモダニズムの香りを漂わせ斬新な印象を与える。彼の創る動きそのものに潜むリズムが音楽が描くリズムと会話を交わして、舞台の上に目には見えない命が息づいているかに感じられる部分もあった。ダンサーたちが作品への敬意を抱いてい踊っていたので、舞台は大いに盛り上がり、踊りきった時には達成感が感じられたに相違ない。とりわけ終始舞台を引き締めたソリストたちの活躍を称えたい。今後のカンパニーのレパートリー形成に寄与するのではないか、と思われた。
しかし、カンパニーにとっては大いに有意義な公演であっても、バレエを論じる者はいたずらに絶賛して事足れりとするならば、停滞の誹りを免れないだろう。金科玉条のように「音楽の視覚化」だとか天才だとか大騒ぎしても意味はない。われわれはすでにバランシンやアシュトンあるいはサープやウィールドンはたまた近くはスカーレットのバレエを知っている。バランシンは神話を音楽と融合した動きによって視覚化したし、アシュトンの『ラプソディ』は、音楽を凌駕した極限のバレエの美しさを造形した。そうした作品をおさえた上で、「感動に震えて」しまったり「胸苦し」くなってしまう前に、相対化して論じるのが、バレエを語る人間の務めである。
確かに、音楽はバレエにとって生殺与奪の力を持っているかも知れない。しかし、バレエは物語(ロマン、スペクタクル)はもちろん、神話や哲学、狂気、グロテスクあるいは超感覚、といったものをも融合し表現する芸術であることは、舞踊史が証明している。
(2013年7月20日 ティアラこうとう大ホール)

tokyo1308e_06.jpg 『ベートーヴェン交響曲第7番』撮影/鹿摩隆司 tokyo1308e_07.jpg 『ベートーヴェン交響曲第7番』撮影/鹿摩隆司
tokyo1308e_09.jpg 『ベートーヴェン交響曲第7番』撮影/鹿摩隆司 tokyo1308e_10.jpg 『ベートーヴェン交響曲第7番』撮影/鹿摩隆司